【136話】魔獣と猛獣
注意:無断転載事件をきっかけに。後書きに、力を入れることがありますが、あしからず。
グールがこちらを認識して、襲いかかってきた。
「さあ領主様、戦ってみて下さいな」
「ピンチの時は、助けますから」
「貴族のご飯、ゲットだぜ」
ユタの戦士は、ニヤニヤしつつも、竹筒の水を武器に振りかけて、僕を援護する準備をしている。
ああ、なるほど。
あの水は『聖水』だったか。
それなら、対アンデッド戦で有利に戦えるな。
それなら、僕の戦法はこれだ!
僕は武器をこの場に置いて、素手でグールに立ち向かった。
「ばっ」
「バカな!?」
「素手で戦うだと!?」
「新しい領主は、バカなのか?」
「おい、どうする? 魔獣用の毒消し草を準備するか?」
「いや、それは勿体ねえ。後で、町の治療所に連れて行けば良いだろ? すぐに死ぬ毒じゃないし」
やっぱり、後半の3人は特別にお話が必要ですね。
でも今は、グールと遊ばなくちゃ。
僕ほどのクレリックになると、アンデッドモンスターに有効なオーラがにじみ出ているので、素手の攻撃でも、下手な武器を持つより効果がある。
戦ってみると、このグールはかなり強い。グールのモンスターレベルは通常『3』だが、ここのグールはモンスターレベル『5』程度の強さがある。
要するに僕は素手でだと、そこそこ苦戦してしまうって事だ。
「えっ」
「嘘だろ!?」
「魔獣相手に圧倒してるだと」
「今度の領主は、まるで化け物だな」
「素手で、なんであんな戦い方が出来るんだ?」
「俺たちが、聖なる水を使って2人掛かりで戦っていっぱいいっぱいの魔獣を……」
もう少しか……ここまでおよそ100秒、最後はわざと噛ませてから止めを刺す。
「ふう、思ったより強かったな」
戦い終わって、ハンマーを取りに戻る。
「化け物?」
「化け物だ!」
「化け物だよな?」
「けど、最後に油断したな」
「ああ、思いっきり噛まれていたな」
「今日の探索はここまででだ、早いけど町に戻ろう」
僕を人外あつかいして、町に戻ろうとする。
「まて、まて、魔物見学はこれからだぞ」
「はあ? 領主様、さっき噛まれましたよね? ちゃんと治療しないと、毒で痺れてしまいますよ」
「はぁ、こんなんで麻痺毒にかかるの? ちょっと鍛え方が足りないんじゃないの? こんなの普通の水で軽く洗い流して拭けば、はい、元通り」
噛まれて判ったけど、グールの麻痺毒は普通の麻痺毒だと推測出来る。
だって、全く効かないんだもの。
そして転生前と同様、軽い毒は、ほぼ効かない事が判った。
だだ、高等学院時代は、そこそこ毒が効いていたから、毒耐性は前世の影響なのは間違いない。
じゃあ15歳の僕は、まだ完全体じゃないから、もう少し丈夫になれそうだな。
僕はスキップして、森の奥に進んだ。
死体が闊歩する、魔の森……楽しすぎる。
すると次はゾンビドッグ、いわゆる動く犬の死体が4体仲良くやって来た。
「あっ」
「しまった」
「犬型が4体も」
「領主様のせいで策敵に失敗した」
「領主様に責任を取ってもらって、2体任せよう」
「領主様、我々が2体も引き受けるので、残りの2体を頼んでも良いでしょうか、って任せましたから」
こいつらの会話には、法則性があるのか?
「チッ、チッ、チッ、だめだめ。今、僕はすごく楽しいんだ。横取りはなしだよ」
そのままゾンビ犬に突っ込む。
ゾンビ犬のど真ん中に着いたら、上空を見る。
「第1レベル呪文……ホーリーウォーター」
上空、少し高目の地点に聖水を出した。
枝や葉、空気抵抗で、一塊の聖水が分裂してシャワーのように降り注ぐ。
「グィィィィィィ」
「ゴァァァァァァ」
「ギゥゥゥゥゥゥ」
「ガォォォォォォ」
「面白い、強くなってる半面、弱点が顕著にあらわれているな。オラオラオラオラ、オラァ!!」
しまったぁ! 楽しむ前に、全滅してしまった。
「い」
「今のは」
「聖水だと!?」
「あんなに大量にか?」
「それに、どこから涌き出てきた?」
「今度の領主は、正真正銘の化け物だっ!!」
いつも同じ順番で話てるけど、最初の1人目の会話が少なすぎる件。
昨日まで、東西で仲違いしてたんだよね?
面白いから、次のモンスターが来たら譲ってあげよう。
「次はスケルトンが2体来る。今回は君達にあげるよ」
「えっ」
「スケトン?」
「何ですかそれは?」
「あっ、魔獣が来た、白の奴だ」
「いったい、領主様の目はどうなってんだ」
「それよりも、領主様の命令だ。魔獣2体気を引き締めて倒せ!」
緊張してるみたいだけど、気後れはしていない。
スケルトン2体とユタの戦士6人なら、問題ない様だ。
スケルトンは剣と盾を装備していて、ユタの戦士と戦う。
2人の盾要員が、防御に集中して、隙が出来ると、大ハンマーを振り抜いて攻撃している。
いい感じで戦っているけど、最弱な筈のスケルトンがそこそこ強い。
ここで、本日2回しか覚えていないアレを使おう。
「第3レベル呪文……ホーリーライト」
突然の光に驚くユタの戦士たち。
だが、それ以上にスケルトンが弱体化して、余裕の展開になっていった。
「今の」
「光は……」
「もしかして」
「領主様が照らした」
「光なのですか? 昔話で聞いた」
「事がある。清い光の魔法で魔獣を弱らせる者がいたと」
そろそろ『ユタの戦士たち』から『ユタの漫才師たち』に呼び名を変えるか。
スケルトンを倒すと、剣と盾はそのまま残った。
それをユタの戦士たちは、拾い集め素材として持って帰る様だ。
もしかして、僅かな鉱物が手に入るって、剣と盾の事だったのかな?
そろそろ帰りたいと言う、ユタの戦士たちを無視して、もう少し森の中を散策してから町に戻った。
町では、収穫が普段の3倍あると喜ばれ、僕の評価も少し上がった。
しかし。
「もうヤダ」
「もうイヤ」
「アレは、化け物だ」
「魔獣の方が可愛い」
「領主様とは、絶対に魔獣狩りに出かけねぇ」
「領主様とは、魔獣狩りには絶対に行かねえ」
ユタの戦士たちは、疲労のせいか、ぐったりしていた。
明日は、朝から猛獣見学だ。
自分の勤勉さに、感心してしまうな。
◆
◇
◆
今度は、別のユタの戦士たちと、大森林南側に視察に出掛けた。
今回は、東西で大盾2人、大剣2人の4人と僕の5人編成。
僕は、ハンマーを担いで軽やかに歩く。
「領主様、ここの猛獣は種類は少ないですが、恐ろしい猛獣ばかりです。けっして油断しないようにして下さい」
「中でも、六本足の青い大きな猛獣は危険です。我々はサイセンさんがいる時にしか、南の森にはいきません」
「伯爵様、そのキャットスパイダーが出たらマジで注意してくれよな」
「ああ、伯爵様が俺らより強いからって、油断した瞬間、命を失う」
大剣を持っているのは、先に闘ったトウセンとサイセンだ。
普段はもっと大人数で出るらしいけど、東西ナンバー1の戦士が来てくれたから、5人編成になった。
彼らの話から、主に怖い猛獣は『キャットスパイダー』『クラッシャージョー』『グレートスタンプ』の3種だそうな。
特にキャットスパイダーは見かけたら最後、猛然と突っ込み襲ってくるらしい。
ドキドキするな。
そして、早速生物の気配。
「みんな来るよ、ドキドキ」
「うわっ、いきなりキャットスパイダーだぁ!?」
「落ち着けっ! ここにはトウセンさんと、あのサイセンもいる。1体なら何とかなる」
だが、僕は2人の会話を、ほとんど聞いてなかった。
だって、目の前に居るのは美味獣『ニクガクルガ』だったからだ。
こいつは、僕らに食べられるため、けっして逃げようとしない、ご馳走確定の生物だ。
しかも、こいつの吐く糸は下処理すれば、ネバつかなくなり、弾力のある丈夫な紐に早変わり。
こいつの糸で、ハンモックを作って、そこで肉を食べる。
楽しそうな未来が見えてきた。
引っ越して来て良かった。
マニュエル侯爵に、お礼の手紙書かなきゃ。
「ヒャッホウ!!」
僕は猛然と、ニクガクルガに向けて走った。
「えっ?」
「なっ!」
「伯爵様?」
「伯爵様!」
僕を呼ぶ声がしたけど、今は目の前の新鮮な肉。
吐き出す糸を避けながら攻撃する。
何度か殴ったが、僕の知るニクガクルガより少々強い。
理由は解らないけど、駆け出しの戦士では荷が重いのは理解出来た。
「うわぁぁぁぁ!!」
「キャットスパイダーがもう1体きたぁ!!」
何と、背後からご褒美の追加!?
やめてくれよ、涎が出るじゃないか。
なら、このニクガクルガは下処理を気にせず、落としてしまおう。
「第4レベル呪文……リバース……クリティカルダメージ」
全身から血を吹き出して倒れるニクガクルガA、皮はズタズタになり、素材としては使い物にならなくなったが、ニクガクルガBがいますから。
「お前ら、次の肉も僕が絞めるから、今倒した肉の処理をやって」
唖然とする、4人を背中にして、もう1食のニクガクルガの処理を開始する。
こいつも強い。皮に気遣いながら始末するには時間が掛かりそうだ。
なら、会心の一撃を頭部に叩き込んで、隙が出来た時にアレを使おう。
「今だ! 第6レベル呪文……リバース……エクスキューション」
この、二段階目のレイズデッドの逆呪文『エクスキューション』は、呪文の力に耐えられれば大怪我、耐えられなければ命を失う。
そして、いくらパワーアップしてるとはいえ、エクスキューションに耐えられず、綺麗な姿のまま死んでいった。
『肉が来るが』を背負って、解体してるユタの戦士たちの所まで行く。
「うおっ!」
「うわぁ!」
「伯爵様、もう倒したのか?」
「俺が仲間と数人がかりでやっとの、あのキャットスパイダーを単独で」
「そんな事より、こいつの肝を取り出して焼いてしまおう。こいつは直火で熱を加えると物凄く美味しくなる」
「……」
「……」
「昨日のあいつ等が、ぐったりした理由が、だんだん解ってきた」
「ああ、トウセン。俺も今、そう思ったところだ」
サイセンが小道具を出して、火をおこしている。
木板の土台に、木の棒を回転させて火をおこす手法。
木の棒には、溝が掘ってあり、紐が溝にうまくはまって、回転を容易にさせている。
待つこと約50秒。
サイセンは巧く火をおこす。
「ふっ、どうよ?」
「さすが、サイセンさん。どうだ? 凄いだろ」
「ああ、俺でもそこまで速くねえ。サイセン、お前の勝ちだ」
「トウセンさんか敗けを認めた……ところで領主様は?」
みんなで、僕を見る。
しかも、挑戦的な瞳で僕を見る。
「やってみても良いけど、3分以上は費やすと思うよ。ナイフは持ってる? ちょっと貸して」
まず、ナイフと食材を用意して、調理するためのお祈りをする。
これをしないと、僕は刃物が使えない。
森の中から、丁度良い竹を見つけた。
竹が生えているのは、この町に来るときに分かっていたからね。
竹を適度に切り分け、ナイフを垂直に立てて削る。
力の加減を変えて、鰹節の薄さにしたり、紙の薄さにしたりする。
後は、斜めにして画用紙程度の薄さに切る。
この、3種の竹くずが着火材になる。
竹を縦半分に割り、かまぼこ形にしてから、曲がった場所を削る。
削った場所に、僅かな穴が空いたら、土台の完成。
土台の下に着火材を詰めて、適度に切った竹と擦り合わせる。
摩擦で竹が高熱を帯びて、火種を生み出す。
火種は竹の僅かに空いた穴から、落下して着火材に落ちる。
「ふっ!!」
その、タイミングで息を吹き掛け炎とする。
消えないように薄く削った竹屑をどんどん投入して、厚みのある竹屑に移行する。
「はい、出来た。正確な時間は計ってないけど、5分弱はかかったかな?」
「……」
「……」
「……」
「……」
メラメラと燃えている火と僕を見て、無言の4人。
(全く材料のないところから、火をおこした!?)
(しかも、あんな技法初めて見た!!)
(5分と言っても、ほとんど祈りと材料探しに、時間を使ってたぞ)
(着火時間はおよそ、30秒)
「「「「ば、化け物だ!」」」」
……失礼な奴らだな。
……
…………
「う、美味い!?」
「味付けしてないのに何故?」
トウセンとサイセンに、軽く炙った肝を食べさせる。
「だろ? こいつの肝は、直火で焼くと何故か旨味成分が出まくるんだ。だから表面だけ焼いて、生の良さと焼いた時の味わい両方堪能するんだ。だけどこいつの肝は腐るのが早いから、残念だけど帰るか」
でも、ピュリファイフードを使えば、新鮮な状態に戻せるけど、今は内緒だ。
片付けていると、別の生き物の気配がした。
ガサガサッ
「しまったぁ! ここが危険な森だってのを忘れてた!」
「何故だ、何故そんな当たり前の事を失念していたんだ!?」
僕のせいじゃないですよ?
「うわぁぁぁ! グレートスタンプだぁ!!」
「あの巨大な鼻に、潰された仲間が何人もいる、最悪の猛獣だ!」
バカでかい鼻の後ろには、丸々と太った猪。
ミートボアじゃねえか。
こいつも恐るべき特長があって、煮たり、茹でたりすると、トロトロに柔らかく美味くなる、ご褒美モンスター。
森のシェフ、ランディの活躍シーンを見せてあげましょう。
しかし、こいつも僕の知る個体とは違ってかなり強い。
弱点を突いたのに、一撃で仕留められない。
「第2レベル呪文……オグルパワー」
さっきは命中させる事に気を使ったが、この程度なら、命中率を下げて一撃に力を注ぐ。
「おらぁ!!」
『茹で肉』は気絶した。
「ようし、捕獲完了。トウセン、サイセン、丈夫な紐はあるか? なければここで血抜きしちゃおう」
「もうやだ」
「お家帰る」
なんか、2人ほど幼児退行してますが、何があった?
……
…………
ホクホクで町に向かって、歩いていると。
またしても食材の気配がする。
「今度は、クラッシャージョーだと!? 伯爵は疫病神か?」
「だが、こいつには対処法がある。目をけっして合わせるな。そうすれば助かる。伯爵様、聞いてるか? だから目を合わせるなって。伯爵、止めてくれぇ!!」
トウセンとサイセンがうるさいけど、目の前にいるのは、リビドーモンキー。
肉の味は大した事はないが、滋養強壮に良いんだ。
筋肉はまるでプロテイン。
脂肪はスタミナアップ。
内蔵は不病長寿。
金玉は精力増強と、ありがたい生物なんだ。
ただ、僕をもってしても強敵で、モンスターレベル18もある。
もし、リビドーモンキーが強化されていたら。
修行に使えるかも。
こいつは、目を数秒間合わせると、戦闘開始の合図になるから、戦いやすい。
リビドーモンキーと目を合わせる。
僕の目を見ると、3秒で逸らし方向転換して走り出す。
あっ逃げた……うそっ。
「待って、僕たちは君の肉を求めているんだ! こら逃げるなっ!! 残さず食べてやるから待つんだ。おい、こら!」
僕は走って追いかけた。
「クラッシャージョーが逃げた!?」
「て事は、あの猛獣に危険と思わせるくらい、伯爵様は危険なのか?」
「パパー、ママー」
「あぶあぶ、だぁだぁ」
◆
◇
◆
僕ら5人は、無事にユタの町に帰ってきた。
道中、ニクガクルガやミートボアと遭遇したので捕獲して下処理をしておいた。
収穫は、
キャットスパイダー『ニクガクルガ』3体。
グレートスタンプ『ミートボア』2体。
クラッシャージョー『リビドーモンキー』1体。
軽く出掛けただけなのに、この収穫は中々の物だった。
ただ6体中5体を、僕が引きずって運ぶのは、どうかと思うんだが。
町の人たちが、集まりだした。
「魔の森はどうだったか? もの凄い収穫だけど、危険じゃなかったのか?」
「いや、危険だ。危険すぎる」
「ああ、出来れば2度と入りたくない」
「え~ん、え~ん」
「びぇ~、びぇ~」
疲れきったトウセンとサイセン、赤ちゃん返りした2人と、収穫を交互に見ながら、ユタの民は首を傾げる。
「「こいつとだけは、一緒に森に入りたくない!!」」
なんか、調子に乗ったみたいで……
そして、僕より先に出発した、食料、調味料の支援物資隊が到着した。
そう、僕がユタの町に来てから、4日目の事だった。
バカ王子「レバニラ炒め定食が欲しい」
イケメン「スピア、唐突に思い出しますね。私は野菜炒め定食ですかね」
弟子「他の商会に、金で移籍した者らは使えない事がわかって解雇されているらしい」
信者「1部の貴族で、シャンプーは何処に売ってるの? と騒ぎになっているらしい」
バカ王子「シャンプー? なんだそれは」
イケメン「ランディが王都を出る前に、あちこちの婦人に配った洗髪料ですね。さっぱりと綺麗になった上ほのかなよい香り、見た目も美しくみえるそうで、躍起になって探しているそうです」
弟子「王都にある洗髪料とは比べ物にならないって聞いた」
信者「我らが王は、シャンプーを買い付けないと夜の営みは、お預けと王妃に言われてたのを見た」
キンジ「わかる、わかりますよユタの町のみなさん。僕もアーサーさんとサバイバルゲームをした時は、死にそうでした。虫のフルコースを食べさせられたり、狂暴なクマがアーサさんに土下座してたり……ガクブル」




