【99話】アルテシアンナ⑧
ある場所を囲むようにして、軍隊が展開していた。
その軍を束ねる将が座る天幕の中に、1人の指揮官が入っていった。
「ドルイズ様、例の奴等は全て排除完了しました」
「うむ、兵との接触はなかったな?」
この天幕の中には、今入ってきた男を含めても5人しかいない。
多くの者に、知られてはいけない話をしている様だ。
ドルイズと言う男は、この軍隊を束ねる者だ。
「はい、接近と同時に命令通り、弓にて始末しました。私が確認したところ、間違いなく例の者達でした」
『例の者』とは、家族を人質にとり、食料に毒を仕込む役割を持った者を指す。
「うむ、これから戦う相手は『貴族の名を騙った盗賊』でなければ、いけないからな」
「はっ、しかし戦いに……なるのでしょうか?」
この、男は大の大人が、弱りきった子供相手に戦うような物だと考えていた。
「ヒュンケルとの共同作戦では、敵を出来るだけ弱らせてから殲滅する事になっている。うまく事が運んだなら、今ごろ3分1は毒死していることだろう。しかも、残りの食料全てに毒が混入しているはず。3日も待てば全て毒死しているか、飢えて飛び出すであろう。ならば戦いにならないかも知れない……が、油断はするな。この戦は1人たりとも逃がしてはならぬ戦いだからな」
ヒュンケルとは、ドルイズと同格の将であり、王位継承権第二位のエンカム公爵に対して、同様の作戦で殺害計画を実行する軍隊の将だった。
「もし、あ奴等が失敗していたら、4日目又は5日目に総攻撃ですね」
「そうだ、4日目に敵の疲労度確認するため、小手調べをするがな。ドルデルガーの次の補給地は近くない。異常に気づいて此処に来るまで、早くても20日以上を費やすだろう」
「その頃には、謎の盗賊に無惨にも殺害されている……と言うわけですね」
「うむ、そして次期国王は、我らが主ユーロガッポ様だ。そうなれば、我々も軍部で最高の地位に就くことが出来よう」
「ユーロガッポ公爵様万歳!!」
「ユーロガッポ公爵様万歳!!」
「ユーロガッポ公爵様万歳!!」
「ユーロガッポ公爵様万歳!!」
ユーロガッポ公爵は、自身の貴族生命を賭けて、暴挙に乗り出した。
◇◆◇◆◇
毒による混乱が収束しはじめた頃、ドルデルガーさんを呼んで話をした。
当然、ドルデルガーさんのところには、もっと詳しい情報が入っていて、正体不明の軍隊は1000人を超すかもしれないって話だ。
こっちの兵はおよそ80。
しかも、毒によって助けられなかった者も、若干数いる。
今、攻められたら墜ちるな。
それよりも、聞きたい事があったんだ。
「ドルデルガーさん、ここに常駐していた人は?」
「ああ、彼等なら救援を呼ぶと言っていたが……」
「まだ、間に合うなら捕まえてください。犯人はその中にいます!」
(もしかしたら、全員犯人かもしれないけど……)
……
…………
僕の予想はちょっとだけ外れて、二組の夫婦以外全てが犯人だと確信した。
彼等は、2つの門から出て行って、弓で射殺されていた。
何故だ? この状況を伝えれば、今が攻め時だって解るだろうに。
誰かが叫んで走り出そうとしていた。
「私が話を付けてきます。王位継承権第三位のドルデルガー公爵だって言えば、ビビって道を空けるに違いないっ!」
偶然にも手頃なロープがあったから、その男性の脚に巻き付ける。
僕の鞭捌きは戦闘には使えないが、曲芸程度なら出来るんだよ。
脚に巻き付けられたせいで、空気の読めない男は盛大に転ぶ。
「なっ、何をするんだっ!」
「えっと、君の命を助けたんですが? 良いですか? 相手はドルデルガー公爵と知っていながら、毒殺を実行したんですよ? しかも実行犯を問答無用で射殺したほどの徹底ぶり。僕たちを1人でも生かしておくと思いますか? よく考えてください」
「そんなバカなっ、ドルデルガー公爵だぞ、そんな事があるわけ」
「よい、ランディ男爵の言は正しい、きゃつらは我々全ての抹殺が目的なのは明らかだ」
「……」
ドルデルガーさんは理解が早くて助かる。
さて、後は任せるとしよう。
「ドルデルガーさん、申し訳ないのですが休息を取らせてください。魔力がスッカラカンなんで」
「うむ、聞いているよ。ランディ君に助けられた命は10や20どころではないとな。君の魔力が枯渇していなければ、人間なのかと疑ってしまうところだよ。存分に休むといい」
……
…………
………………
目が覚めると、時間は夕暮れ時だった。
隠れていた場所を飛び出して、塀の上に登る。
見張りをしている人達の視線が熱い気がしたんだけど、今はそれどころじゃない。
この小さな砦を囲う様に、びっしりと軍隊が展開している。
1人も逃がす気はないらしい。
だが、何故攻めてこない?
砦の上を一周しながら考えてみる。
ここから得られる情報は少ないが、解った事がいくつかある。
1つ、敵兵力は千人を超えている。
2つ、攻める側に時間的余裕がある。
3つ、敵は完全有利なのに、油断の気配が見られない事から、手練れの軍隊だと思う。
4つ、間者を使って毒をいれたり、これだけの兵力を動員出来ることから、相手は軍部高官又はドルデルガーさん並か、それ以上の大貴族である。
まあ、今回の敵はユーロガッポ公爵だと確信に近い予想をした。
問題は何時、攻めて来るかだよな。
とりあえず、ゆっくりと休めた事のお礼に、ドルデルガーさんのところに行こう。
しかし、意外な邪魔が入って、遅れてしまった。
それは、今朝がた連続解毒をしたせいで、一部の兵士達に捕まり、礼や兵がどれだけ感動したか説明されたりして、まともに進めなかった。
そして、やっとドルデルガーさんの所までたどり着いた。
「あら、小さな英雄が来ましたわよ?」
ライム姉ちゃんまで、そんな事を言ってる。
「ゆっくりと休めました、ドルデルガーさん。それで、食料やみんなの様子はどうですか?」
「ああ、ランディ君や、皆の努力の甲斐あって、生存者は全員元気だ。ただ補給用の食料は毒が混入していた。さらに井戸の水までも……」
「数日分の保存食はあるのだが、水の方は補給できる事になっていたから、ほとんど使いきってしまった。非常に不味い事態です。生活魔法を使える者を集めても、5人分の水をかき集めるのがやっとでしょう」
このおじさんが言った5人分とは、生きるのに必要な水の量で、存分に戦うとなると2人分と見た。
さて、たった2人とはいえ、僕の目の届く場所で死者を出したんだ。
遠慮は、少ししかしないからな。
「ドルデルガーさん、兵を指揮する隊長さんを呼んでください。その間に汚染された食料の解毒をしましょう」
「なっ!? 食料の解毒が出来るのか?」
「ランディ・ライトグラム男爵は、戦闘能力、回復魔法、生活魔法、何れをとってもわが国最高峰です」
えっ? 片膝を地に付けて、丁寧に話しているダナムだけど、本当にダナムなんですか?
いつも『俺様』を連発して、態度でかいじゃん。
「しかし、いくら最高の魔法使いと言えども、物に解毒なんて聞いたことがないぞ?」
ダナムは、颯爽と動いて、多数の水桶と汚染された食料のを用意しやがった。
まあ、やりますけど……ダナムがどや顔なのが、納得出来ないんですが。
「第1レベル呪文……プュリファイフード。続いて第1レベル呪文……クリエイトウォーター」
たくさんの桶いっぱいに水がたまる。
そして『失礼します』とらしくない台詞を吐きながら、浄化した食料を食べるダナム。
お陰で、しばし防衛線の準備が遅れてしまった。
指揮官のおっちゃんがやって来た。
「待たせたな、ランディ男爵殿。用件は解っている、そなた達3人も戦い参加したいのであろう。もちろんありがたく組み込ませてもらう。厳しい戦いになるがよろしく頼む」
頭を下げる指揮官に、話しかける。
「いえ、それだけじゃないんです。ごにょごにょ……………………で、お願いします」
「た、頼まれれば出来るが、ランディ男爵殿は何をしたいんだ!?」
さあ、戦の始まりです。
Q,今回、ランディ無双はありますか?
A,バトル無双はありませんが、いろいろやらかします。
9月3日、追記
ランディの世界の戦争は、兵糧の持参が少ないです。
理由は食料と水を生み出すクレリックがいますから。
一般兵のクレリックが、レベル5
将官クラスのクレリックが、レベル10とします。
レベル5の第2レベル呪文の取得数は2回、そのうち1回をクリエイトフードに使うと、10食分の食料が得られます。
レベル10の第2レベル呪文の取得数は5回、そのうち3回をクリエイトフードに使うと、60食分の
食料が得られます。
…………足りませんね。
やっぱりランディは化け物ってことで……




