【ホワイトデー特別編】フランツのお返し②
フランツのお返し①も更新しております。
本当にこれでいいのか…
取っ手が錆びつき立て付けの悪いドアの前、足元に視線を落とすフランツ。
彼は不安な気持ちを抱えたまま、エメリヒからの提案を実行に移すため、クリスタの邸を訪れていた。
本当は王都随一の名店を貸切にし、そこで用意したプレゼントを渡すつもりだったのだが、エメリヒに即却下された。
今は、場を作り込んで大々的にプレゼントするよりも、日常の中でさりげなく手渡しするのが好まれているのだと、そう力説してくるエメリヒに、フランツは疑いながらも信じることにした。
複雑で移ろいやすい女性心については彼の方が数倍心得ていると思ったからだ。
「フランツ様、ようこそおいで下さいました。」
「あ、ああ。世話になる。」
呼び鈴を鳴らず前に現れたハンナに、フランツは思わず数センチ後ろに下がった。
公爵家の馬車が到着したにも関わらず、中々呼び鈴が鳴らないことにヤキモキしたハンナが出迎えに来たのだ。
そのままクリスタの自室へと案内をする。
「クリスタ、今日はありがとう。」
「フランツ、ありがとう!!」
フランツが彼女の部屋を訪れた瞬間、クリスタは彼の片腕に飛びつき満遍の笑みで御礼を言ってきた。
「…っ」
服越しに伝わるクリスタの柔らかさに内心悲鳴を上げるフランツだったが、なんとか気合いで平常心を装う。
気を紛らわすために、頭の中で必死に領地収入の年間総定額を計算していたフランツであった。
そんな彼の心など知る由もなく、クリスタはルンルン鼻歌を口ずさみながら彼が手にしていた手土産を奪い取る。
その袋からして、中身は彼女の大好物である王室御用達の超高級チョコレートだ。
紅茶を出しに来たハンナにが早速袋から取り出し皿に並べ、お茶の用意を終えると、一礼をして下がっていった。
美しく輝くチョコレートに目を輝かせたクリスタは、躊躇も断りもなく次々と口に入れていく。
一口噛み締める度に目を細めて心底幸福そうな顔を見せる彼女に、フランツはしばらくの間惚けた顔で見入っていた。
「フランツ、何かあったの?」
一列に並んでいたチョコレートはあっという間に最後の一つとなり、その一粒を口に入れ終えたクリスタは漸くフランツに尋ねた。
「あ、ああ。クリスタに渡したいものがあったんだ。」
本来の目的を忘れていたフランツが慌てて鞄から小さめの紙袋を取り出し、クリスタへと差し出した。
「先日君にチョコレートをもらっただろ?そのお返しがしたくて…ただ、君のくれたチョコレートに勝る物など何一つなく、喜ばせられるかどうか…これが今王都で流行ってると聞いた。君が好むように作らせたんだが、もし嫌でなければ見てもらえないだろうか…」
じっと手元を見つめ不安そうにしているフランツを他所に、クリスタは紙袋を手にした瞬間中身を取り出していた。
中から現れたのは、宝石が入ってそうなベルベット地の重厚な箱であった。
だが、その箱は中ではなく外側にいくつもの大ぶりの宝石が埋め込まれている。
まるでリボンを飾るかのように、透明度の高い一級品の宝石達が光り輝いていた。
「え…」
その箱を見て固まるクリスタ。
そして、反応を示さない彼女に、胸を抉られるほどの痛みを感じるフランツ。
息絶えてしまいそうなほどの胸の苦しみで朦朧とする頭を振り必死に弁解を始めた。
「クリスタ、安心して欲しい。中身にはきちんと隣国から取り寄せた滅多に口にできない甘味が入っていて…それは皇室のためだけに作ってるものであり、民が食せば刑罰に処されることでも有名な…」
褒めてるのか脅してるのか分からない言い訳のようなことをフランツが話していた時、頃合いだと思ったハンナが紅茶を取り換えに来た。
一人話し続けるフランツのことを見なかったことにして、二人のティーカップをそつなく新しいものと取り替える。
「ねぇ、フランツ。お店って買ったことある?」
『クッキーって食べたことある?』そんな気軽な声音で不意に尋ねてきたクリスタ。
「あ、ああ。何度もあるぞ。」
ようやく言葉を発してくれたクリスタに、フランツは、今度は喜びで心が跳躍してしまいそうになりながら食い気味に答えた。
「この宝石で買えるかな?」
「く、クリスタ様…!?」
仕事を終え退出しようとしていたハンナは、クリスタの発言に思わず足を止め振り返ってしまった。
相手から今し方もらったものを売り飛ばそうとしている、しかもそのやり方を本人に尋ねるという鬼畜の極みに、さすがのハンナも顔色を悪くしている。
「虹色カップケーキって人気商品を扱ってる店があって、いつも行列で食べられなくて…お店買ったら良いかなと思ったんだよね。」
「クリスタ様!いくらなんでも失礼が過ぎ…」
「…嬉しい。」
震える声で喜ぶフランツに、ハンナがゆっくりと彼の顔を見る。
フランツは瞳を滲ませて目の下を赤くし、半泣きの顔で感極まっていた。
「君が俺に何か物をねだるなんて、初めてのことだ…これが求められる幸せなのか…なんという至上の心地。」
「はい?」
両手で顔を覆い肩を震わせるフランツを見たハンナの目が点になっている。
「クリスタ、店の名前を教えてくれるか?覚えてなければ区画でもいい。その一帯を買い上げよう。」
「何それ最高じゃん!あの辺には他にもパン屋とか惣菜屋とかもあるんだよ!それ全部いいの?」
「ああ、もちろんだとも。俺は君が望むものを全て手に入れるために生まれたんだ。その使命を果たさずに死ぬことは許されない。俺の命は君のものだ。」
何もかもを満たされたような顔で微笑み、うっとりした瞳をクリスタに向けるフランツ。
「一体どんな味がするんだろう…」
見つめられた彼女は、まだ見ぬ虹色カップケーキの甘美であろうその味に想いを馳せていたのだった。
日を跨いでしまいましたが、きちんとお返しが出来て良かったです(´∀`)相変わらずクリスタに激甘くんのフランツでした。
また番外編を書こうと思います♪




