その後の二人⑤
クリスタは真っ青なドレスに身を包んでいた。
裾はシフォンでふわりと広がり、よく見ると黒と青のグラデーションになっている。腰には、キラキラと輝く小さな宝石が散りばめられたベルトがついており、洗練された印象を与える。無色透明の宝石が並ぶ中、アクセントとして置かれた大粒のサファイアが程よく目立っていた。
昼間の装いにしては些か派手な装いであったが、人形のような人間離れした美貌のクリスタは品良く着こなし、嫌な派手さは全く表れていなかった。
今日も今日とて、フランツの色一色に染められるクリスタ。
だが今日は、前回の夜会と違い、花が舞いそうなほどの満遍の笑みである。馬車から降りた瞬間、既に足取りが軽く、抑えきれない嬉しさを微笑みに変え、すぐ隣を歩くフランツに投げかけた。
「クリスタ、今日のドレスもすごく良く似合っている。どんなに言葉を並べても、君の美しさを表現することなど出来ないだろう。こんなにも美しい君の隣にいられることに栄誉を感じると共に、他の男達にも見られると思うと嫌になるな。外に出したくなくなる…」
フランツは、クリスタのことを情熱的に見つめながら褒め称えてきた。美辞麗句スキルが向上しつつあるが、それとともに、闇を感じる言葉も増えてきた。
「今日のドレスはね、締め付けが無いから沢山食べられそう!生クリームにバターに、チーズ…ふふふ…甘いものも好きなんだけど、せっかくだからしょっぱいのもあるといいな。クリーム煮とかもいいよね。」
「ああ。クリスタの好きなもの全部取ってこよう。足りなければ、この後うちによって行けばいい。一応、クリスタのための料理を用意しておくように伝えてあるから。」
「え!?それ最高なんだけど…じゃあ、ここではほどほどにしてお腹に余裕を作っておくか。楽しみだなぁ!!」
「ふふふ、本当に可愛い人だ。」
フランツは隣を歩くクリスタの手を絡めとるようにして手を繋いだ。
昼間っから怪しい雰囲気を出してくるフランツに、クリスタの肩がびくっと動いた。そんな彼女の反応を見て、フランツは溶けてしまいそうなほど甘い笑みを浮かべていた。
二人はこの日、デリアに招待されたお茶会に参加するため、アダルベルト家を訪れていた。
停車場には既に何台かの馬車が停まっており、クリスタ達と同世代に見える招待客で賑わっていた。
案内に従い、庭園の方に向けて歩いていくと、10人は座れそうなほど大きい真っ白な円卓が、手前から奥にかけて、一列に5卓並んでいた。各テーブルの上には日除けのためにパラソルが広げられている。
並ぶテーブルに沿うように配置された細く長い台には、食事からお菓子、フルーツまで置いてあり、そのすぐ後ろには給仕係が控えている。その都度配膳してくれるタイプのお茶会のようだ。
「うわ、これ嫌いなタイプ…一々言わないと食べられないなんて最悪だ…」
令嬢の仮面を被ったクリスタは、微笑みを浮かべたまま、フランツにだけ聞こえるように文句を言った。
「食べたいものは全部俺が取ってくるから。クリスタは座って待ってたら良いよ。」
クリスタはどこまでも甘いフランツ。彼女の身も蓋もない言葉に引くどころか、嬉々として召使い役を買って出てきた。
「ありがとう、フランツ。ふふふ、片っ端から持ってきてもらおうっと。」
「仰せのままに。」
フランツは胸に手を当て、恭しく礼をした。
本人は軽い戯れのつもりだったが、二人の会話など聞こえていない周囲からは、彼の王子様のような振る舞いに、黄色い悲鳴が上がっていた。
「まぁ、歓声が聞こえたと思ったら、やはりアルトナーご夫妻でしたのね。」
そう言って表れたのは、デリアだった。主催者らしく、淡い水色のシンプルで落ち着いたドレスを着ているが、よく見ると高級感のある生地に、細かい刺繍が施されており、質の高さが伺える。
「本日はお招きありがとう。クリスタと一緒に楽しませてもらうよ。」
フランツは、『クリスタと一緒に』の言葉とともに、クリスタのことを抱き寄せ、こめかみにキスをした。
その後も、デリアの方を見ることはなく、艶っぽい目でクリスタのことだけを見つめるフランツ。
溢れ出る色気に、デリアはぽっと頬を赤く染め、近くにいた令嬢達も、恥ずかしそうに目を逸らしていた。
皆の前でフランツの全力の愛をぶつけられたクリスタは、目線を下に落とし、恥ずかしそうにもじもじしている…フリをして、台に並ぶ料理をチェックしていた。
あの白いやつなんだろう…え、もしかして生クリーム!?あれだけ食べるの…?いや、隣に何か黄色いのが見える…あ、あれはまさか…卵たっぷりのスポンジケーキ!!!作り立てのデコレーションケーキが食べられるってこと!?
この国、お菓子文化があるクセに、焼き菓子ばっかりで飽き飽きしてたんだよね。やっぱりお菓子と言ったら、生クリームたっぷりのふわふわスポンジケーキでしょう!!
あれなら食べさせて合いっこのフリしやすいし、パクパクって何口食べてもバレなさそう。
生クリームたっぷりのスポンジケーキに想いを馳せるクリスタ。
口当たりの良い冷えたクリームに、口溶けの良いきめ細かいスポンジの食感、口の中で混ざり合って一つになる。鮮明に妄想してしまったクリスタは、思わずゴクリと生唾を飲み込んだ。
「………っ」
その様子を見てしまったフランツは、両耳を真っ赤にし、周囲に動揺がバレないよう片手で顔を隠した。想像力の豊かなフランツはいつもの如く、あらぬことを考えてしまったらしい。
フランツは、クリスタから顔を背け、小さく深呼吸を繰り返し、必死に精神統一をしていたのだった。




