デートの成果
市場定番の串焼きだけで10種類、その他に、チーズのフライ、肉の塊を焼いてスライスしたもの、山羊のチーズ、羊肉の腸詰、白いかぼちゃのサラダ、丸いチーズをくり抜いて中に茹でたマカロニを入れたもの等がテーブルの上に所狭しと並んでいた。
いくつかの料理には、なぜかネズミに齧られたような跡がある。
「これ…どれを食べても美味しいんだけど…!!貴族向けの料理と違って大味なのかなと思いきや、丁寧に下処理がされていて臭みがなくて、スパイスの使い方がめちゃくちゃ上手。このお肉とか、後を引く美味しさね。鼻に抜ける香草の香りが堪らんわーー!!もう一口食べたくなる!」
そんなことを言いながら、クリスタは食べかけの串を皿に戻して次の料理に手を伸ばす。
そして、彼女が一口齧った料理は、フランツがせっせと胃の中に入れていた。
量は食べられないけど、全てを味わいたいクリスタのために、フランツが残りを全部食べているのだ。
デートで自分の食べかけを相手に食べさせるなど普通ならあり得ないことだが、フランツは自ら進んでやっていた。
彼女と同じものを同じ時に味わえることが幸せで堪らないらしい。
フランツは、常人には理解できない感覚でこの時を満喫していた。
この後も気になる屋台や店を周り、クリスタは、ひと口×40種類分ほどの料理を口にしていた。
「あー美味しかったーーー!!もっと食べたいけれど、さすがにお腹いっぱいだわ。もう水も入らん、、」
「俺もさすがにもう入らない…」
こうなることを予想して、早朝から剣術と体術の訓練を2本ずつ行って来たフランツだったが、それでも胃が限界を迎えた。
食べ過ぎて動けない二人は、消化に良いと言われているレモングラスの入ったお茶をお供に、食休みをすることにした。
「そう言えば、フランツはどうして女避けが必要だったの?」
クリスタの言葉は唐突だった。
ちょっと気になっただけ、というごく軽い雰囲気で尋ねて来た。
「それは…」
『嘘だったんだ。
ずっと嘘をついていてごめん。本当は君のことが欲しくて欲しくて堪らない。君と生きて行きたい。だから、俺の正式な婚約者になって欲しい。』
フランツは、声に出して言いたかった。でも言えなかった。
クリスタが自分に恋愛感情を抱いてないことなど一目瞭然。そんな状態で自分の気持ちを告げてしまったら、この関係すら壊れてしまう。もう二度と一緒にランチに行けなくなるかもしれない。名前だって呼んでもらえなくなるかもしれない。
無理。そんなこと耐えられるはずがない。
今更出会う前の自分に戻れるわけがない。
もう、彼女がいないと、俺の世界は成立しない。
そう考えると、気持ちを伝える勇気が出てこなかった。
例え想いが通じ合っていなくても、こうやって一緒に過ごせるのなら、今の方がいいと本気でそう考えてしまったのだ。
「ごめん。余計なこと聞いたよね。私には関係のない話だったのに。」
言葉に詰まったフランツの反応を見たクリスタは、彼のことを困らせてしまったと思い、申し訳なさそうな顔をしていた。
「いや、そんなことは…っ」
「奥の方に気になるデザートがあったの。最後にそこ寄ってもいい?ふふ、時間が経ったから、少しお腹に余裕が出て来た気がする!」
「…うん、行こうか。」
きっと彼なら余計な気を遣うだろうと思ったクリスタは、思い切り話を変えて、先ほどのことを有耶無耶にした。
フランツは、そんな彼女の優しい心遣いが心苦しかった。
「今日は本当にありがとうね!お土産もこんなにたくさん!明日から家の料理も楽しみになるよ。また学園でね!」
「こちらこそ、今日は付き合ってくれてありがとう。本当に楽しい1日だった。また明日。」
予定していた時間通り、日が傾いた頃無事にベルツ家に戻って来た二人。
フランツに買ってもらった大量のお土産を使用人に運んでもらい、クリスタは、馬車へ乗り込む彼に手を振って別れを告げた。
帰りの馬車の中、フランツは1人呟いていた。
「せっかくのデートだったのに、何一つ距離が縮まらなかった…」
この日一日、結局いつものランチタイムと同じように、食べ物の話をして、一緒に食事をしただけだったと、彼は頭を抱えていた。
「こんな体たらく、エメリヒに知られたら本気で馬鹿にされる…」
元々エメリヒからの提案で実行した今回のデート作戦。あいつなら絶対に結果を聞いてくるだろうと考えると、フランツは胃痛がしてくるのだった。
家に着くまでの間、フランツは、馬車の中でずっとエメリヒへの言い訳を考えていた。




