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【本編完結】食に固執する腹黒令嬢は、愛されても気付かない  作者: いか人参
本編

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18/58

フランツが用意した小道具


「ハンナああああああ!!!疲れたよーーーーー!!!!!」


「お帰りなさいませ、クリスタ様。お部屋にお茶をお持ちしますね。」


色々あり過ぎて疲労困憊のクリスタは、帰宅して早々玄関で出迎えてくれたハンナに抱き付いた。


エメリヒの悲鳴の後、好奇の目線に曝され、取り囲まれ、大変な目に遭っていたのだ。

だが、フランツの口撃によって、一瞬で蹴散らされ、クリスタはその隙に逃げ帰ってきた。




ハンナに手伝ってもらって、窮屈なドレスを脱ぎ捨て、かちこちに固めた髪をほどき、湯浴みを終えて身軽になったクリスタは、ソファーにもたれかかっていた。



「はぁ…疲れた…」

「お疲れ様でございます。」


労いの言葉とともに、ハンナはクリスタの前に紅茶を置いた。ミルクと蜂蜜がたっぷりと入ったハニーミルクティーだ。

その隣には、ジャムパンと、スモークサーモンとクリームチーズのサンドイッチが置いてある。お腹を空かせて帰ってくるだろうと、ハンナが軽食を用意して待っていたのだ。



「甘いものが染みる…はぁ…サンドイッチも美味しい…しはわへ…」


片手にサンドイッチ、片手に紅茶、交互に口にしながら空っぽの胃袋に栄養を運んでいた。




「本当にお疲れなのですね…何かありましたか?」


「あったも何も…いや、思い出すだけで気分悪い。とりあえず、あの貴公子クソだったわ。あんな顔だけの男に騙されないでね?私はハンナが心配だ…」


「…色々あったのですね。」




ティーカップの中身が残り少ないことを確認したハンナは、一度退出し、今度はハーブティーを淹れて来た。


ポットに入ったハーブティーをティーカップに注ぎ終えたハンナは、一枚の封筒をクリスタに差し出した。

やや不安そうな瞳をしている。



「クリスタ様が戻られる直前、アルトナー公爵家の執事の方が直々にうちへ届けて下さいました。あの、単刀直入にお聞きしますが、クリスタ様、アルトナー家に対して何かやらかしましたか…?」


ハンナの瞳は真剣そのものだった。

主人がやらかしたのなら、自分も一緒に頭を下げて同様いや、それ以上の罰を受けよう、そんな並々ならぬ決意に溢れていた。



「あ、これもしかしたら…」


片手で封筒受け取ったクリスタは、ビリビリと豪快に封を切り、雑に中身を取り出して、目を通した。


「やっぱり…。さすがは公爵家、こんな小道具まで用意して、、仕事が早いし抜かりないわ。」



クリスタは用済みとばかりに、紙をハンナに手渡した。

それを両手で受け取り、内容を読んだハンナは、一気に青ざめた。



「な、なんなのです!!これは!!」


彼女にしては珍しく大きな声が出た。

手紙の内容に驚愕するあまり、声が震えていた。



「ああ、私、フランツ・アルトナーと婚約したんだよ。」


焦るハンナとは対照的に、クリスタは、天気の話でもするかのような口調であった。



クリスタが小道具と呼んでいたのは、婚約宣誓書であった。

この国では、両家の当主の同意があれば婚約は成立する。今回送られて来た宣誓書にはアルトナー公爵のサインだけあり、領地にいるベルツ侯爵のサインはこれから貰う旨が明記されていた。


普通は両家のサインが揃ってから、控えをそれぞれ保管するのだが、どちらかの家の手続きに時間が掛かる場合や絶対に相手を逃したくない場合に、先に自分の家のサインだけ記載して送ることがある。

もちろん今回は、後者が理由だ。


外堀を埋めるためにもなるべく早く、正式な婚約に漕ぎ着けたかったフランツは、待たせていた御者に依頼し、会場にいながら裏で手を回していたのだった。

さすがは公爵令息である。



「クリスタ様、入学してまだ1ヶ月も経っておりませんが…こんなすぐにお相手を決めてしまっても宜しいのですか?心配でございます…」


「元々狙っていた優良物件だからね。相手に不足はないんだけど、ひとつだけ問題が…」


「何です…?」


「これ、嘘なんだよね。」


「はい?」


「色々あって1年間だけ婚約者のフリをするって約束で…その後どうしようね?」


クリスタは、焦るそぶりもなく、まるで他人事のように、にっこりと笑顔で問いかけて来た。



「な、何ですか!!!!!そのようなことを宣う不誠実な愚か者は!!!クリスタ様のことをキズモノにして捨てようだなんて、そのような真似許せるはずがございません!!今からアルトナー公爵家に抗議をしに行って参ります!」


「ちょっと!ハンナ!それは誤解だから!ちゃんと全部説明するから、とりあえず私の話を聞いてー!!!」



ブチギレて部屋を飛び出そうとするハンナの腕を引っ張り、クリスタは必死に止めた。


なんとか話を聞いてもらい、落ち着いたが、ハンナのフランツに対する評価は地の底まで落ちていたのだった。





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