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紗那の華麗な休日(序)

 サトーさんがエレベーターに乗り込むのを確認してようやく家の鍵を開けた。

 わざわざここまで送ってもらっているのでさっさと家に入ってしまうのもなんか感じが悪いような気がしていつもエレベーターが動き出すまで家に入らない。

 ただしママが家にいる時を除く。

 ママがいる時は最近の私の仕事について立ち話しを始めたりするのでさっさと家に入る。

 会話の内容の中心が私の事なので恥ずかしくてその場にいられないって言うのが本音だけど。

 親バカとロリコン疑惑のマネージャーのトークとか誰も聞きたくないに決まってる。というか需要とかあっても困る。

 なぜなら私にその場とどまる精神力がないから。

 子供でもペットでもなんでもいいからその手の話題を人目をはばからず嬉々として語る人を思い出してみて欲しい。

 ほらちょっとキツイものがある。

 こっちが引いてる事に気が付かないあたりが特に。

 上司に生まれたての子供の写真を見せられ、可愛いですねとか言わなければならない部下の気持ちをもう少し考えて欲しい。

 どう考えたって赤ちゃんは平等に可愛いに決まってるのでそれ以外のセリフなどない。

 ペットについても同様だ。

 それだけで終わればちょっと面倒ぐらいで済むが、その後必ず早くお前も結婚した方がいいぞとか言い出すところがダメ。

 そもそも相手がいなかったしそのためのプライベートの時間を奪っておいてどの口が言うんだと胸ぐらを掴んでゆるゆるな頭をシェイクしたい衝動に駆られたりする。

 こちとら貴様がデートだサプライズだのを用意してる裏で残業してんだこの野郎。

 前世の事を思い出したら無性に腹が立って来たので別のことを考えよう。

 疲れていると愚痴ぽくなるのはあまりに変わっていないらしい。

 そういえばこのマンションはペット飼えたりするのかな?

 まぁ家を開けることが多いので飼うことはないだろうけど。

 ハムスターとかちょっと飼ってみたい。なんか手間かからなそうですごくおとなしいイメージある。

 最近この業界ペットブームもあるし仕事増えそうだしね。

 今度それとなくママに話して見よう。

 いや待てよ。今仕事増えちゃったらスケージュールとか困るのでやっぱり飼いたくない。

 獣とフレンズになるのはもう少し考えてからにしよう。

 アレルギーとか持ってたら悲惨な事になりそうだし。

 サトーさんが現在進行形で悲惨な事になってたしね。

 そうだ休み明けのサトーさんへの差し入れも考えないと。


 扉を閉めて鼻に抜ける嗅ぎ慣れたどこか懐かしい自宅の匂いに肩に乗っていたものがすっと降りた感じがする。

 無意識ながら肩に力が入っていたらしい。

 そのほかに背負っていたリュックを下ろしたからってのもあるけど。

 初挑戦の審査員にガチの心霊現象とキャスティング、会議。それと昨日子役になって初めて家に帰らなかったのも影響しているだろう。

 これまでどれだけ遅くなっても寝るのは家のベッドだったし普段と違う事をしたのが負担になっているなんて可能性もある。

 前世ではその負担が疲労として溜まりに溜まって死んだんだろうし侮れない。

 明日はリフレッシュ日に当てよう。

 誰がなんと言おうと私は家から出ない! 例外はない。


 「まぁ、何はともあれ積みキラパラと今期のドラマをチェックといきますか。と、その前に洗濯物を出しとかないと」


 ママが帰って来るとテレビはママのドラマチェックに使うのでアニメを見る時間がなくなってしまう。

 まだ子供の身体のせいで眠くなるのも早いし夜ふかしは美容の敵。よく知らないけど肌に悪いらしい。

 そんな事を気にする日が来るとは思ってなかったけどここまで自分が圧倒的に美少女だと汚したくないみたいな心理になるもんでそれなりに美容を意識したりする。

 と言ってもダイエットも肌荒れも心配する必要は皆無だったりするけど。

 これでも早寝早起きを心がけてます。



 洗濯カゴにリュックから取り出した下着類を放り込んで残りの服を別のカゴに入れる。

 よく分からないけどこの普段着ている服たちはクリーニングに出さなければいけないような代物が多いので分ける必要があるらしい。

 洗濯機で洗えない事もないけど、よれたりくたびれたりするのが嫌なのか私の服は全部クリーニング店送りにされる。

 私的にはかなり手間なので分ける必要の無いそのへんの子供服でいいと思った時期もあるけどブランド物だけあって質もデザインも素晴らしいので前世のシャツと短パンみたいなスタイルには戻れない。

 今は部屋着だってちょっとおしゃれなルームウェアなんて名前のものを着てる。

 でもなんだかんだで衣装の普通の子供服も着てるし完全にブランド品以外着ないガチのお嬢様みたいな思考回路にはならないだろう。

 あ、部屋着に着替えないと。

 普段着のままでいると飲み物をこぼした時の倍ぐらい怒られる。


 洗濯物を出し終え自室でルームウェアに着替えてリビングに戻って来ると不意に空腹感が襲ってきた。


 「そういえばお昼食べてなかった」


 家にある時計は14時を少し過ぎたあたりを示している。

 朝が6時過ぎに起こされてそこから朝食を食べたから7時間ぐらい何も食べてない事になる。

 そりゃお腹も空くはずだ。

 自宅に帰ってきて気も抜けたのもあるし。

 そうなると冷蔵庫を漁るほかない。

 外に買いに行くのはリスクがあるし、そもそも家の近くの地形を全く把握していないので迷子になるのがオチだ。

 ママの遺伝子があるなら地形を把握していても迷うだろうけど。

 これは私がまだ幼いからであって引きこもりだからとかでは断じてない。

 どこかでこれを見ているであろう神様に言い訳しつつ冷蔵庫を開けて食べられそうなものを精査して行く。

 本日の冷蔵庫の中身拝見のコーナーはなんと調味料と腐ったヨーグルトしかありませんでした。

 こいつまだ家にいたのか。ゴミ袋に放り込んでおいてやろう。さらばだヨーグルト。

 ママは忙しいみたいだし冷蔵庫を整理する時間もないみたいだからいても不思議じゃないけどさ。

 下の冷凍庫にはいろいろ入ってるみたいだけど勝手に調理するのは怒られそうだしやめておこう。

 普段やらないことはしない方がいい。


 普通の子供ならここで諦めてしまうところだが、私は一応精神年齢20を超えている大人。

 ここは大人らしく解決しようじゃないか。

 まずテーブルの上に置きっぱなしにしてあるリュックの底からスマホを取り出す。

 そしてこう話しかける。


 「このへんで出前を取れるお店を教えて」


 最近のスマホはわざわざ入力しなくても大体の事は出来るらしい。

 いやこれは前世でもできたな。

 音声認識の精度が良くなくって使ってなかったけど。

 いくつか出てきた検索の中から宅配ピザ屋を見つけて電話をかける。

 幸い私の財布にはピザぐらい買えるだけのお金があるのでこれが正解だ。

 いや財布の中身を考えればピザどころか寿司とかうな重とかも行けそうだけど夕食の事を考えて軽めにしておく。

 電話に出たバイトのお姉さんはとても優しく教えてくれたので初めてでも特に問題なく注文をする事が出来て、40分後にピザが届く事になった。

 出来立てを売りしているお店のようで今から作り始めると考えれば妥当な待ち時間だろう。

 キラパラ約2話分と考えれば早い。

 

 テレビをつけて録画した番組の一覧からキラパラを探して再生。

 最近観られてなかった上に一部ママに消されたせいで少し話が分からないところもあるけど、主人公がユニットを組んだ事を除けば大きく話が進んだ様子はない。

 ユニット結成が山場だということを考えるとしばらくママに冷たく当たる必要が出てくる。

 うぅっ。さんざんユニットは組みませんって言ってたライバルキャラと主人公が仲良くユニット組むまでの話が気になる。

 何があればこうなるの? ブルーレイの発売が待ち遠しい。

 だがそれも物語に引き込まれてしまえばすぐに頭の片隅に追いやられライブパートに差し掛かれば完全にどこかに吹き飛び大いに盛り上がった。

 誰もいない時にアニメを見るとテンションって無限にあがってくよね?

 その次の話を見てる途中でインターホンが鳴ったのでピザを受け取る。

 芸能人とは気付かれなかったようで宅配ピザのお兄さんは代金を渡すと爽やかな営業スマイルで店に戻っていった。

 芸能人オーラの出し方を誰が教えてください。


 温かいうちに頂きたいので行儀が悪いことは承知でアニメを見ながら食べる事にした。

 ママが見てたら多分怒られるだろうけどバレなければ問題は無い。

 文字に起こして見るとやってる行動は中年のおっさんとそう変わらないがこの自由な感じがいい。

 他の人の目があるとこういうことはなかなか出来ないし、息抜きとしては大正解だと思う。

 前世はそんな暇すら貰えなかったからよく分からないけど。


 CMになったタイミングでもう一切れ手元に寄せる。

 もぐもぐ咀嚼しながらぼんやりCMを眺めていると、キラパラ関連グッズの情報がバンバン目に付く。

 普段はCMなんかは録画だと飛ばせる機能のがあったりするのでそれを使うが今日はピザを食べているのでそのまま眺める。

 アーケードに第3弾のユニットドレスが追加にブルーレイとDVDボックスの予約受付に映画化。

 やはりキラパラの人気はすごいものがある。

 アーケードのユニットドレスのカードちょっと欲しい。

 ゲームセンターに行く暇が全くないのでアーケードに手を出していないだけでホントはすっごくやりたかったりする。

 前世からの経験上小学生低学年までの短い時間しか出来ないし。

 サトーさん誘ったら連れて行ってくれるかな。あれ以来なんかクレーンゲームにはまってるとか言ってたはずだから。

 でも1番驚いたのは映画化だ。

 しかもゲスト声優にとっても見覚えがあった。

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