19.ブリーダーズゴールドジュニアカップ
ゴールまで後1ハロン(200m)、向こう正面で5馬身あったリードが、みるみるうちに縮まる。
頑張れ、粘ってくれ。お前の力はそんなものでは無いはずだ。だがゴールを駆け抜ける前に追いつかれてしまった。4着? なんとか3着?
門別競馬場では移動式の大型ビジョンが場場内の着順掲示板として機能している。着順掲示板というのは1着から5着の馬の馬番とその差などを表示するもので、どの競馬場にもあるけれど、門別は常設ではなくて移動式、コース内に大型ビジョンを乗せたトラックが居座っていると思って頂ければよい。もちろん縦長ではなくて横型。
審議のランプが点灯したけれど、1着と2着は優馬の目視でわかったから、3着争いが審議の対象なのだろうか。でも1着も出ないから走路妨害とかあったのかもしれないけれど、スタートしてからはグランフェリスしか見てなかった悠馬にはわからない。もしかしたら繰り上がりがあるかもしれない。
ここでの着順はとても大切。3位と4位でも賞金額が違う。
審議はすぐに終わり。グランフェリスの2戦目は3着が確定した。不満が無いと言えば嘘になるけど、少し冷静に考えれば健闘したと言えるのでは?
だって先程のレースは本日の最終、第12レース。他の競馬場は最終の前にメインレースがある場合が多い。つまりメインレースを見たら帰る観客と、最終レースまで見る観客が帰るのを分散させるのが目的だ。いわゆる前座の逆でいうなれば「後座」だ。
でも門別では最終レースがメインレース。 そして今日のメインはブリーダーズゴールドジュニアカップ(2歳:ダート1700m:門別:H2)、つまりホッカイドウ競馬の2歳重賞だ。
1着賞金が500万円もある。でも2着だと140万円で、以下3着が105万円 、4着が70万円。1着と2着の賞金額が全然違うのはこの世界だと当たり前。なお5着も35万円といきなり4着の半分になる。
ホッカイドウ競馬の2歳重賞は、短距離(1200m)、中距離(1700~1800m)、そして牝馬戦(1000~1700m)とある。おそらく知名度高いのはエーデルワイス賞(2歳牝馬限定:ダート1200m:門別:JpnⅢ)、そしてJBC2歳優駿(2歳:ダート1800m:門別:JpnⅢ) のふたつだろう。優勝賞金額もそれぞれ2000万円と3500万円と飛びぬけて高い。
このふたつは交流重賞、つまりホッカイドウ競馬だけでなく、JRAからも賞金が出るので、合わせてこの金額になる。そして中央や他の地方から遠征してくる馬もおり、優勝馬から後のG1馬を何頭も輩出している。芝の長距離向けのグランフェリスには荷が重いと思う。
いや正直、ホッカイドウ競馬の重賞でも難しい。さっき3着だったのはむしろ僥倖では? そもそもグランフェリスはまだ重賞に出るつもりは無かった。元々は昨日開催される特別競走に出走登録していた。
その特別競走に出走できていたら……もしかしたら優勝していたかもしれないしそうではないかもしれない。先週木曜日に出馬投票(出走登録)が締め切られたのだけど、出走馬が足りなかったのでレースが中止になってしまった。残念ながら地方競馬ではそういうことも珍しくはない。
そして競走が中止になった場合は救済措置があって、臨時で同じ週の他のレースに「空きがあれば」登録することができる。だから急遽このブリーダーズゴールドジュニアカップ に登録した。せっかくこのレースにピークがくるように高梨先生が調教してくれていたのに、このままレースに出ないのはもったいない。
実際、グランフェリスともう1頭同じ特別競走から流れた馬を追加しても9頭で枠に余裕があった。 重賞でもこの時期だとこんなもの。
最終レースが終わっても騎手には検量やら着替えなどの時間が必要、30分程経ってから悠馬は高梨兄妹に会うことができた。紗季さんはもちろん、信義さんも随分とお疲れのところに申し訳ないがパドック裏で話をする。もうすぐ木曜の21時。悠馬は今日は仕事帰りに門別に来たし、明日も仕事があるから早く帰りたいけれどこれは重要なこと。
高梨調教師はこのトレセン内に住んでいる。地方競馬だと門別の他にも競馬場、トレセン、住居。この3つが固まっているところがある。通勤はとても便利だと思う。紗季さんは近くに旦那さんとお子さんと住んでいる。ダントツで一番遠いのが悠馬。
「今日のグランフェリスはどうでした?」
「うーん。やっぱり前へ行こうとするのよね。デビュー戦はなんとか勝てたけど、重賞だと無理ね」
紗季さんも残念そうにいう。実際デビュー戦で勝てたのは紗季さんの力が大きい。中央でも地方でも女性騎手には2kgの減量特典がある。この2kgの差が1700mだとおよそ1馬身程度のリードになると一般的に考えられている。つまり紗季さんと同じ技量の男性騎手に依頼していた場合、グランフェリスはデビュー戦を落としていたことになる。
そしてその特典を受けることができるレースは決まっており、特別登録が必要なレース、つまりある程度賞金額の高いレースでは受けることができない。当然重賞も対象外。
やはり重賞は厳しいのだろうか。いやまだ馬主でもできることがあるはずだ。
新しい章に入ったばかりなのですが、今月の週末の予定がかなり埋まってしまったので、今回が年内最後の更新となります。
大変申し訳ありませんが、年明けに再開予定です。かなり早いですが、皆様よいお年を。来年もよろしくお願いします。




