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Stay Here  作者: 多手ててと
デビュー戦

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17/19

17.初恋(1)

門別競馬場での話し合いは有意義に終わった。競馬場を訪れるいろんな生産牧場の方々と話をすることができ、私の話をちゃんと聞いてくれる人もいた。お昼ごろから結局最終レースが終わるまでの間に、あわせて20人程の関係者の人と話すことができた。


どこの国でも馬産の現場の経営はなかなか難しい。そして牧場の後継者不足も大きな問題。黒字でも今後の先行きに不安を感じている牧場主もいる。


お父様が期待しているような規模、零細でもなくそれほど大規模でもなく経営状況も悪くない、という難しい注文にもこたえることができるかもしれない。だが実際に買収に到るまでは、まだまだ時間がかかる。


でも日本の競馬は盛況だから、世界的に見ればまだ恵まれていると思う。私の母国、イングランドは競馬自体が衰退しているのでよりつらい状況だ。そしてこれは構造的なもので中々改善が難しい。


ひとつ例を挙げよう。


イングランドでも競馬は大きく平地競走と障害競走ふたつに分けられる。日本の場合は平地競走の方が盛ん。でもイングランドでは国際的な知名度は平地競走かもしれないが、人気は障害競走の方が圧倒的に高い。


チェルトナム・フェスティバルやグランドナショナルで開催される障害競走がイングランドで最も盛り上がる競馬の祭典と言ってよいだろう。中でも「グランドナショナルハンデキャップチェイス」の優勝賞金は他のレースより突出して高く100万ポンド。これは平地競走の大レース、ダービーやキングジョージよりも高い。


この21世紀において、イングランドでは未だに平地競走は伝統的、貴族的なものとされている。お父様は、馬産が我が家の家業、いつもそう言っているけれど、実のところ我が家の収入は、不動産、食品加工、投資、ホテルなど他の様々な分野よりも少ない。伝統とはいうけれどさかのぼれば、初代様は政治家であり馬産など行っていなかった。


そしてイングランドの平地競走は、グレードの低いレースが乱立しているのが現状だ。これは競馬場の経営の問題がある。


イングランドの競馬場のほぼすべては営利企業が運営している。ロイヤルアスコットなど王立の競馬場が例外。営利企業は利益を出すためにレースを増やそうとする傾向があり、その結果賞金額がとても低く、それに見合った馬が出走し、伝統も格式も人気も賞金も無いレースが濫造らんぞうされている。


ではなぜ障害競走が人気があるのか。その理由はいくつかあると思うけれど、そのひとつは特定の馬を応援するファンがいるからではないかと思う。平地競走で圧倒的な力を示した馬、特に牡馬は人気が出た3歳で引退するのに対し、障害競走馬の馬齢は高く中には10歳を越えて走り続ける馬さえいる。


平地競走の人気馬が3歳で引退するのは種牡馬になるため。特に良血馬であればレースで走るより種牡馬になった方が馬主に大きな利益をもたらす。4歳、5歳と走らせて弱点が露わになると種牡馬としての価値が落ちるし、場合によってはケガや最悪の場合命を落とす可能性もある。


逆に障害競走の馬が長期間走り続けるのは去勢された騙馬せんばが多いからだ。種牡馬になれないと見切られた牡馬が去勢され、その中から障害競走に適した馬が障害競走で試され、そこで才能を発揮することが多々ある。実際に障害競走で走っている馬は騙馬が多い。そして子孫を残せない騙馬は走り続けないと馬主に利益をもたらすことができないため、長い期間走り続けることになる。


そして、競争能力が高いわけでもなく、障害が得意でも無い馬が(大抵は去勢されて)乱立している平地で走り続けることになる。賞金が安くてもレースに出るにはそれなりに準備が必要となり、現場にそのしわ寄せがくる。


このように個々の関係者が自己の利益を追求した結果、チェスのステイルメイトのような行き詰った状況になってしまった。打開するのはなかなか難しい状況になってしまったが、現在はなんとかレースの数を減らし、賞金額をあげようという動きがある。この改革が成功するかどうかはまだ未知数だ。


私の立場ではこれらの動きに関与することはできないけれど、全く何もできないわけではない。ひとつはお父様の指示に従って日本への進出拠点を作ること。そしてもう一つ、これは私自身の強い思いなのだけれど強い牝馬を見つけることだ。


牝馬は平地競走でも障害競走にも出ている。どちらも牝馬限定のレースがあり、やはり4歳かそれ以上まで走る。1年早く繁殖にあがっても、種牡馬と違い一頭増えるだけだというのが違う。


だから強い牝馬にはファンが付く。私がグランフェリスに期待しているのもそれだ。残念ながら彼女を購入することはできなかったけれど、もし購入できていたら私は彼女をヨーロッパに連れていっただろう。彼女はヨーロッパの芝が合うと今でも思っている。


でも代わりに別の牝馬を購入した。葦毛の可愛い馬で「グレイスフルウェイ」と名付けた。優雅な道という意味だ。Wayには1マイル(1600m)という意味もある。おそらくその距離が彼女の主戦場になるのではないかと思う。


そして……グランフェリスにどこか音が似てしまったかもしれない。

また説明回になってしまいましたね……しかも長くなったので分割……


さらに……これから年明けまで更新が不安定になると思います。申し訳ないです。

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