【番外編:獣人国にて】
【☆★おしらせ★☆】
あとがきに、
とても大切なお知らせが書いてあります。
最後まで読んでくださると嬉しいです。
スミコが嵐のように去っていった後。
獣人国ネログーマの王都エヴァシマは、かつてない熱気に包まれていた。
王城の執務室。
そこには、以前よりも目の輝きが増した(というか、信仰の光でヤバいことになっている)シュナウザー女王と、なぜかその横で書類を捌く、一人の美女の姿があった。
「あぁ……スミコ様……尊いですわ……」
女王がうっとりと呟く。
完全に「信者」の目であった。
「女王よ、手が止まっておるぞ。決裁を頼むのじゃ」
眼鏡をくい、と押し上げながら言ったのは、蒼銀竜フブキだ。
彼女は現在、人間の姿を取り、この国に滞在している。
「申し訳ありませんわ、フブキ殿。つい、あのお方の高潔な御姿を思い出してしまって」
高潔……?
あの逃げるように去っていったあの女がか……?
フブキは呆れつつも、あえて訂正はしなかった。
「そういえば、広場のアレ、改修完了したそうじゃぞ。報告書が来ておったわ」
「ほんとですの!? みに視察に参りましょう!」
「やれやれ……精が出るのう」
二人は執務室を出て、バルコニーへと向かった。
そこから見下ろす王都の広場には、異様な光景が広がっていた。
ドンッ!!
広場の中央に、巨大な石像が鎮座している。
精巧に彫り込まれたそれは、紛れもなくあの「鉄の馬車」の姿だった。
「おお……! 素晴らしいですわ! これぞ我が国の新たな守り神、鉄馬車様ですわ!」
女王が感動に打ち震える。
広場には多くの獣人たちが集まり、その像に向かって手を合わせていた。
「今日も安全運転でいけますように」
「美味しいカレーが食べられますように」
「腰痛が治りますように」
供えられているのは、串焼き肉やカレーパン。
なんとも食欲をそそる宗教である。
「……あの車が、まさか神になるとはのう」
「当然ですわ! あれは女神スミコ様の御神体! 触れるだけで病が治り、呪いが解ける奇跡の遺物なのですもの!」
まあ、確かにあの車は高性能すぎた。
環境再生機能だの、万能結界だの、竜であるフブキから見ても異常な代物だ。
崇めたくなる気持ちも分からなくはない。
しかし、影響はそれだけではなかった。
「……女王よ。あちらの家々の庭を見るのじゃ」
「ん? おお、テントですわね」
街のいたるところで、庭先に「テント」が張られている。
立派な家があるのに、わざわざ外で寝泊まりしているのだ。
「スミコ様が伝えた『野外活動』ですわ! 不便を楽しみ、自然と一体化する……これぞスミコ様が我らに示した、高尚な儀式!」
「……」
いや、あの女はただ「自分が快適に過ごしたい」だけだったはずだ。
車中泊最高とか言っていた記憶がある。
それが、どうしてこうなったのか。
「子供たちの間でも流行っておりますのよ。『固定資産はダサいですわ! 時代は移動式住居ですわよ!』とな」
「国民の定住意識が崩壊しかけておるが、よいのか?」
「構いませんわ! これぞ文化の夜明けですもの!」
ダメだこの女王。完全に染まっておる。
さらに、王都の神殿。
そこには、古くから信仰されている「山女神ミカデス」「銀猫女神ヤスコニャン」の像があるのだが……。
その横に、新しい像が追加されていた。
「鉄馬車女神スミコ」の像だ。
「……誰じゃこれは」
フブキは思わず突っ込んだ。
石像の顔が、美化されすぎている。
慈愛に満ちた微笑み、聖母のような眼差し。
実物は、もっとこう……地味な女だったはずだ。
「何を仰いますの! スミコ様の内なる美しさを表現したら、こうなりましたのよ!」
「なるほどのう(フィルターがかかりすぎておる……)」
まあいい。
これで、我が子ソーちゃんの育ての親が、一国の「女神」になったわけだ。
悪い気はしない。
あのニートな我が主(山の神)よりは、よほど立派な肩書きがついた。
「いつかまた、スミコ様が降臨された時……この国を見て、喜んでいただけるようにせねばなりませんわ!」
シュナウザー女王は、キラキラした目で遠い空を見上げている。
スミコが全力で逃げていった方角だ。
「……その時、あやつがドン引きせねばよいがのう」
フブキは苦笑いしながら、眼鏡を押し上げた。
街には、まだ微かにカレーの匂いが漂っている気がした。
聖女の爪痕は、思った以上に深く、そしておかしな形でこの国に刻まれてしまったようである。
「どうして召喚聖女というものは、世界に波乱を巻き起こしてしまうのじゃろうか……」
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