25.神獣テンコと、二人きりのカツサンド・パーティ
そんなこんなありましてー、私たちはエヴァシマの外に居ましたー。
なんで?
いろいろあったんですよぉ。
「まさか、獣人さんたちにあっという間に噂が広がってしまうなんてね……」
エヴァシマ外、野外活動車の中。
私は一人ため息をつく。
一方、テンコは床暖房に背中をこすりつけながら、尋ねる。
『なぜ妾が、こんな隠れてこそこそしないといけないのでしょう? 街が目前にあるのに、街の外で野営なんて』
「おまえのせいじゃい!」
『? 妾の? 妾は何も悪くないですよ』
「あんたのせいで、聖女ってばれちゃったんでしょうがっ!」
経緯を説明しよう。
城を出た、私たち。魔物の買い取り査定はまかせ、さぁて宿にでもとまるっかなーって思っていた。
しかし! そこへ押し寄せる、獣人達。
そして皆が口々に言うのだ。聖女様、聖女様、と。
なぜって?
神獣を連れてるからだよ!
「あんたのせいで聖女ってばれちゃったんでしょうが……」
『どうしてですか?』
「なんか、神獣を連れていけるのって、聖女様だけなんだってさ」
神獣を連れた女→聖女なのでは?→聖女に違いない!→聖女だ!
と、大騒ぎになってしまったのだ。
せっかく女王さまが、聖女であることを、黙ってくれようとしたのによぉ~。
で、街を追われた私たちは、外でこうして野営している次第。
ここは街からちょいと離れてる。だから、人が寄ってこないのだ。外は魔物が出るからね。
「てか、あんた。そのデカい図体、なんとかできないわけ?」
こーんなでっかい、いかにも特別な獣です、みたいなのを連れてるから、目立つのだ。
「ネット小説だとさぁ~。しゃべる神獣って、大抵、人間の姿になるじゃん? あんたそういうのできないの?」
『フッ……愚かな人の子よ。貴方に一つ知恵を授けてあげましょう』
ナチュラルに上から目線であーはらたつのり。
『神獣が人の姿を獲得するのには、長い長い年月が必要なのです。妾はまだそこまで老いてないのです』
それは知ってる。ガキだって事は。
『神獣が人に成る方法は、他にも、人と従魔契約を交わすというものもあります』
「ほーん? 従魔になると人になれるん?」
『ええ。従魔は、主人にもっとも仕えやすい姿を獲得するのです。主人が人なら、人の姿を』
なるほどー。
「あんたとは従魔契約を交わしてないから、人になれないってことね」
『そういうことです。一つ、賢くなりましたね。妾のおかげです』
たしかに、ネット小説だと、契約を結んだ後に人間の姿になっていたよーな。(例外もあるけども)
でも、私はテンコと、そう言う契約は結んでいない。
あくまで対等な友人関係だ。
『無論、スミコが本当に嫌がってるのであれば……従魔の契約を交わすことも、やぶさかではありませんが……』
まったく、そんな嫌そうな顔で言うんじゃあないよ。
多分テンコは、主従よりも、友達で居たいんだろう。
やれやれ。しょうがない。スミコ姉さんは、大人ですからね。
「やーよ。あんたと従魔契約なんて。めんどくさそう」
『! め、めんどくさいとはどういうことですかっ!』
「主人には従僕を食べさせる義務があるー、とかぬかすんでしょ? こんな食いしん坊を? 無理無理。そんなのごめんだね」
『スミコ……』
「あんたは友達。それ以上でもそれ以下でもない」
テンコのせいで目立ってしまうのは、まあ、しょうがない。それを選んだ私の責任だ。
それに、もとより一カ所に長居しないって方針で旅してるんだ。
だから、別に良いよ。多少の不便は、がまんしようじゃあないか。
この幼くも、可愛い狐さんのためにね。
『ふ、ふふ~……♡』
ずりずり、とテンコが近付いてくる。そして、ぴったり寄り添ってきた。
もふっ。
「おっふ……」
思わず、口からそんな声がもれてしまう。
な、なんだこのモフモフ感。やわらかすぎる。
まるで羽毛布団だ。しかも、お日様のもとでよーく天日干しをしたやつっ。
柔らかいのはもちろんのこと、このお日様の匂いがする。
『人の子スミコよ』
「……ぐぅ」
『スミコよ』
「はっ。ねむってしまうところだった……。なに?」
『そんなところで寝ると風邪を引きます』
「…………」
『なんですか?』
「いや、あんたに人を思いやる気持ちがあるんだなって」
『ふん。当然。そこらの畜生と違い、妾は知性ありし神聖なる獣。友を思いやる気持ちくらいあります』
「さいで。あんがとモフモフ」
しゃべり方は偉そうだけど、中身は優しい女の子。それがテンコ、だと私は思ってる。
良い子だわ。
「ご飯にする? お風呂にする?」
『馳走を用意せよ……!』
「はいはい」
どんだけ食うのよ。全くこの子は本当に食いしん坊なんだからさーもー。
私は立ち上がって、台所に立つ。
『ふむ、いつものようにぶつくさ文句を言うのかと思いましたよ。人の子スミコよ。今日はやけに素直に馳走を用意するではありませんか』
「おなか空かせてる子どもに、ご飯を作ってあげなきゃってね」
といっても、今からまた料理を一から作るのはめんどくさい。
今日はいろいろあって、疲れたし。
さくっとご飯を作って、さっさと風呂入って寝ちゃおう。
「まずはパンを焼きます」
トースターに食パン(KAmizonで購入)をセット。
その間に、アイテムボックスからキャベツを取り出す。
KAmizonで購入した新鮮なキャベツを、ストトトンっ、と千切りにする。
『人の子よ……。草は嫌いです』
「草っていうな。野菜じゃ。あとなんでもたべないと……」
おっきくなれないよ、とそういうだろう。だがもうこの子は十二分におっきいか。
いや、待て。子どもでこのサイズってことは、大人になるともっと。
そのとき、脳裏に、食費君が駆けていった。
週を重ねるごとに、食費君が増えていく。
やがて脳内を、無数の食費君がかけていたので。
私は考えるのを辞めた。
それより食事の準備っしょぉ!
トーストに、アイテムボックスから取り出したとんかつをはさみ、キャベツ、そしてソースをかけてサンドする。
「よっし、できたよー」
『人の子スミコよ……! 遅い、遅すぎますよ!』
「はいはいすんませんね」
リビングへと、移動。お皿にのっているのは、大量のサンドである。
『……ただのサンドイッチですか』
今更だけどさ、サンドイッチってこっちに概念が存在するんだ。
あれって元ネタは、現実世界の人の名前じゃあなかったっけ?
なんでこっちに。まあ異世界だから、何でもありなのか?
「ただのサンドイッチじゃあございません。カツサンドよ」
『かつさんど……。ほぅ……どれ』
ぬぅ、とテンコがカツサンドに顔を近づける。
むしゃりっ。
『ぬほっ♡ こ、これは……!』
くわっ、とそのおっきなまなざしを、さらに大きく見開く。
『な、なんということっ! 美味! 美味すぎる!』
まーた貧弱語彙。
『なんと……むしゃ……しゃく……びみ♡ びみ~♡』
ぶぉんぶぉん、とテンコがしっぽを激しく揺らす。
『ただのとんかつより、美味ですよっ! なんか……こう……美味!』
「はいはい、どーも。私も食おっかな」
たくさんおいてある、カツサンドの一つを、私は手に取る。
サクッ! もぐもぐ。うん!
「うっま」
カツは、あげたてをアイテムボックスにいれておいた。
この中は時間が停止してる。つまり、揚げたてを維持できてるってことだ。
野菜もそうだ。新鮮な状態をたもったままのキャベツを使われてる。しゃきしゃきでちょーうめえ。
カツはサクサク。野菜はみずみずしい。
とろりとかけた、甘塩っぱいソースと、カツの肉汁が合わさり、それらをパンと一緒に食べる!
さくっ、じゅわっ! しゃきしゃきっ!
そして、パンの甘みも加わって、うますぎる!
『人の子よ、スミコよ……そなたはほんとに、料理の天才ですね』
むしゃむしゃ、とテンコがカツサンドを頬張りながら言う。
「大げさな」
『この妾を、少量の料理で満足させているのですから。たいしたものです』
少量って。前も思ったけど。結構私作ってますよ、量。
まーでも、この子の体格から考えると、これっぽっちってなっちゃうのかな。
ま、いずれにせよ、カツサンド喜んでくれたようで何よりである。
「私はこれにちょい足ししよ……」
チューブのからしを、少しだけカツサンドに塗る。
そして、食べる。
サクッ!
「ん~っ。ぴりっと辛いのがくわわって、ソースとカツパンの甘みうま味が際立つ~」
『人の子よ! 妾にもその黄色いのをつけるのですっ!』
「えー、辛いよ? 大丈夫? 舌お子ちゃまなのに」
『ふんっ。問題ありません。それに妾はお子ちゃまではぬぅあい!』
いや子どもだと思うけど。
まあ本人が良いって言うならね。
ねりからしを、ほんのちょっぴり、カツサンドに塗る。
『どれ……。!?!?!?!?!?!?!?』
テンコはごろんごろんっとその場を行ったり来たりする。やめい。
「ね、辛いでしょ?」
『くぅん……くぅぅん……くぉおおん……』
辛そうだ。私は冷蔵庫から、牛乳を取ってくる。
大皿に牛乳をそそぎ、彼女の前に置いてあげる。
「ほら、飲みな」
テンコはお皿に顔を付けて、ぺちゃぺちゃと牛乳をなめる。
『うむ……この液体も美味……! パンで失った水分が戻っていきます……! なんですかこれは?』
「牛の乳だよ」
『ばかな……牛の乳が、こんなに濃厚な味をしてるわけがないですっ』
そら現実の、品種改良された、乳牛様のおちちだからね。
しかも北海道産を、KAmizonでお取り寄せしたのである。
どれ私もカツサンド、ぱくっ。
そして牛乳で流し込む、ごくん。うん。
サクサクカツサンドに、牛乳がしみこんで、実に美味しい。
「あー……うまいっすわー」
『スミコよ。妾にもっと牛の乳を、あの美味なる乳を!』
そんな風に、二人で夕飯を食べたのだった。なんか結構楽しかった。二人の食事も悪くない。
【^ω^】
って、は! ごめんキャンピー! 別に仲間はずれにしたわけじゃあないよっ。
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