22.最強神獣、「床暖房」と「とんかつ」の前に陥落する
キャンピーに自動運転を任せ、私は料理を作ることにした。
『人の子スミコよ』
「はいはいなんざんしょ?」
キッチンに立つ、私。オープンキッチンなので、こっからリビングスペースの様子は見える。
神獣のテンコさんは、カーペットの上に、だらーんと仰向けに寝そべっていた。
「いや神獣、神聖を失ってるぞ」
『この床は、どうなってるのですか。実に暖かいですよ……』
「床暖房なんすわ」
『ゆか……たん?』
「床暖じゃ」
なんだよゆかたんって。アイドルの愛称かよ。
「暖かい床だよ。そういう風に作ってあるの」
『なんと! 人の子はここまで凄い技術を持っていたのですね……やるではありませんか……はふん♡』
テンコは仰向けになった状態で、くねくねと体をよじる。
野生はどうした。神聖はどうした?
お前のその姿をみて、一体誰が神獣と思うのか。
『スミコよ。早く馳走を用意するのです』
「はいはい……」
オークを倒し、素材化を行った。
素材化スキルを私は持っているのである。どうやら、野外活動スキルに、素材化は含まれているらしい。
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野外活動
→外で安心・安全にアウトドアが行える
~~~~~~
このスキルがあることで、アウトドア行為への、プラス補正がかかるようである。
素材化は、そのアウトドア行為の一つだ。
で、オークを素材化して、オーク肉を手に入れた次第。
オークってようは豚だ。豚肉をゲットしたわけだ。
豚肉。食いしん坊。ときたら、アレを作るぜ!
まずは豚肉の筋に切り込みを入れる。
次に塩と胡椒を全体にまぶす。
「ああ! 貴重な塩と胡椒を、あんなにふんだんに……!」「とんでもなく豪華な料理を、スミーさんが作ろうとしてる……!」「申し訳ないわぁ~……」
そーいやこっちは香辛料などは、高級品なんだけっか。
異世界人たちは、申し訳なさそうにしてる。
『人の子よ。早く馳走を用意なさい。遊んでないで』
「あそんでねーっつーの。料理やめちゃうぞ?」
『きゅうぅん……』
きゅうんだって。可愛いとこもあるじゃあないのよさ。
よしよし。
続いて、薄力粉をまぶす。バットの上に、といた玉子を入れる。んで、玉子に肉を付ける。
別のバットの上には、パン粉がどっさりとのっている。
玉子付きのお肉を、パン粉の上にのっける。
そんで、まんべんなくパン粉を、豚肉にまぶしていく。
『肉に玉子と白い粉と、さらに白い粉をまぶしてますが……そんなの、美味しいのですか?』
ぬぅう、とキッチンに、テンコが顔を覗かせる。
「まあ、今に見てなさいって。ちょー美味しいから」
『ふふん、人の子スミコよ』
そのフレーズ気に入ったの?
『妾は美食家なのです。このような、粉をまぶしただけの豚肉で、満足するわけがありません』
「ばっかおまえ、これで終わりなわけないでしょ? こっからが、重要な作業なの」
私は、コンロに火を入れる。
どぼどぼ、と鍋の中に、油を注ぐ。
『それは何をしてるのですか?』
「油たっぷり入れてるの」
『ほぅ……』
「へえ……油!?」「こんな美しい油初めて見たぞ!?」「すごいわ!」
いつの間にか、リダケンさん達も集まってきた。
いやーん、照れる~。なーんてね。
「まだ料理できてないんで、戻っててもらってほら」
「「「「気にしないで、どうぞ」」」」
あ、はい。
『人の子スミコよ。なにをもたついているのです。天狐の馳走を用意するのです』
おーまーえーはよー。めしめし五月蠅いよ。ったくもぉ~。
てゆーかね、君さっきポトフひとりでめちゃくちゃ食べてませんでした?
まーたおなか空いちゃったの? なんなの、育ち盛りなの?
育ち盛りなんだろう。
なんか忘れてしまいそうになるけど、テンコはデカい図体をしているが、まだまだ子どもなのだ。
人間の私では、天狐の実年齢はわからない。人間換算で何歳なのかもわからない。
でも、思った以上に、幼いのかもしれないね。
ああもうっ。そう思うと、不思議とこの食いしん坊狐から文句を言われても、嫌な気分にならない。
「じゃ、ちょっと待っててね」
パン粉をまぶした豚肉を、油の中に投入!
ジュゥウウウウウウウウウ。
『ぬぉん! なんといい音……!』
「揚げ物!? しかも、こんな綺麗な油を大量に使って!?」
「な、なんて贅沢な……」
リダケンさん達が驚いてる。あれ、贅沢なの?
油が綺麗って言っていたけど。もしかして。
「油って、もっとドロドロしてたりします?」
「ええ。大衆食堂の調理場の油は、そりゃあもう、ヘドロみたいで……」
なるほど。油も貴重なんだ。だから、使い回してると。
うへえ、いかんですよ、油の使い回しは。体に良くないってネットで見たことある。
『ひ、人の子スミコよ……ま、まだですかっ! 馳走は、まだなのですかっ!』
もふもふしっぽが、ゆらゆらと揺れている。口の先からはよだれが垂れていた。子犬みたいで、まあ、ちょびっと可愛い。
無論キャンピーが一番可愛いからね。
油でからっと揚げて、それをキッチンペーパーの上にのっけて、完成!
「とんかつ、一丁上がり!」
みんな大好きとんかつを作っていたのだ。
豚肉はまだまだある。たっくさん揚げまくる。
『くんくんくん……。あー……ん』
「これ、つまみ食い厳禁」
『もうできてるではありませんかっ。そ、それにこの料理は、熱々のうちに食べるものではないのですかっ! 妾は賢いので、それヲ知っておるのです! あつは、かついうちに食えと!』
「カツは熱いうちに食えって言いたいの……?」
あんたの発言から知性は感じられんぞ。
「あんたどうせたっくさん食べるんでしょう?」
『そんなの聞かずともわかることでしょうっ!』
「だから、たくさん揚げるから、ちょっと待ってて」
『この天狐を待たせるなんて! 良い度胸ですねっ!』
「ちゃんと待てができないと、カツはあげられません」
『しかし妾は賢いので、ちゃんと待てをしてあげましょう! 賢いので!』
フッ。おもしれえ女。
とんかつを揚げまくった後。
「はいごはんですよー」
「「「「うぉおおお! うまそぉおおおおおおおおおおお!」」」」
『うひょー!』
「…………」
『はっ! こほん。ひ、人の子スミコ……さ、さぁ早く! 早くこの天狐に、馳走を献上するのですっ! 早くしてぇええ……!』
やっぱこっちが素、なんだろうなぁ。可愛い子だよ。
テーブルを囲う、私たち。
揚げたてサクサク熱々のとんかつを前に、みんなよだれを垂らしてる。
特に、テンコは滝のようなよだれを垂らしていた。
『いただいます! サクッ……! んぅう~~~~~~~~~~~~~~♡』
ぶぉんぶぉんっ、とテンコがしっぽを左右に揺らす。
そして、バッ! と九尾のしっぽを広げた。クジャクの尾羽みたいだ。
『美味……!』
「そう、美味しいか」
『美味です! 美味であります! 美味なり……! さくさく……美味!』
あいっかわらず語彙力貧相だこと。
まあ美味しそうにカツを頬張ってるのかわいいからいいけどさ。
「いやほんと、びっくりしました。こんな美味しい揚げ物が、世界に存在するとは……」
リダケンさんたちも、夢中で、とんかつを食べている。
どれ私も一口。
サクッ。じゅわ。
んっ。美味しいわ~。
サクサクの衣。そして、分厚い肉がベストマッチしてる。
しかもオークの肉って、けっこー柔らかいな。
ここ、脂身、まったくない。
なのに、すっごくジューシィだ。うまみたっぷりの肉汁が、口のなかにあふれかえる。
「脂身もなく、ここまでジューシィだなんて……オーク肉……やるわ……」
『スミコ! カツをもっと!』
「って、もうないの!?」
あれぇ!? 山のように作っておいたとんかつが、なーくなってるじゃあないですかー!?
『まだ肉はあるのでしょう!? カツを、カツをっ!』
「はいはい……」
ったく、しょうがないなぁ~。
私はとんかつをさらに揚げて、食卓に並べる。
「ああ……幸せ……」「まさか旅の途中で、こんな美味しいもの食べれるなんて……」「スミーさんは天才料理人だ……」
「おれらのパーティに欲しいくらいだなぁ~……」
うんうん、とそろってうなずくリダケンさんたち。光栄ではあるけど。
『何をばかなっ! スミコは妾の友達っ。そなたらには譲りませんよ!』
独占欲をむき出しにするテンコがまあ可愛いこと。
「すんません、パーティには入れないです」
「「「がっくし……」」」
ごめんね。でも私、召喚者だし。こいつ神獣だし。キャンピーは野外活動車だし。
あんまり、私らのそばにいないほうがいいと思うよ。トラブルの火種×3もあるしね。
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