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捨てられ聖女は万能チート【キャンピングカー】で快適な一人旅を楽しんでる  作者: 茨木野


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22/31

22.最強神獣、「床暖房」と「とんかつ」の前に陥落する

 キャンピーに自動運転を任せ、私は料理を作ることにした。


『人の子スミコよ』


「はいはいなんざんしょ?」


 キッチンに立つ、私。オープンキッチンなので、こっからリビングスペースの様子は見える。


 神獣のテンコさんは、カーペットの上に、だらーんと仰向けに寝そべっていた。


「いや神獣、神聖を失ってるぞ」


『この床は、どうなってるのですか。実に暖かいですよ……』


「床暖房なんすわ」


『ゆか……たん?』


「床暖じゃ」


 なんだよゆかたんって。アイドルの愛称かよ。


「暖かい床だよ。そういう風に作ってあるの」


『なんと! 人の子はここまで凄い技術を持っていたのですね……やるではありませんか……はふん♡』


 テンコは仰向けになった状態で、くねくねと体をよじる。

 野生はどうした。神聖はどうした?


 お前のその姿をみて、一体誰が神獣と思うのか。


『スミコよ。早く馳走を用意するのです』


「はいはい……」


 オークを倒し、素材化を行った。

 素材化スキルを私は持っているのである。どうやら、野外活動アウトドアスキルに、素材化は含まれているらしい。


~~~~~~

野外活動アウトドア

→外で安心・安全にアウトドアが行える

~~~~~~


 このスキルがあることで、アウトドア行為への、プラス補正がかかるようである。

 素材化は、そのアウトドア行為の一つだ。


 で、オークを素材化して、オーク肉を手に入れた次第。

 オークってようは豚だ。豚肉をゲットしたわけだ。


 豚肉。食いしん坊。ときたら、アレを作るぜ!


 まずは豚肉の筋に切り込みを入れる。

 次に塩と胡椒を全体にまぶす。


「ああ! 貴重な塩と胡椒を、あんなにふんだんに……!」「とんでもなく豪華な料理を、スミーさんが作ろうとしてる……!」「申し訳ないわぁ~……」


 そーいやこっちは香辛料などは、高級品なんだけっか。

 異世界人リダケンさんたちは、申し訳なさそうにしてる。


『人の子よ。早く馳走を用意なさい。遊んでないで』


「あそんでねーっつーの。料理やめちゃうぞ?」


『きゅうぅん……』


 きゅうんだって。可愛いとこもあるじゃあないのよさ。

 よしよし。


 続いて、薄力粉をまぶす。バットの上に、といた玉子を入れる。んで、玉子に肉を付ける。


 別のバットの上には、パン粉がどっさりとのっている。

 玉子付きのお肉を、パン粉の上にのっける。

 そんで、まんべんなくパン粉を、豚肉にまぶしていく。


『肉に玉子と白い粉と、さらに白い粉をまぶしてますが……そんなの、美味しいのですか?』


 ぬぅう、とキッチンに、テンコが顔を覗かせる。


「まあ、今に見てなさいって。ちょー美味しいから」


『ふふん、人の子スミコよ』

 

 そのフレーズ気に入ったの?


わらわは美食家なのです。このような、粉をまぶしただけの豚肉で、満足するわけがありません』


「ばっかおまえ、これで終わりなわけないでしょ? こっからが、重要な作業なの」


 私は、コンロに火を入れる。

 どぼどぼ、と鍋の中に、油を注ぐ。


『それは何をしてるのですか?』


「油たっぷり入れてるの」


『ほぅ……』

「へえ……油!?」「こんな美しい油初めて見たぞ!?」「すごいわ!」


 いつの間にか、リダケンさん達も集まってきた。

 いやーん、照れる~。なーんてね。


「まだ料理できてないんで、戻っててもらってほら」


「「「「気にしないで、どうぞ」」」」


 あ、はい。


『人の子スミコよ。なにをもたついているのです。天狐の馳走を用意するのです』


 おーまーえーはよー。めしめし五月蠅いよ。ったくもぉ~。

 てゆーかね、君さっきポトフひとりでめちゃくちゃ食べてませんでした?


 まーたおなか空いちゃったの? なんなの、育ち盛りなの?

 育ち盛りなんだろう。


 なんか忘れてしまいそうになるけど、テンコはデカい図体をしているが、まだまだ子どもなのだ。

 人間の私では、天狐の実年齢はわからない。人間換算で何歳なのかもわからない。


 でも、思った以上に、幼いのかもしれないね。

 ああもうっ。そう思うと、不思議とこの食いしん坊狐から文句を言われても、嫌な気分にならない。


「じゃ、ちょっと待っててね」


 パン粉をまぶした豚肉を、油の中に投入!


 ジュゥウウウウウウウウウ。


『ぬぉん! なんといい音……!』

「揚げ物!? しかも、こんな綺麗な油を大量に使って!?」

「な、なんて贅沢な……」


 リダケンさん達が驚いてる。あれ、贅沢なの?

 油が綺麗って言っていたけど。もしかして。


「油って、もっとドロドロしてたりします?」


「ええ。大衆食堂の調理場の油は、そりゃあもう、ヘドロみたいで……」


 なるほど。油も貴重なんだ。だから、使い回してると。

 うへえ、いかんですよ、油の使い回しは。体に良くないってネットで見たことある。


『ひ、人の子スミコよ……ま、まだですかっ! 馳走は、まだなのですかっ!』


 もふもふしっぽが、ゆらゆらと揺れている。口の先からはよだれが垂れていた。子犬みたいで、まあ、ちょびっと可愛い。

 無論キャンピーが一番可愛いからね。


 油でからっと揚げて、それをキッチンペーパーの上にのっけて、完成!


「とんかつ、一丁上がり!」


 みんな大好きとんかつを作っていたのだ。

 オーク肉はまだまだある。たっくさん揚げまくる。


『くんくんくん……。あー……ん』


「これ、つまみ食い厳禁」


『もうできてるではありませんかっ。そ、それにこの料理は、熱々のうちに食べるものではないのですかっ! わらわは賢いので、それヲ知っておるのです! あつは、かついうちに食えと!』


「カツは熱いうちに食えって言いたいの……?」 


 あんたの発言から知性は感じられんぞ。


「あんたどうせたっくさん食べるんでしょう?」


『そんなの聞かずともわかることでしょうっ!』


「だから、たくさん揚げるから、ちょっと待ってて」


『この天狐を待たせるなんて! 良い度胸ですねっ!』


「ちゃんと待てができないと、カツはあげられません」


『しかしわらわは賢いので、ちゃんと待てをしてあげましょう! 賢いので!』


 フッ。おもしれえ女。

 とんかつを揚げまくった後。


「はいごはんですよー」

「「「「うぉおおお! うまそぉおおおおおおおおおおお!」」」」


『うひょー!』


「…………」


『はっ! こほん。ひ、人の子スミコ……さ、さぁ早く! 早くこの天狐に、馳走を献上するのですっ! 早くしてぇええ……!』


 やっぱこっちが素、なんだろうなぁ。可愛い子だよ。

 テーブルを囲う、私たち。


 揚げたてサクサク熱々のとんかつを前に、みんなよだれを垂らしてる。

 特に、テンコは滝のようなよだれを垂らしていた。


『いただいます! サクッ……! んぅう~~~~~~~~~~~~~~♡』


 ぶぉんぶぉんっ、とテンコがしっぽを左右に揺らす。


 そして、バッ! と九尾のしっぽを広げた。クジャクの尾羽みたいだ。


『美味……!』


「そう、美味しいか」


『美味です! 美味であります! 美味なり……! さくさく……美味!』


 あいっかわらず語彙力貧相だこと。

 まあ美味しそうにカツを頬張ってるのかわいいからいいけどさ。


「いやほんと、びっくりしました。こんな美味しい揚げ物が、世界に存在するとは……」


 リダケンさんたちも、夢中で、とんかつを食べている。

 どれ私も一口。


 サクッ。じゅわ。

 んっ。美味しいわ~。


 サクサクの衣。そして、分厚い肉がベストマッチしてる。

 しかもオークの肉って、けっこー柔らかいな。


 ここ、脂身、まったくない。

 なのに、すっごくジューシィだ。うまみたっぷりの肉汁が、口のなかにあふれかえる。


「脂身もなく、ここまでジューシィだなんて……オーク肉……やるわ……」


『スミコ! カツをもっと!』


「って、もうないの!?」


 あれぇ!? 山のように作っておいたとんかつが、なーくなってるじゃあないですかー!?


『まだ肉はあるのでしょう!? カツを、カツをっ!』


「はいはい……」


 ったく、しょうがないなぁ~。

 私はとんかつをさらに揚げて、食卓に並べる。


「ああ……幸せ……」「まさか旅の途中で、こんな美味しいもの食べれるなんて……」「スミーさんは天才料理人だ……」

「おれらのパーティに欲しいくらいだなぁ~……」


 うんうん、とそろってうなずくリダケンさんたち。光栄ではあるけど。


『何をばかなっ! スミコはわらわの友達っ。そなたらには譲りませんよ!』


 独占欲をむき出しにするテンコがまあ可愛いこと。


「すんません、パーティには入れないです」


「「「がっくし……」」」


 ごめんね。でも私、召喚者だし。こいつ神獣だし。キャンピーは野外活動車キャンピングカーだし。

 あんまり、私らのそばにいないほうがいいと思うよ。トラブルの火種×3もあるしね。


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トンカツ食べに行ってきます(笑)
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