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捨てられ聖女は万能チート【キャンピングカー】で快適な一人旅を楽しんでる  作者: 茨木野


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19/31

19.自称・美食家の最強モンスター、ご飯につられて仲間になりました

 私こと乗鞍のりくら澄子は、リダケンさんたちを連れて、天狐討伐へとやってきた。

 しかし天狐は悪いことをしておらず、むしろ、害をなしていた魔物を倒していたことが判明。

 そして天狐は私を料理番にしようとしたのだった!


 ……最後だけちょっとよくわからないですねー。なんで料理番?


「さ、撤収しましょー」


『待ちなさい、人の子よ。スミコよ。待つのです!』


「待ちません」


『料理番をするのです……!』


「嫌です!」


『くぅん……』


「可愛く泣いてもだめだから」


 はぁ……と私はため息をつく。


「だいたい、なんで私をそばに置こうとするのさ?」


『よくぞ聞きました!』


 ぶわっ、と天狐がしっぽを大きく広げる。って……!


「あんたしっぽ9つもあったの……」


 あれじゃん、化け狐だってばよ! じゃん。

 普段は1本しかなかったのに。


『ええ。興が乗ると増えるのです』


「あ、そ……」


 まさに、九尾の狐。こいつ、異世界だと天狐って呼ばれてるけど、多分玉藻の前とかの元ネタなんだろうな……。


『妾が料理番を欲する理由……。それは、妾が美食家だからです!』


 美食家ぁ~? 本当だろうか。疑わしい。

 ポトフに対して美味いしかいわない女だぞ……?


『妾は元々、山の神のもとで暮らしていたのです』


「山の神?」


 なんか、ちょいちょい出てくるな。


『山の神にして慈愛の賢女神ミカデス様のもとで、妾は暮らしていたのです』


「賢女神……ミカデスさんね」


 なんか賢そうな名前。


『ミカデス様のもとには、優秀な料理人がいたのです。そこでは、古今東西、あらゆる美食があって、妾たち神獣たちは、それはもう毎日美味しいものを食べて育ちました』


「ほーん……」


 どうやら山の神ってやつのもとで、こいつは暮らしていたらしい。

 で、美味しいものをたらふく食っていたと。


「で?」


『ある日、山の神に言われたのです。【そろそろ独り立ちしなさい】と』


 まあ、親元をいつかは離れないとね。


『妾は山の神の言いつけ通り、山を下りました。そして聖域をナワバリとして生きておりました……。がっ! 一つ問題が』


「はい」


『下界の飯は……まずいのです!』


「はぁ……」


『生肉、生魚、野草……ぜんぶ、美味しくないのです! 山の神のところで出てきた肉も魚も野菜も、全部おいしかったのに!』


 そりゃ単に、調理していたから美味しかったのでは……?

 素材そのままって言い方はあれだけど、生魚とか食べても美味しくないしね。


『美食家の妾はたいそう困りました。このままでは飢えて死んでしまうと……。そんな折、スミコ、貴方が妾の前に現れたのです。これも山の神の思し召しでしょう』


 なるほど、幸運にも料理人が目の前に現れたと。


『さぁ、スミコ! これでわかったでしょう。妾の料理人となるのです!』


「まあ、事情はわかったけど……私に関係なくない?」


 単にこいつが、美味しいご飯食べたいってだけじゃんね。


「ようは、あんたの飼い主になれってことでしょ?」


『な、な、なーーーーー!? なんと不遜なぁ……!』


 ぶわッ……! と9つのしっぽが広がる。


『飼い主? 冗談じゃあないです! 我が主は山の神ミカデスさまだけっ! 貴方は料理人、つまりは妾の従者!』


「はい、おつかれおつかれー」


 だーれが好き好んで、こいつの下につくもんですか。


「さ、キャンピーかえりますよー」


『待ちなさい……! 待つのです! ま、まてぇい!』


 天狐が私の腰のベルトをくわえる。やめろ。


『仕方ないですね、妾が下についてやってもいいですよ!』


「だから要らないってば」


『従魔の契約を結んであげてもいいのですよ!』


「じゅうま?」


『サーバントといって、主人に仕える存在、まあ、使い魔のようなものです』


「あ、そーゆーの間に合ってますんで。うちにはもう、可愛い相棒がいますんで。ね、キャンピー」


 可愛いキャンピーは、ぐっ、と腕を曲げて力こぶを作る。やだもう可愛い。


「だから従魔契約なし」


『ふぐぅうううううううう!』


 ぱっ、と天狐がベルトを離して、その場にうずくまる。

 まあ、ちょっと哀れだとは思ったけど……。

 ええい、いかんいかん。情に流されてはいけませんよ。

 キャンピーを連れて、その場を後にしようとして……。


『……ママ。……寂しい』


「…………」


 ママ、か。今更だけど、この子……幼いのかもしれない。

 偉そうな態度やしゃべり方も、大人をまねてやってるのかもしれない。

 まだまだ幼いのに、独り立ちするように言われて、戸惑っているのかもしれない。


 ……それに。

 この子は、フェンリル・ゾンビから人を守っていた。

 誰からも感謝される訳じゃあないのに。


 ……ちょっと、気持ちはわかる。

 私も、ブラック企業で、サビ残しまくっていたから。

 それなのに、会社は私の努力を全く認めてくれなかった。


 それって……ちょー辛いよね。それを子どもの頃からやってるんだもん、天狐のやつ。

 ……まったく。しょうがないなぁ!


「わかった」


『料理番になってくれるのですかっ!』


「あ、それは無理」


『ぬか喜びさせてっ!』


「その代わり……友達になら、なってもいいよ」


『友達……』


「そう。友達。主従関係とかじゃあない。対等な友達関係。それならいいよ」


 天狐の目に……ほろり、と涙が浮かぶ。


「なーに、泣いてるの?」


『ち、違います……! この偉大なる天狐様が、そんな……たかが、友達ひとりできたくらいで……ふぐうう……』

 

「泣いてるじゃん。よしよし」


 私は近付いて、天狐の頭をなでる。


「…………」なでなで。


 キャンピーも天狐の頭をなでていた。

 

「で、どーすんの?」


『し、仕方ないですねぇ……! 人の子が、そこまで望むというのであればっ。友達になってやっても、かまいませんっ!』


 どこまでも偉そうなやつ……まったく。

 けど子どもって思ったら、そこまで嫌な気持ちにはならなかった。


「じゃ、今日から友達だね。天狐。って、あんた名前は? 天狐って種族名でしょ?」


『よくぞ聞きました! 山の神ミカデス様にもらった、ありがたーい名前を、特別に教えてさしあげましょう!』


 山の神がつけた名前か。果たしてどんな偉そうな名前なんだろうか……。


『我が名は天狐の【テンコ】……!』


「…………」


 天狐のテンコって……。

 そのまんまじゃん! 

 え、ええー……山の神って、ネーミングセンスどうなってるの……? ちょっと残念すぎない……?


「テンコ……か。まあ覚えやすいからいいか。よろしくテンコ」


『ええ、よろしくです、人の子スミコよ』


「あとこの子は相棒のキャンピー」


「…………」ぺこりっ。


 キャンピーが頭を下げる。

 テンコもまた頭を下げる。


『これは丁寧な挨拶を。初めまして、妾はテンコ。そなたはキャンピーというのですね。これから旅の供として、よろしく』


 ……なんか私の時より、丁寧じゃない?

 キャンピーは、なんだかそわそわしていた。


『む? 妾の毛皮をさわりたいと? よいでしょう』


「…………♡」わーい。


 キャンピーはテンコに抱きついて、もふもふしてる。……って。


「テンコ、あんたキャンピーの言ってることわかるの?」


『わかりますとも。なぜって? 偉大なる山の神から力を貰ってますから……!』


 なるほどぉ……神的パワーによって、キャンピーの言葉がわかると。

 結構便利かもね。


「…………♡」


 キャンピーってば、もふもふしまくっている。……くっ。


「テンコ。私にもモフらせろ」


『ふふふ、卑しい人の子よ。よいでしょう。妾は寛容ですからね』


「むかつく言い方だわー」


 まあお許しがでたので、ちょいとお触りを。

 もふ……。

 ふぉおお……やわらけええ……。

 なにこれ、良く干した、羽毛布団みたいに、柔らかいし……。

 それに、暖かいし、いい匂い……。


「柔軟剤使ってる?」


『妾を愚弄してるのですかー!』


 こうして、私の旅にまたひとり、オトモができたのだった。

 そんな私たちを見て、リダケンさんが呆然とつぶやく。


「あの恐ろしい神獣を、手なずけてしまうなんて……スミーさん……すごい……」



【おしらせ】


※現在連載中の『捨てられ聖女は万能チート【キャンピングカー】で快適な一人旅を楽しんでる』の、


王子視点による外伝ショートストーリーを投稿しました。


『君を追放した、愚かな私』


▼澄子を追い出した王太子が、その後ざまぁされる話となってます。


https://book1.adouzi.eu.org/n1545lm/


(※ワンクリックで飛べます)


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― 新着の感想 ―
スミコと本名名乗ってるが大丈夫なのかな? あるいは天狐に対して信用はしてないから、偽名使ってるとリダケンさんたちは解釈してるのかな?
こんばんは。 そう言えば天狐もといテンコが倒したフェンリルゾンビ、死体は消滅したんですかね? もし残存してるなら、放置してたら毒が染み出してヤバそうというか。
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