19.自称・美食家の最強モンスター、ご飯につられて仲間になりました
私こと乗鞍澄子は、リダケンさんたちを連れて、天狐討伐へとやってきた。
しかし天狐は悪いことをしておらず、むしろ、害をなしていた魔物を倒していたことが判明。
そして天狐は私を料理番にしようとしたのだった!
……最後だけちょっとよくわからないですねー。なんで料理番?
「さ、撤収しましょー」
『待ちなさい、人の子よ。スミコよ。待つのです!』
「待ちません」
『料理番をするのです……!』
「嫌です!」
『くぅん……』
「可愛く泣いてもだめだから」
はぁ……と私はため息をつく。
「だいたい、なんで私をそばに置こうとするのさ?」
『よくぞ聞きました!』
ぶわっ、と天狐がしっぽを大きく広げる。って……!
「あんたしっぽ9つもあったの……」
あれじゃん、化け狐だってばよ! じゃん。
普段は1本しかなかったのに。
『ええ。興が乗ると増えるのです』
「あ、そ……」
まさに、九尾の狐。こいつ、異世界だと天狐って呼ばれてるけど、多分玉藻の前とかの元ネタなんだろうな……。
『妾が料理番を欲する理由……。それは、妾が美食家だからです!』
美食家ぁ~? 本当だろうか。疑わしい。
ポトフに対して美味いしかいわない女だぞ……?
『妾は元々、山の神のもとで暮らしていたのです』
「山の神?」
なんか、ちょいちょい出てくるな。
『山の神にして慈愛の賢女神ミカデス様のもとで、妾は暮らしていたのです』
「賢女神……ミカデスさんね」
なんか賢そうな名前。
『ミカデス様のもとには、優秀な料理人がいたのです。そこでは、古今東西、あらゆる美食があって、妾たち神獣たちは、それはもう毎日美味しいものを食べて育ちました』
「ほーん……」
どうやら山の神ってやつのもとで、こいつは暮らしていたらしい。
で、美味しいものをたらふく食っていたと。
「で?」
『ある日、山の神に言われたのです。【そろそろ独り立ちしなさい】と』
まあ、親元をいつかは離れないとね。
『妾は山の神の言いつけ通り、山を下りました。そして聖域をナワバリとして生きておりました……。がっ! 一つ問題が』
「はい」
『下界の飯は……まずいのです!』
「はぁ……」
『生肉、生魚、野草……ぜんぶ、美味しくないのです! 山の神のところで出てきた肉も魚も野菜も、全部おいしかったのに!』
そりゃ単に、調理していたから美味しかったのでは……?
素材そのままって言い方はあれだけど、生魚とか食べても美味しくないしね。
『美食家の妾はたいそう困りました。このままでは飢えて死んでしまうと……。そんな折、スミコ、貴方が妾の前に現れたのです。これも山の神の思し召しでしょう』
なるほど、幸運にも料理人が目の前に現れたと。
『さぁ、スミコ! これでわかったでしょう。妾の料理人となるのです!』
「まあ、事情はわかったけど……私に関係なくない?」
単にこいつが、美味しいご飯食べたいってだけじゃんね。
「ようは、あんたの飼い主になれってことでしょ?」
『な、な、なーーーーー!? なんと不遜なぁ……!』
ぶわッ……! と9つのしっぽが広がる。
『飼い主? 冗談じゃあないです! 我が主は山の神ミカデスさまだけっ! 貴方は料理人、つまりは妾の従者!』
「はい、おつかれおつかれー」
だーれが好き好んで、こいつの下につくもんですか。
「さ、キャンピーかえりますよー」
『待ちなさい……! 待つのです! ま、まてぇい!』
天狐が私の腰のベルトをくわえる。やめろ。
『仕方ないですね、妾が下についてやってもいいですよ!』
「だから要らないってば」
『従魔の契約を結んであげてもいいのですよ!』
「じゅうま?」
『サーバントといって、主人に仕える存在、まあ、使い魔のようなものです』
「あ、そーゆーの間に合ってますんで。うちにはもう、可愛い相棒がいますんで。ね、キャンピー」
可愛いキャンピーは、ぐっ、と腕を曲げて力こぶを作る。やだもう可愛い。
「だから従魔契約なし」
『ふぐぅうううううううう!』
ぱっ、と天狐がベルトを離して、その場にうずくまる。
まあ、ちょっと哀れだとは思ったけど……。
ええい、いかんいかん。情に流されてはいけませんよ。
キャンピーを連れて、その場を後にしようとして……。
『……ママ。……寂しい』
「…………」
ママ、か。今更だけど、この子……幼いのかもしれない。
偉そうな態度やしゃべり方も、大人をまねてやってるのかもしれない。
まだまだ幼いのに、独り立ちするように言われて、戸惑っているのかもしれない。
……それに。
この子は、フェンリル・ゾンビから人を守っていた。
誰からも感謝される訳じゃあないのに。
……ちょっと、気持ちはわかる。
私も、ブラック企業で、サビ残しまくっていたから。
それなのに、会社は私の努力を全く認めてくれなかった。
それって……ちょー辛いよね。それを子どもの頃からやってるんだもん、天狐のやつ。
……まったく。しょうがないなぁ!
「わかった」
『料理番になってくれるのですかっ!』
「あ、それは無理」
『ぬか喜びさせてっ!』
「その代わり……友達になら、なってもいいよ」
『友達……』
「そう。友達。主従関係とかじゃあない。対等な友達関係。それならいいよ」
天狐の目に……ほろり、と涙が浮かぶ。
「なーに、泣いてるの?」
『ち、違います……! この偉大なる天狐様が、そんな……たかが、友達ひとりできたくらいで……ふぐうう……』
「泣いてるじゃん。よしよし」
私は近付いて、天狐の頭をなでる。
「…………」なでなで。
キャンピーも天狐の頭をなでていた。
「で、どーすんの?」
『し、仕方ないですねぇ……! 人の子が、そこまで望むというのであればっ。友達になってやっても、かまいませんっ!』
どこまでも偉そうなやつ……まったく。
けど子どもって思ったら、そこまで嫌な気持ちにはならなかった。
「じゃ、今日から友達だね。天狐。って、あんた名前は? 天狐って種族名でしょ?」
『よくぞ聞きました! 山の神ミカデス様にもらった、ありがたーい名前を、特別に教えてさしあげましょう!』
山の神がつけた名前か。果たしてどんな偉そうな名前なんだろうか……。
『我が名は天狐の【テンコ】……!』
「…………」
天狐のテンコって……。
そのまんまじゃん!
え、ええー……山の神って、ネーミングセンスどうなってるの……? ちょっと残念すぎない……?
「テンコ……か。まあ覚えやすいからいいか。よろしくテンコ」
『ええ、よろしくです、人の子スミコよ』
「あとこの子は相棒のキャンピー」
「…………」ぺこりっ。
キャンピーが頭を下げる。
テンコもまた頭を下げる。
『これは丁寧な挨拶を。初めまして、妾はテンコ。そなたはキャンピーというのですね。これから旅の供として、よろしく』
……なんか私の時より、丁寧じゃない?
キャンピーは、なんだかそわそわしていた。
『む? 妾の毛皮をさわりたいと? よいでしょう』
「…………♡」わーい。
キャンピーはテンコに抱きついて、もふもふしてる。……って。
「テンコ、あんたキャンピーの言ってることわかるの?」
『わかりますとも。なぜって? 偉大なる山の神から力を貰ってますから……!』
なるほどぉ……神的パワーによって、キャンピーの言葉がわかると。
結構便利かもね。
「…………♡」
キャンピーってば、もふもふしまくっている。……くっ。
「テンコ。私にもモフらせろ」
『ふふふ、卑しい人の子よ。よいでしょう。妾は寛容ですからね』
「むかつく言い方だわー」
まあお許しがでたので、ちょいとお触りを。
もふ……。
ふぉおお……やわらけええ……。
なにこれ、良く干した、羽毛布団みたいに、柔らかいし……。
それに、暖かいし、いい匂い……。
「柔軟剤使ってる?」
『妾を愚弄してるのですかー!』
こうして、私の旅にまたひとり、オトモができたのだった。
そんな私たちを見て、リダケンさんが呆然とつぶやく。
「あの恐ろしい神獣を、手なずけてしまうなんて……スミーさん……すごい……」
【おしらせ】
※現在連載中の『捨てられ聖女は万能チート【キャンピングカー】で快適な一人旅を楽しんでる』の、
王子視点による外伝を投稿しました。
『君を追放した、愚かな私』
▼澄子を追い出した王太子が、その後ざまぁされる話となってます。
https://book1.adouzi.eu.org/n1545lm/
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