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捨てられ聖女は万能チート【キャンピングカー】で快適な一人旅を楽しんでる  作者: 茨木野


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18/31

18.天狐「妾の料理番にしてやろう」 私「お断りします」


 天狐は、自分に呪毒を浴びせた元凶、およびここにいる『何か悪い奴』の情報を持っているようだった。

 情報を引き出すためには、美味しい料理を提供しないといけないらしい。


 どうして?

 私にもわからん。まあ、腹減ってる時、長々と物を語りたくないのだろう。

 うーん、まあわかるっちゃわかるかなぁ? どうだろう。はよ話せって気持ちのが強いけども。


「じゃ、キャンピー、キャンピングカーモードになって」


『待ちなさい、人の子よ』


「澄子」


『スミコよ。ここは神聖なる森です。馬車は本来入ってはいけないのです。あの鉄馬車になるのは許せませんよ』


「鉄馬車……。鉄馬車か」


 まあ、こっちの現地人のひとたちに、キャンピーなんすわ、って説明しても無理か。なんじゃそら案件すぎる。

 それよりは、これは鉄馬車なんすよ、のほうが意味が通りやすいかも。

 馬使ってないけども。うん。鉄馬車って言うことにしよう、これから。


「でもさ、森で火は使っていいわけ?」


『それは問題ありません』


 いいんだ。馬車はNGで、火はOKって。基準ゆるゆるじゃなーい?

 まあいいけど。それが掟って言われたら、それ以上突っ込めないし。


 ということで、お料理です。

 まず、アイテムボックスからガスコンロを取り出す。

 続いて、キャンプ用に、ホムセンで買って置いたテーブルやら、調理道具やらを取り出す。


「天狐って苦手なもんとかある?」


『特にありません。が、強いて言えば不味いものでしょうか。妾は美食家なのです。味にはうるさいのです。不味い物を食わせるようなら、情報は一切与えてあげませんよ。それを念頭において、料理なさい』


 こいつ。丁寧な言葉を使ってるけど、節々から、私らを見下す色が滲み出てますよぉ~。

 そら、長生きしてるから偉いんだろうけどさ。

 まあいいや。

 私は調理を開始する。 


『あとあまり待たせないでくださいね。妾は今とても空腹なのです』


「注文の多い狐だなぁ~」


『妾は狐ではなく、偉大なる山の神に力をいただいた存在、天狐……! そんじょそこらのノラ狐と一緒にされると、この温厚な妾でもさすがに怒りを禁じ得ませんよ!』


「はいはい」


 なんかペラペラと喋るからか、神秘性がボロボロ落ちていくんだよなぁ。

 別に怖いってもう思わないや。キャンピーもいるし。


 そのキャンピーは私の隣でスタンバっている。

 まるで、料理番組のアシスタントさんだ。ちぃまいちゃんみたい。ちんまいし。


「じゃ、お野菜の皮を切って。できるかな?」


「…………」おー!


 やる気十分のキャンピー。可愛い。

 キャンピーが野菜の皮を剥いたり、切ってる間、私は次の工程の下準備。

 といっても、アイテムボックスから必要な食材を取り出したり、調味料を取り出したりするだけだけどね。


「ウィンナー。コンソメの素……。野菜は……切れたようだね。じゃ、ぶち込んで」


「…………」ぐっ。


 キャンピーはお鍋の中に、切ったお野菜を投入する。

 この子、人間より作業スピード速かった。さすが有能キャンピングカー。


 そして、アイテムボックスから、ミネラルウォーターを取り出す。

 てゆーか、キャンピングカーモードじゃあないと、水道使えないの、地味に不便だな。


『早く馳走を、馳走を早く用意するのです。ぼさっとするのではありません。そんなこと許可した覚えはありませんよ?』


「はいはいはい、すみませんねぼーっとして」


『なんですかその態度はっ。そなたが相対してるのはっ、誇り高き天狐! 最強神獣の一角、天狐なのですよっ!』


「はいはいはいはい」


『「はい」が増えました!? なんと無礼な……!』


「調理の邪魔してるの君なんですけど?」


『グッ……! 仕方ありませんね。特別に黙っててあげます』


 なんか喋るほどに、この天狐、おもしれー女ってことがバレていくな。

 あ、そうそう。こいつ多分雌。

 声がそんな女性っぽいんだよね。

 声の高い男って可能性もなきにしもあらずだけど。


 おっと、ぼーっとしてるとまた五月蠅く言ってくるだろうことが、容易に想像できた。

 だもんで、ちゃっちゃと仕上げちゃいましょう。


 つっても、あとはコンソメ、野菜、ウィンナーをぶち込む。

 後は塩胡椒で味を調える。


 わぁお、なんでこんなに早く完成できたのでしょう。

 正解は可愛い相棒が料理を手伝ってくれたからですね。


「サンキュー、キャンピー」


「…………」えへへっ♡


 可愛い。天狐が料理を食べるなら、私がこの子を食べちゃうぞ♡ なーんてね。比喩よ比喩。


「はいできましたよ」


『遅いですよ。いつまで待たせるのですか?』


 作って貰っていてこの態度。っかー、やだね。偉そうで。

 まあいいけども。


『なんと……! 香ばしい香り……これはいったいなんという料理ですか?』


「単なるポトフ」


『タンナルポトフですか……ふむ……異国情緒漂う名前ですね。そなたの郷土料理かなにかでしょうか』


 料理名をそれだと勘違いしてるようだ。

 おもしれー女。おもしれーからそのまんまにしておこう。


「ごちゃごちゃ言ってないで食べたら?」


『それもそうですね。どれ……』


「あ、こら……あんた、鍋に顔を……ああ~……」


 こいつ当然のように、鍋に顔を突っ込みやがった。

 どうやら、自分だけの分だと思ってるらしい。

 図々しい奴。みんなの分かもとは思わないんだろうか。


『美味……!』


 ぶわっ、と天狐がしっぽを膨らませる。


『美味! 美味です! 美味ですぞ!』


「そりゃどーも」


『しかしなんと……美味……。美味すぎる……美味すぎて……美味……』


 いや語彙力よ。どんだけ貧相なんだよボキャブラが。

 なんかもう、完全にこの子に対する畏れを、抱かなくなった。


『ふむ……悪くありませんね』


「さいで」


『しかしこの天狐を満足させるのであれば、量をもう少し作ってもらえないと』


「まだ食うのかよ」


『いえ、今回はこれで勘弁してあげましょう。しかし不思議ですね。普段なら魔物の1体、2体……10体食べても腹が減るというのに。もう満足してしまいました。人の子の分際で、やるではありませんか』


 褒めてるの? 褒めてるんだよね。多分。


「ご満足いただけた?」


『うむ、美味でありました』


「そらーどーも」


 相手が誰であろうと、偉そうだろうと、美味しかったって言われて悪い気はしない。


「おなかも膨れたところで、本来の目的を果たしてくれませんかね」


『良いでしょう。そなたの望みは、この森で起きたことの解明でしたね』


「そう。何があったの?」


『フェンリル・ゾンビが居たのですよ』


「フェンリル……ゾンビ?」


 なんじゃそりゃ?


『生きる屍と化したフェンリルです』


「あー……ゾンビね。へー、そんなの居たんだ。呪毒はそいつに受けた感じ?」


『然り。不覚にも後れを取ってしまいました。偉大なる山の神に力を貰ったこの天狐、一生の不覚……!』


 はぁん。なるほど。


『だが、まあ討伐しました』


「え……? 倒したの?」


『無論です。あのような雑魚に、妾が後れを取るわけがない』


「…………ひょっとしてギャグで言ってるの?」


 ついさっき後れを取ってませんでしたっけ……?


「じゃあ、まとめると、ここで暴れていたのはあんたじゃあなくて、生きる屍のフェンリル。あんたが討伐したけど、その際に呪毒を受けたってことね」


『そうなりますね』


「ほーん……。でもさ、うちらには、化け狐が暴れていたって報告されてたんだけど」


『フェンリル・ゾンビを倒す際に、少々暴れましたからね。それを人の子らが、妾が暴れたと、愚かにも勘違いしたのでしょう』


 なるほど。

 暴れてたように見えたけど、本当は、守っていた訳か。敵から。この聖域を。


「やるじゃん」


『ふふんっ、当たり前のことをしたまで。なので褒められても別に嬉しくもなんともありませんね』


 嘘こけ。

 しっぽぶんぶん振りよって。ほんと面白い女だこと。

 ま、何はともあれだ。

 事件の真相、および犯人は突き止め、排除したわけだ。

 ミッションコンプリート!

 さっさと帰りましょうねー。


『一寸待ちなさい』


「なんでしょ……?」


 天狐がふふんっ、と胸を張る。


『喜びなさい、人の子、スミコよ。貴方を……妾の料理番にしてあげましょう』


 はぁ? 料理番ぅ……?


『人の子にしては、なかなかの料理の腕前。よってこの妾の料理番として仕えることを、許可しましょう。ふふ……光栄なことでしょう?』


「あ、お断りしますわ」


『…………聞き間違いですか? 今、断ると聞こえたような……』


「NO。料理番? ごめんだね」


『…………ふ、ふふっ。こ、この天狐の誘いを、断るだなんて……面白い女。ますます気に入りましたよ』



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― 新着の感想 ―
面白い女に面白い女認定されちゃった(笑)
妾っていってるから、たぶんみんなメス設定で読んでるとおもう
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