18.天狐「妾の料理番にしてやろう」 私「お断りします」
天狐は、自分に呪毒を浴びせた元凶、およびここにいる『何か悪い奴』の情報を持っているようだった。
情報を引き出すためには、美味しい料理を提供しないといけないらしい。
どうして?
私にもわからん。まあ、腹減ってる時、長々と物を語りたくないのだろう。
うーん、まあわかるっちゃわかるかなぁ? どうだろう。はよ話せって気持ちのが強いけども。
「じゃ、キャンピー、キャンピングカーモードになって」
『待ちなさい、人の子よ』
「澄子」
『スミコよ。ここは神聖なる森です。馬車は本来入ってはいけないのです。あの鉄馬車になるのは許せませんよ』
「鉄馬車……。鉄馬車か」
まあ、こっちの現地人のひとたちに、キャンピーなんすわ、って説明しても無理か。なんじゃそら案件すぎる。
それよりは、これは鉄馬車なんすよ、のほうが意味が通りやすいかも。
馬使ってないけども。うん。鉄馬車って言うことにしよう、これから。
「でもさ、森で火は使っていいわけ?」
『それは問題ありません』
いいんだ。馬車はNGで、火はOKって。基準ゆるゆるじゃなーい?
まあいいけど。それが掟って言われたら、それ以上突っ込めないし。
ということで、お料理です。
まず、アイテムボックスからガスコンロを取り出す。
続いて、キャンプ用に、ホムセンで買って置いたテーブルやら、調理道具やらを取り出す。
「天狐って苦手なもんとかある?」
『特にありません。が、強いて言えば不味いものでしょうか。妾は美食家なのです。味にはうるさいのです。不味い物を食わせるようなら、情報は一切与えてあげませんよ。それを念頭において、料理なさい』
こいつ。丁寧な言葉を使ってるけど、節々から、私らを見下す色が滲み出てますよぉ~。
そら、長生きしてるから偉いんだろうけどさ。
まあいいや。
私は調理を開始する。
『あとあまり待たせないでくださいね。妾は今とても空腹なのです』
「注文の多い狐だなぁ~」
『妾は狐ではなく、偉大なる山の神に力をいただいた存在、天狐……! そんじょそこらのノラ狐と一緒にされると、この温厚な妾でもさすがに怒りを禁じ得ませんよ!』
「はいはい」
なんかペラペラと喋るからか、神秘性がボロボロ落ちていくんだよなぁ。
別に怖いってもう思わないや。キャンピーもいるし。
そのキャンピーは私の隣でスタンバっている。
まるで、料理番組のアシスタントさんだ。ちぃまいちゃんみたい。ちんまいし。
「じゃ、お野菜の皮を切って。できるかな?」
「…………」おー!
やる気十分のキャンピー。可愛い。
キャンピーが野菜の皮を剥いたり、切ってる間、私は次の工程の下準備。
といっても、アイテムボックスから必要な食材を取り出したり、調味料を取り出したりするだけだけどね。
「ウィンナー。コンソメの素……。野菜は……切れたようだね。じゃ、ぶち込んで」
「…………」ぐっ。
キャンピーはお鍋の中に、切ったお野菜を投入する。
この子、人間より作業スピード速かった。さすが有能キャンピングカー。
そして、アイテムボックスから、ミネラルウォーターを取り出す。
てゆーか、キャンピングカーモードじゃあないと、水道使えないの、地味に不便だな。
『早く馳走を、馳走を早く用意するのです。ぼさっとするのではありません。そんなこと許可した覚えはありませんよ?』
「はいはいはい、すみませんねぼーっとして」
『なんですかその態度はっ。そなたが相対してるのはっ、誇り高き天狐! 最強神獣の一角、天狐なのですよっ!』
「はいはいはいはい」
『「はい」が増えました!? なんと無礼な……!』
「調理の邪魔してるの君なんですけど?」
『グッ……! 仕方ありませんね。特別に黙っててあげます』
なんか喋るほどに、この天狐、おもしれー女ってことがバレていくな。
あ、そうそう。こいつ多分雌。
声がそんな女性っぽいんだよね。
声の高い男って可能性もなきにしもあらずだけど。
おっと、ぼーっとしてるとまた五月蠅く言ってくるだろうことが、容易に想像できた。
だもんで、ちゃっちゃと仕上げちゃいましょう。
つっても、あとはコンソメ、野菜、ウィンナーをぶち込む。
後は塩胡椒で味を調える。
わぁお、なんでこんなに早く完成できたのでしょう。
正解は可愛い相棒が料理を手伝ってくれたからですね。
「サンキュー、キャンピー」
「…………」えへへっ♡
可愛い。天狐が料理を食べるなら、私がこの子を食べちゃうぞ♡ なーんてね。比喩よ比喩。
「はいできましたよ」
『遅いですよ。いつまで待たせるのですか?』
作って貰っていてこの態度。っかー、やだね。偉そうで。
まあいいけども。
『なんと……! 香ばしい香り……これはいったいなんという料理ですか?』
「単なるポトフ」
『タンナルポトフですか……ふむ……異国情緒漂う名前ですね。そなたの郷土料理かなにかでしょうか』
料理名をそれだと勘違いしてるようだ。
おもしれー女。おもしれーからそのまんまにしておこう。
「ごちゃごちゃ言ってないで食べたら?」
『それもそうですね。どれ……』
「あ、こら……あんた、鍋に顔を……ああ~……」
こいつ当然のように、鍋に顔を突っ込みやがった。
どうやら、自分だけの分だと思ってるらしい。
図々しい奴。みんなの分かもとは思わないんだろうか。
『美味……!』
ぶわっ、と天狐がしっぽを膨らませる。
『美味! 美味です! 美味ですぞ!』
「そりゃどーも」
『しかしなんと……美味……。美味すぎる……美味すぎて……美味……』
いや語彙力よ。どんだけ貧相なんだよボキャブラが。
なんかもう、完全にこの子に対する畏れを、抱かなくなった。
『ふむ……悪くありませんね』
「さいで」
『しかしこの天狐を満足させるのであれば、量をもう少し作ってもらえないと』
「まだ食うのかよ」
『いえ、今回はこれで勘弁してあげましょう。しかし不思議ですね。普段なら魔物の1体、2体……10体食べても腹が減るというのに。もう満足してしまいました。人の子の分際で、やるではありませんか』
褒めてるの? 褒めてるんだよね。多分。
「ご満足いただけた?」
『うむ、美味でありました』
「そらーどーも」
相手が誰であろうと、偉そうだろうと、美味しかったって言われて悪い気はしない。
「おなかも膨れたところで、本来の目的を果たしてくれませんかね」
『良いでしょう。そなたの望みは、この森で起きたことの解明でしたね』
「そう。何があったの?」
『フェンリル・ゾンビが居たのですよ』
「フェンリル……ゾンビ?」
なんじゃそりゃ?
『生きる屍と化したフェンリルです』
「あー……ゾンビね。へー、そんなの居たんだ。呪毒はそいつに受けた感じ?」
『然り。不覚にも後れを取ってしまいました。偉大なる山の神に力を貰ったこの天狐、一生の不覚……!』
はぁん。なるほど。
『だが、まあ討伐しました』
「え……? 倒したの?」
『無論です。あのような雑魚に、妾が後れを取るわけがない』
「…………ひょっとしてギャグで言ってるの?」
ついさっき後れを取ってませんでしたっけ……?
「じゃあ、まとめると、ここで暴れていたのはあんたじゃあなくて、生きる屍のフェンリル。あんたが討伐したけど、その際に呪毒を受けたってことね」
『そうなりますね』
「ほーん……。でもさ、うちらには、化け狐が暴れていたって報告されてたんだけど」
『フェンリル・ゾンビを倒す際に、少々暴れましたからね。それを人の子らが、妾が暴れたと、愚かにも勘違いしたのでしょう』
なるほど。
暴れてたように見えたけど、本当は、守っていた訳か。敵から。この聖域を。
「やるじゃん」
『ふふんっ、当たり前のことをしたまで。なので褒められても別に嬉しくもなんともありませんね』
嘘こけ。
しっぽぶんぶん振りよって。ほんと面白い女だこと。
ま、何はともあれだ。
事件の真相、および犯人は突き止め、排除したわけだ。
ミッションコンプリート!
さっさと帰りましょうねー。
『一寸待ちなさい』
「なんでしょ……?」
天狐がふふんっ、と胸を張る。
『喜びなさい、人の子、スミコよ。貴方を……妾の料理番にしてあげましょう』
はぁ? 料理番ぅ……?
『人の子にしては、なかなかの料理の腕前。よってこの妾の料理番として仕えることを、許可しましょう。ふふ……光栄なことでしょう?』
「あ、お断りしますわ」
『…………聞き間違いですか? 今、断ると聞こえたような……』
「NO。料理番? ごめんだね」
『…………ふ、ふふっ。こ、この天狐の誘いを、断るだなんて……面白い女。ますます気に入りましたよ』
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