17.瀕死の天狐を、ウォッシャー液で洗車(浄化)してしまいました
【感想欄の開放につきまして】
停止しておりました感想欄ですが、本日より開放いたしました。
閉鎖に至りました経緯につきましては、諸般の事情をご賢察いただけますと幸いです。
聖域にいる、化け狐退治に来た……私たち。
しかし現場にいたのは、天狐と呼ばれる、くそでかい狐だった。
そんで、呪毒とやらを受けて、瀕死の重体だった。
「……どう、しましょう」
「どう、しましょうかね……これ」
私、そしてリダケンさんが顔を見合わせる。
倒れ伏す、巨大な狐……天狐を、改めて私たちは見やる。
灰色の体毛をした、大きな狐だ。
体毛はベタッとしている。まるで、泥水でも浴びたかのように、汚い。
長いしっぽは、濡れた雑巾のようにしなっとしてる。
一言で言えば、汚い野生の狐(ただし馬鹿でかい)。
それが……私の、天狐に抱いたイメージだ。
「これ……ほっといても死にます……よね」
と、リダケンさん。
そらそうだ。
~~~~~~
呪毒
魔族や、特別な魔物が使う、呪いによる毒のこと。
大抵の場合致死性を持つ。
聖女による浄化でしか、呪いを解除できない
~~~~~~
ほっとけば死にそうだ。
現に天狐は、私たちの前に来てから、さらに体調悪そうにしてる。
倒れ伏した状態で、ぴくりともしない。浅い呼吸だけを繰り返していた。
「討伐の手間が省けた……ってかんじですかね」
リダケンさんは助ける気はなさそうだ。
まあ、私も会ったばかりの天狐に、同情するなんて……できない。
それにこいつは、ネログーマの聖域を荒らした張本人だし。
たーだぁ……。
「こいつ、助けようと思います」
「!? そ、それはどうして? ネログーマの平和を脅かしていた、悪い狐なんですよ?」
「と、思うじゃん?」
「違うんですか……?」
「多分ね」
私は自分の推理を、端的に述べる。
「こいつの毒は、呪毒。自然にかかる毒じゃあありません。誰かがこいつに、呪いをかけた」
「っ! つまり……スミーさんは、この天狐に呪いをかけた、第三者がいると?」
「ええ。そいつの情報を、私たちは知らない」
話を聞いて、情報を得た方がいいと、思ったんだ。
「……しかし報告によると、天狐がネログーマ聖域で暴れていたと」
「それも正しいかどうかわからんでしょう?」
「それは……」
「私は治す。で、話を聞く。その上で、悪い奴なら……キャンピーに処理して貰う」
キャンピーには魔物を絶対に殺す、魔物ぶっ殺し光線があるのだ。
最悪、治して、本当に天狐が悪い奴なら、ビームで処理できる。生殺与奪の権は、こっちにあるんだ。
「私の責任で治します。いざとなれば殺しますので」
「ま、まあ……スミーさんがそうおっしゃるなら」
……まあ、かっこつけたけど、ほんとは……まあ、ちょっぴりかわいそうだなって思っちゃったんだよね。
だってさー……。
「…………」ぎゅー。
キャンピーがさぁ、ずっと私の手を握って、天狐を心配そうに見てる訳よー。
大丈夫かなーって、不安そうにさー。
ねー、ほっとけないでしょ?
だから治します。
「で、どうやって?」
「…………」
リダケンさんに問われて、私は……空を見上げる。さて……。
どー……すっかな!
なーんも考えてなかったや。そもそも呪毒って治せるわけ~……?
うーん……。私の手札を確認。
【鑑定】、【アイテムボックス】。
固有スキルは【野外活動】、そんで、【野外活動車】。
私のカード……少なっ。
よくこれで毒を治そうとか言えましたねぇ……! 誰ですかそんなこと言ったアホは!
私ですねすんませんね……。
まあ、私のスペックがカスなのは、今に始まったわけじゃあない。
「キャンピー。なんとかしたって」
「…………」ドンッ。
キャンピーが自分の胸を叩く。
この子も、天狐を治したいって思っていたんだ。
キャンピーが、カッ……! と光り輝く……。
そして、野外活動車が出現する。
「……何度見ても人が馬車になるの、どういう理屈なのかわからないわぁ……」
と、魔女さん。
「シッ! 静かに!」
と、リダケンさんがたしなめる。いちおうシリアスな場面なんでね……。
あと野外活動車は入ってこれないから、ヒトガタで来たんじゃないの? って突っ込みは受け付けてませんのであしからず。
「キャンピー、どうして野外活動車モードになったの?」
「…………」
車姿なので、ジェスチャーもできやしなかった……。
えっと……。
「あ、【鑑定】」
私はキャンピーを鑑定する。
所有スキルのなかに、それはあった。
~~~~~~
浄化(野外活動車)
→野外活動車を用いた浄化
治癒(野外活動車)
→野外活動車を用いた治癒
~~~~~~
うん! 意味不明……!
なんだよっ、野外活動車を用いた浄化と治癒ってさー。
でも、まあ【結界(野外活動車)】を使ったとき、野外活動車を中心とした結界が展開していた。
浄化と治癒も、同じように、野外活動車から、なんか不思議パワーが出て、呪毒を治してくれるんじゃあないかって期待しちゃうわけ。
「やっちゃえ、キャンピー! 浄化!」
しーん……。
「あ、あれ? キャンピー? どうしたの……?」
ゴゴゴゴゴゴ……!
野外活動車が、突如として揺れ出した。
え? やだやだ、自爆とかやーよ!?
うぃいいん……。
「ワイパーが……移動した……? 一体何が……」
ブシャァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!
キャンピーの、ワイパーの付け根部分……。
そう、窓ガラスを洗うときの、ウォッシャー液噴射口から……。
なんか、水が、出た……!
ウォッシャー液だ!
『ゴボボボボボボボボボボボ……!!!!!』
キャンピーから発射されたウォッシャー液が、天狐の全身を濡らす!
『ぶはっ! そなたらぁ……!』
天狐は起き上がると、かーっ! と牙を剥く。
『偉大なる山の神から力を授かりし、この妾、天狐の顔に、水をぶっかけるとはなんたる無礼な! 死万死に値しますよ!!』
妾って。古風な狐だな……。
てゆーか。
「元気になってるじゃん」
『なんですって……? ! 本当だ!』
それに、なんか天狐の毛皮がきらっきらになっていた。
さっきまで、床を拭いた雑巾みたいに、きったねえ毛皮だったのに。
今はふわっふわだ。しっぽももっふもふである。正直触りたい……。
『そなたたち……一体何をしたのですか……?』
「浄化スキルを使った」
『浄化……? あのような浄化は、初めて見ました。一体あれはなんなのです、答えなさい』
「さぁ……?」
『なぜ使ったそなたがわからないのですか……。さてはそなたは阿呆なのですね?』
むかつくわー。
「命救ってやったんだから、お礼の一つでもあってもいいんじゃあないすかね?」
『ふむ……それもそうですね』
天狐は私……をスルーして、キャンピーの前へとやってきた。
『そなた。名を名乗るがよいです』
「…………」
『妾を無視するとは、良い度胸ですね』
「あー、この子シャイなのよ。この子はキャンピー。私は澄子」
『なるほど、スミコにキャンピーですか。妾は天狐。命を救ってくれたこと、感謝してあげましょう』
あ、ちゃんとお礼はする感じなのね。
悪い狐じゃあ……ないように思えた。
『しかしキャンピーとやら、そなた変わった見た目をしてますね。そなたは何者なのですか……?』
「その子は………………馬車」
『……妾を愚弄してるのです?』
「いやそういう訳じゃあないけどさ……」
なーんて説明したらいいんですかね。
令和の世界で作られてる、キャンピングカーなんすよって言って通じるだろうか……。
「「「「…………」」」」
って、あれ? リダケンさん達、なんか私をじーっと見つめてる。
「どうしたんですか、皆さん」
「あ、いや……そんな恐ろしい化け物……うおほんっ、その化け狐と、よく普通に会話できるなと」
化け狐……か。
普通に、でっかい狐にしか見えない。
それに、悪い奴じゃあないように思える。
本当に悪い魔物なら、問答無用に襲ってくるだろうし。
それこそ、人面樹みたいにさ。
『なんです、そこの男どもは』
「あー……」
いやー、あんたを殺しに来た人達なんすよー☆ なーんて言えるわけがない。
「この森に調査に来た人達よ。なんか、悪い奴が暴れてるって聞いてさ。あんたなんか知らない?」
『当然、知ってますよ。悪い奴でしょう……?』
「うん。教えて」
『教えてやってもよいです……が、一つ条件が』
「条件?」
魂くれとか、ギャルのパンティーをおくれー、とかだったらどうしよう。
いやん、パンツは渡したくないよー。……なーんてね。アラサーOLですよ、えーえ-、わかってますよ。
クワッ、と天狐が目を大きく見開く。
『妾は……おなかがすきました! 馳走を、用意しなさい……!』
「馳走……ご飯って事」
『そうです。全力でこの妾の腹を満たしなさい。でなければ、妾は一言も語りませんよ? そなたらが知りたいことを』
こ、こいつ……なんて偉そうな……。
しかしまあ、食事ね。ちょうど、小腹も空いていたし……。
「いいよ。ご飯にしよっか。キャンプご飯よ」
【おしらせ】
※現在連載中の『捨てられ聖女は万能チート【キャンピングカー】で快適な一人旅を楽しんでる』の、
王子視点による外伝を投稿しました。
『君を追放した、愚かな私』
▼澄子を追い出した王太子が、その後ざまぁされる話となってます。
https://book1.adouzi.eu.org/n1545lm/
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