14.聖女の豚汁が一杯10,000円で売れた
商業ギルド銀翼商会で、お金を得た後……。
「宿到着~。ヘンギルさんにおすすめ教えてもらったんだ」
木造だけど、結構きれいなお宿だ。
安い、けどセキュリティ面がよく、そのうえ清潔だそうだ。
私はキャンピーと宿の中に入る。
カウンター前には、中年のおばさんがいた。
「いらっしゃい。何名様かい?」
「二名で」
「あいよ。同じ部屋で良いかい?」
「それでお願いします。あと……厨房って使わせていただくことって可能ですか?」
……まあ、金はあるから、宿のご飯頼んでも良いんだけどさ。
でもやっぱり、いつ金が必要になるかわからないしね。節約できるところは節約。
「かまわないよ」
私は部屋に案内してもらう。
ヘンギルさんから教えてもらったとおり、広い部屋だった。
あとシーツもちゃんと変えてある。
ベッドも……ちゃんと柔らかい。どうなってんだろ……。
「部屋の中を調べるのはあとだな」
なんだか色々やって、腹減ったし。
「ご飯にしましょう」
「…………」こくん!
私は厨房へやってきた。
かまどと、水が使えるようだ。さすがにコンロは無い様子。
「んじゃま……早速調理にとりかかりますか」
周囲をチラ見し、人がいないのを確認。まあ、まだ夕方前だ。
忙しくなる前なので、人が少ないのは当然だ。
私はアイテムボックスから、調理器具を取り出す。
「続いて、KAmizon発動」
必要なものを、ポチポチ買っていく。
フッ……私はもう、所持金3万の女ではないのだ。
十分なお金をゲットした私に、怖い物は……ない!
どさっ、とでかめの段ボールが出現する。
蓋を開けると、なかには大根、にんじん、ゴボウ、じゃがいも、こんにゃく、ほんだし、味噌が入っていた。
「あとは黒猪の肉を取り出してっと……」
準備完了。さ、調理に取りかかるか。
まずは豚肉、じゃがいも、だいこん、にんじんを細かく切っていく。
こんにゃくは食べやすいサイズに切る。
ゴボウを薄く、細長く削ぎきり。
ボールのなかにゴボウを入れておく。あとで水気を切る。
「次は鍋に油を敷いて……豚肉を炒める」
豚じゃあないけども。
じゅうじゅう……といういい音、そして甘い豚肉の脂のにおいが鼻孔をくすぐる。
鍋のなかに野菜とこんにゃくを入れて炒める。
水、だしをくわえて煮る。
しばらくすると、鍋表面にアクが浮いてくるので、それを掬ってすてる。
しばらく煮たあとに、味噌を加える。
「うーん……味噌の良い香り……」
やっぱり日本人は味噌だよね。
「よっし、完成」
「…………」
「うおっ、な、なんです?」
受付にいたおばさんが、厨房のそばに立っていたのだ。
そして、おばさんの隣には、ちっこい子ども。
「な、なんでもないよ……」
「あ、そうですか……」
なんだったんだろ……。
まあいいか。なんでもないって言うし。
私は厨房を出て食堂へ向かう。
キャンピーがおとなしく椅子に座って待っていた。
「じゃ、ごはんにしよっか」
私はアイテムボックスから鍋を取り出す。
ぱか、と蓋を開けると、味噌の良い香りがあたりに漂う。
はぐはぐ……。
「おいし?」
「…………」こくん!
おいしそうに食べるキャンピー。そのときだった。
「ちょっといいかい?」
振り返ると、馬小屋の入り口に、受付おばさんとその子どもがいた。
「あの……何か?」
「ああ、すまないねえ……。実は……あんたの作ったそれ、買わせてもらえないかい?」
……買う?
「どうして?」
「それ……おいしそぉなのぉ~……」
子どもがよだれを垂らしながら、お鍋を指さす。あ、なるほど……
味噌の良い香りにつられてやってきたのか。
「いいですよ。お椀ある?」
「ありゅー! とってくりゅー!」
かわいい……。
女将さんのお子さん (以下、お子さん) が、お椀を持ってきた。
私は豚汁を注いであげる。
「わぁ……! とぉってもいいにおいなのぉ~♡ いただきまーしゅ!」
がつがつ。ばくばくっ。
「ん~~~~~~♡ にゃい!」
「にゃい?」
「うみゃーい!」
「そらよかった。たんとおたべ」
「うんっ!」
はぐはぐ、むしゃむしゃ、と勢いよく、お子さんが豚汁を食べる。
「おねえちゃん、この豚汁……とぉってもおいしいね!」
「そうだねー」
ふふ……可愛い……。
「お、女将さん」
「おや? お客さんたち。どうしたんだい?」
入り口には、冒険者とか、旅人風の人たちが立っていた。
「なんかすっごい美味そうなにおいがしてよぉ~……」
「一体何をしてるのかなって思って……」
ははん、なるほど。お子さん同様、彼らもにおいにつられてやってきたわけか。
「このお客さんの作った料理だよ。あんたらの食事は用意できてるから、すぐに飯の支度するから……」
「いや……」
「その……」
歯切れの悪い彼ら。なるほど……。
「もしかして……食べたい?」
「「食べたい……!」」
異世界人にとって、味噌で作った汁ものは、見るのも食べるのも初めてなのだろう。
だから、余計に美味しそうに見えるんだろうな。
「いや、でもこれ嬢ちゃんの食事だしねえ」
「いいですよ。余計に作ってますし。ちゃんと食事代払ってくれるんでしたら」
「「あざーーーーっっす!」」
女将さんが「ごめんねえ」と謝る。
別に謝る必要なんてない。お金もらえるし。
冒険者達が私の元へやってくる。
店が用意したお椀に、豚汁をついであげる。
冒険者達はその場で豚汁をすする……。
「うぉおおお! うっめえええええ!」
「なんだこれ! 野菜がすっげえしゃきしゃきしてる!」
「それに……この甘い汁! 甘いのにぜんぜんべたついてない! 不思議だ!」
「ああ、この汁……やべええ! 鼻を抜ける良い香りと、深いコクのある味がたまんねえ!」
あっという間に、豚汁を飲み干してしまった。
「嬢ちゃん、代金だ! はいこれ!」
「どーも……お、ぉおお?」
冒険者風の男が取り出したのは……き、金貨だ。
金貨1枚 (一万円) だ。
「あ、あの……さすがに……」
「ああ、すまねえな」
と冒険者さんが謝る。よかった、払い間違いだよね……。
「これじゃあ足りないな。ほいもう一枚」
「いやいやいやいや!」
金貨二枚!? ただの豚汁が、二万円って!
野外フェスやお祭りでだされるような豚汁に、諭吉2枚はおかしいって! (今は諭吉じゃあないか)
「さすがにもらいすぎなんで……」
「でも金貨1枚はもらってくれ! それくらいの価値が、このちょーぜつ美味い飯にはある! なあ!」
うんうん! とその場にいた冒険者達、そして、お子さんもうなずいてる。
そこまでかな……。
たしかにこっちじゃ豚汁は物珍しいだろうけど……。
「なんだなんだ?」
「なんかちょー美味い飯を出す料理人がいるらしいぜ」
「まじか!」
ぞろぞろ……とこの宿に泊まってるだろう人たちが、集まってきた……!
そっかそろそろ夕飯時だもんね! 外から帰ってくるよねっ。
「金貨1枚ぽっちでとんでもない美食を味わえるって聞いたけど、ほんとうかい?」
「誇張表現がすぎますっ! ただの家庭料理です!」
「家庭料理でこんだけ美味いもん作れるなんて、やっぱり伝説の料理人なのかっ!?」
「違いますよ-!」
やっば、大騒ぎじゃん……。たかが豚汁に、なんだよこの人だかり……。
沢山作ったはいいけど、さすがにこれ以上、騒ぎは大きくしたくないし……。
「嬢ちゃん、どうする?」
女将さんが私に問うてくる。
「こんなことになっちまったけど……」
「えーっとえーっと……」
「よかったら、厨房使うかい?」
「……そー……ですね。すみません、貸してください……」
「いいよ。アタシも手伝うし」
「え、いいんです?」
「もとはといえば、この騒動のきっかけをつくったのは、アタシらだからね」
……まあ、この子に食べさせなかったら、ここまでにはならなかったか……。あんま小さな子に原因を押しつけたくはないけど。
「…………」
くいくい。
「ん? キャンピー?」
「…………」
どんっ。
キャンピーが、自分の胸をたたく。
「手伝ってくれるの?」
「…………」
こくこく。
「ありがとぉ~。助かるよ~」
よし、なんとかなるか。この騒ぎを起こしたのは、私の料理でもあるし。
責任は取らないと。
「じゃあ、食堂でまっててくださーい。今から調理してきますんでー」
「「「「はーい!」」」」
その後、私は場所を移動し、ひたすらに豚汁を作りまくった。
結構疲れた……。でも、一杯一万円で売れた。
ただの豚汁が、だよ?
とんでもないことだよね……。
それと、ちょっと今回のことで反省した。町中で、不用意に異世界ごはんを作っちゃ駄目だわ……と。
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