13.大金ゲット、あんどSランク商人になる
……胡椒を売ったら、なんかVIPルームに通された。
ふわふわのクッションと絨毯。落ち着いた雰囲気のお部屋。しかし、調度品はどれもお高いんだろうことがうかがえる。
……そんな部屋のソファに、私は座っていた。ひぇえ……何が起きてるって言うの……?
「お待たせして申し訳ない」
部屋に入ってきたのは、40代くらいのナイスミドル。
整った顔つきと髪型、そして高そうなスーツに身を包んでいた。
「初めまして、スミーさん。わたしはこのギルドのギルマス、ヘンギルと申します」
ヘンギルさんが慇懃に頭を下げてくる。
「あ、スミーです……はい……あの……私、何か粗相でもしてしまったでしょうか?」
「いえ、違いますよ。ああ、急に呼び出されて、驚いてしまわれてるようですね。申し訳ない」
「あ、いや……」
ヘンギルさんが私の前に座る。
ソファの前に、テーブルがある。
彼はテーブルの上に、私の提出した胡椒入りの革袋を置いた。
「拝見させてもらいました。胡椒、でしたね」
「あ、はい」
「一般に流通してる胡椒とくらべ、貴女が持ってきたこれには、混じりけもなく、香りも素晴らしく……そして、味。これも、最高です」
「ど、どうも……」
まあこの世界より技術が進んだ世界から、取り寄せた胡椒ですから……。
「ここまで質の良い胡椒は初めてみました。……それで」
うっ、嫌な予感。この後に続くセリフが、目に浮かぶ……。
『どこで、仕入れてきたのか?』
と。だよね、そうなるよね。
「スミーさん、よろしければ……この胡椒、これくらいで取引させてもらえないでしょうか」
「あ、え……?」
ヘンギルさんは、懐から鈴を取り出す。
ちりりん。
白髪の老執事が入ってくる。その手にはお盆、そして……その上には革袋。
スッ……と執事が私の前に革袋を差し出してくる。
「えっと……中を見ても?」
「もちろん」
「じゃあ……」
私は革袋を持ち上げる。……ずっしり重かった。
ヒモを開けると……そこには、ひぇええ……!
ぴっかぴかの、金貨がたっくさん入ってます!
「この胡椒、500gありますね」
……今更だけど、こっちもグラム使うんだ。異世界なのに。日本と同じなのってどういう理屈なんだろう……。
わかりやすいけど。
「1g、金貨1枚で、取引できないでしょうか」
「ご!? 金貨……ご、500枚ですか?!」
日本円で、500万円ってことだよ!?
ホムセンで買った、数百円もしない胡椒が、500万円に!?
す、すご……。地球の胡椒、こんなに高く売れるなんて……。
「な、なんでこんな高く……?」
「もとより胡椒は高く、売り買いされてます。この胡椒はそんな一般的に流通されているものより、遙かに質がいい。異次元の製法で作られてる」
そらまあ、この世界ではない世界で作られてますけども……。
それにしても、1g=金貨1枚 (1万円) って……。ヤバすぎでしょ……。
「どういたしますか?」
「あ、はい! それで取引お願いします! あ、これで全部なんで、これ以上は出せないです!」
そう言っておかないと、もっとくれって言われかねない……。
しっかし……予想以上に売れるな、現実の調味料。
高値で売れるのは、私にとっては好都合だ。けど……あんまり沢山は売れない。
目立つし、それに……絶対に権力者が絡んでくるからね。
「じゃ、あっしはこれで……えっへへ……」
あんまり長居はしたくなかった。
「少し、待っていただけないかな?」
ひぃ、来た。きっと『どこで仕入れたんだね』的なこと言われるぞ。
故郷の秘密の製法で作られた、それっきりしかない胡椒だ、と答えてやるんだ。
「こちらをどうぞ」
さっきの老執事が、私にカードを差し出してくる。
冒険者ギルドでもらったのと、同じような形をしていた。
「もしかして……商業ギルド証です?」
「ええ、スミーさんのです。受け取ってからお帰りください」
あれ? なんかあっさり帰れそうだ……。
もっといろいろ言われるかなーっとか、面倒な質問がくるかなーって思ってたんだけど……。
「って、えええええ!?」
ギルド証を受け取り、その表示を見て……私は叫んでしまった。
「ヘンギルさん……これ、『S』って書いてあるように、見えるんですけど……」
「そうですよ、スミーさんはSランク商人です」
「いやいやいやいやいや、Fラン商人でいいですって!」
冒険者ギルドと違い、商業ギルドランクをあげるためには、ランクに応じた登録料、および年会費を払う必要があるのだ。
Sランの年会費は、なんと金貨1000枚だ。一千万円だよ? 年間!
「そんなの払えるわけが……」
ない、と言いかけて、意外といけそうだなと思ってしまった。
だって胡椒を売って500万円ゲットしたばっかりだし……。
これをもう一回繰り返せば、年会費は払える……けど!
「そんな毎年金貨1000枚も払えないですって!」
「大丈夫、スミーさんは特別に、年会費無料でいいです」
「はぁ……!? ね、年会費無料で、え、Sランク!?」
いやいやいやいや!
ナニイッテルノ!?
「なんでそんな、特別待遇なんですか……」
「先行投資です」
「せ、先行投資……?」
「はい。スミーさんとは、今後とも、【仲良く】していきたいなと……」
……このギルマス、多分私が、この胡椒、およびそれと同等の品を今後も売ることを、見抜いているんだ。
それを、よそに持ってかないように、囲おうとしてるんだ……。
でも、はっきり囲うと、明言はしていない。それに、私の背景についても、追求してこない。
……ようは、余計なことを言わない、しない代わりに、物を売って欲しい、って言いたいんだろう。
「スミーさんはご存じないかもしれませんが、ここSランク商業ギルド【銀翼商会】は、どこの街でも1つは、店舗があります」
「銀翼商会……へえ……」
Sランクギルドだったんだ……。
「そのギルド証があれば、【面倒ごと】なく、商品の取引は可能です。それに、Sランのギルド証があれば、どこへ行っても商売できます。し、銀翼が関わってないとこで商売したとしても、我らが後ろ盾となって、余計な口を挟めないようにできます」
……なんか、メリットいっぱいだ。しかも年会費も要らないんでしょ……?
良いことづくめじゃんっ。でも……。
「……デメリットも、ありますよね。たとえば……この商会の商人になれとか」
「とんでもない! スミー様は、別に我が商会に所属する必要はございません。好きに行商なさってください。街へついたとき、我がギルドを見かけたら、よそではなくうちを優先してくれたらうれしいなぁ……くらいですかね」
……あくまで、私を縛らないつもりらしい。
……変わった人だな、とちょっと思ってしまった。
目の前にネギしょったカモがいるのに、ロープでぐるぐる巻きにしないんだもの。
「いかがいたします?」
……悪意は感じない。それに、私にとってメリットしかないし。
うん……。
「わかりました。じゃあ……なります。Sランク商人に」
「ありがとうございます! ……ところで、他にも何か我らに売れるものとか、ございませんでしょうか?」
……こいつ。私がSランクになることを承諾した後に、話を切り出してきやがった。
断りにくいタイミングで……。
……はぁ。まあ、いいか。この人、自分のところに私を縛り付けないって言ったし (言外で) 。
「塩があります」
「ほう! ぜひ、拝見したいですっ」
……その後、ホムセンで買ったやっすい塩が、1g、銀貨1枚で売れました。
結果、今回の儲け、金貨500、銀貨500枚。
金貨1枚一万円→500万円。
銀貨1枚千円→50万円。
合計、550万円……ゲットしました。
現実世界のホムセンで、数千円のものが、異世界では550万円で売れるなんて……!
こんなのチートや、チーターや!
現実で、ブラック企業に毎日アホみたいに夜遅くまで働いていたのが、馬鹿みたいだよー……!
ひゃっほーい!
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