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【完結】地味でも大冒険!『古の森の黒ドラちゃん』  作者: 古森 遊
6章☆願いを込めて、選ぶんだ!の巻
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8-つくります!

この国では、年に一度夏のお祭りで、様々な手芸・工芸品の品評会が開かれます。

実用的な盾や剣、魔術師の使う杖、誰でも身に付けられる服や指輪等のアクセサリーなど、種類は様々です。

出された品物は、種類ごとに分けられて審査され、それぞれ一番優れている品物に、その年の優秀賞が贈られます。


その中から、さらに種類を超えてその年に一番すぐれた品物を作った者とその工房が選ばれて、王都の広場で王様から表彰されるのです。


「知ってます!テルーコ様は何度か表彰されていますよね?」

リュングが我慢しきれずに話に首を突っ込みました。


「ええ、確かに何度かは。ですが私が選ばれたのは、これこの通り、年の功です」

テルーコさんは全く気にかける様子もなく、さらりと話しました。


「皆さま、わたしは、グラシーナをこそ、あの表彰台に立たせてやりたいのです」

テルーコさんがしみじみと言いました。

「この娘にはその力が十分にある。あとは、その力を発揮するチャンスだけがあれば良いのです」

グラシーナさんが俯きました。


パッと見た瞬間に思わず手に取りたくなるような、そんな人目を引くデザインが得意で“閃光の細工師”と呼ばれるグラシーナさん。

でも、これまで一度も表彰されたことがありません。

「そういえば……?なぜでしょうか?」

リュングが不思議そうにつぶやきました。



グラシーナさんが、顔をあげました。


「わたしは、いつもカミナリ様のことを思い浮かべながら、作品を作っていました」


「夢の中だけで会える、強くて優しくて、美しい姿を」

手放しで讃えられ、ラキ様がちょっと頬を染めました。


グラシーナさんは、これまでのことを思い出すように、ゆっくりと話します。


「けれど、夢の中にしかいない存在のためにつくるなんて、おかしいんじゃないか。

この世界では、私がふじのとして生きていた世界で感じていた美は、誰にも理解されないんじゃないか。

自分がここでは受け入れられない存在かもしれない。常にそういう気持ちが、心のどこかにありました」


知らず知らずのうちにその気持ちが作品に反映されて、どこかはっきりしないような、何か今一つ決め手に欠けているような、そんな作品になっていたんだと思う、とグラシーナさんは話してくれました。


さっき、ラウザーが買おうとしていた簪、あれもやはりグラシーナさんの作品でした。


「でも、あれも。まだ本当の美しさを表現しきれていないんです。本当はもっと華やかで綺麗なんです、もっと……」

そう言いながら、ラキ様を見つめます。


ラキ様は黙ってグラシーナさんの話を聞いていました。


「カミナリ様の姿を目にして、お話して。今なら、今の私なら、もっと違う仕上がりをお見せできる、そんな気がするのです。 夢の中のふじのではなく、その記憶を持つこの世界の細工師のグラシーナとしての想いを、表現してみたいのです」



再びテルーコさんが口を開きました。


「皆さまにお作りする作品の中で、特に優れた出来栄えのものを品評会に出すことをお許し願えませんでしょうか?」

そう言いながら深々と頭を下げます。


「おれ、おれ、大賛成!!おれのうろこで綺麗な花くし……だっけ?作ってくれよ!」

ラウザーが真っ先に声をあげました。

尻尾は大車輪のように勢いよく回っています。


「あたしも!あたしも大賛成!」

「あたしも!、あたしも!」

黒ドラちゃんとドンちゃんもラウザーに続きました。

食いしん坊さんもうなずいています。


「もし、細工に必要な宝石があれば言ってくれ。僕が用意するよ」

ブランが申し出てくれました。


「ありがとうございます。わたし、皆さまのお気持ちを活かせるような、そんな作品を作ります!」


グラシーナさんがきっぱりと宣言しました。


ラウザーの尻尾はさらに勢いよく回り、黒ドラちゃんとドンちゃんはぴょんぴょんと跳ね、そして頬を染めたリュングは拍手を送っています。





色々とお話をしていたので、結局初めてのお買い物はテルーコさんのところだけで終わってしまいました。


けれど、とてもとても楽しくて、嬉しいこともたくさんあったので、黒ドラちゃんとドンちゃんはお買い物が大好きになりました。


古の森まで送ってもらいながら、もう次のお買い物の約束をして、その日は皆とお別れしました。



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