7-初うろこの花くし
ブランが黒ドラちゃん達をこのお店に連れてきたのは「ペンダントが欲しいの!」とお願いされたからでした。
黒ドラちゃんは、お店の中で見つけた、綺麗な若草色の宝石をブランに見せました。
「これを気に入ったの?とてもきれいだ。黒ちゃんの瞳の色だね」
ブランがそう言ったので、黒ドラちゃんは嬉しくなりました。
「これでペンダントを作りたいの!でね、純金の鎖にすれば、食いしん坊さんが魔法をかけてくれるって」
「グイン・シーヴォに魔法をかけてもらうのかい?どうしてだい?」
ブランが不満そうに言いました。
「あのね、食いしん坊さんに魔法をかけてもらって、鎖が自由に伸び縮みするようにしたいの」
「人間の姿になっても、竜の姿になっても着けていられるように」
黒ドラちゃんは一生懸命説明しますが、ブランはますます機嫌が悪くなりました。
「僕が作るのじゃダメなのかい?」
「それはダメなの!!」
ブランがショックで目を見開きました。
「え、黒ちゃん……」
「ブランにプレゼントするのに、ブランに作ってもらうっておかしいでしょ?だからダメ!」
ブランはキョトンッとしてから、見る見るうちに赤くなりました。
「え、え、これ、僕のために?」
「ブランはうろこの魔石をくれたでしょ?」
そう言いながら黒ドラちゃんが、今はペンダントになっているうろこの魔石をブランに見せます。
「これのお礼をしたかったの!ずっとずっと」
黒ドラちゃんは嬉しそうにニコニコしています。
ドンちゃんと食いしん坊さんはブランが真赤になるのをおもしろそうに見ていました。
「純粋な金で無くては魔力をうまく通せないのでな」
食いしん坊さんが言うと、ブランが顔を真っ赤にしながら「わかったよ」とうなずきました。
「それなら、その鎖、わたしに作らせてはいただけませんか?」
グラシーナさんが、前に進み出てきました。
リュングが驚いています。
“閃光の細工師”と呼ばれるグラシーナさんの作品は人気が高く、半年待ちが当たり前と聞いていたからです。
「今日、皆さまがこの店に来てくださったことは何かの縁でしょう。ぜひ、わたしに作らせて下さい」
もう一度、グラシーナさんが言いました。
ブランが答えるよりも早く黒ドラちゃんが答えます。
「ありがとう!嬉しい!」と言ってグラシーナさんの手を握ってぶんぶん振りました。
グラシーナさんも嬉しそうに微笑みました。
お店の中の品物で、気に入ったものを皆一つずつ選んで買っていくことにしました。
ドンちゃんは、茶色い煙水晶と細い金の鎖を選びました。
これで、クローバー形のチャームがついた、片眼鏡用の金の鎖を作ってもらうのです。
食いしん坊さんは、灰色の煙水晶を選びました。
ドンちゃんと同じくクローバー形で、こちらはペンダントトップにしてもらう予定です。
鎖は自分で用意して、守りの魔法をかけるんですって。
ブランは……ブランは胸がいっぱいで何も選べず。
ラウザーは、あの、綺麗な紅玉のついた簪を選ぼうとして、ラキ様に止められました。
ラキ様は少し考えてから、胸元からなにか薄い板のようなものを出しました。
「これを使って、櫛にしてくれぬか。花櫛に……そうだ藤の花を彫っておくれ」
みんながラキ様の手元に注目してみると、なんだか見覚えのある形をしています。
「ラキ様、それってひょっとして……」
黒ドラちゃんがたずねると、ラキ様は大事そうに一度なでてから、グラシーナさんにそれを渡しました。
ちらっと見るとラウザーが真赤になっています。
「ドンちゃん。あれってやっぱり初鱗だよね?」
黒ドラちゃんは小さな声で話しましたが、みんなも心の中で同じことを思っていたようで、ドンちゃんはうんうんと大きくうなずいています。
ブランがラウザーを肘でつついています。
あれ?こんなこと前にもあったような……。
ラウザーは勢いを付けて尻尾でブランにやり返していました。
「皆さまのご依頼の品、心をこめて手掛けさせていただきます。師匠、よろしいでしょうか?」
グラシーナさんはテルーコさんに確認しています。
テルーコさんは大きくうなずくと「ようやくお前の力を存分にふるえる機会がきたようじゃな」と嬉しそうに答えました。
そして、みんなの方へ向き直りました。
「わたしから皆さまへ、グラシーナの師匠として、お願いがございます」




