4-見事なかんざし
みんながお店の中に入っていくと、奥の方から濃い紫色のローブを着たおじいちゃんが出てきました。
「これは輝竜様、お久しぶりでございます。今日はどのような宝石をお持ちいただいたのでしょうか?」
軽くお辞儀をしてからそう言って微笑むと、ブランの返事を待っています。
後ろの方でリュングが「テルーコだ!テルーコだ!」と相変わらず興奮気味につぶやいているので、どうやらこのおじいちゃんがお店の名前になってる人のようです。
ブランが作る魔石は、国との取り決めで魔術師にしか譲れません。
けれど、魔力をほとんど含まない石は、こういうお店に宝石として売ることが出来るのです。
「いや、今日は売る方じゃなくて、買いに来たんだ」
そうブランが答えると、紫ローブのおじいちゃんはとても驚いたようでした。
「それは光栄なこと!しかし、輝竜様にお買い求めいただけるような宝石がございますでしょうか?」
ちょっと自信がなさそうです。
「いや、小さくアクセサリーに加工したものが欲しいんだ。出来ればグラシーナが手掛けた物を見たいんだけど」
それを聞くと、おじいちゃんはなるほどと言うように大きくうなずきました。
「ちょうど明日にでも店先の飾り棚に出そうと考えていた品がございます。しばしお待ちを」
そう言って、さっき出てきた店の奥へ消えて行きました。
おじいちゃんが戻ってくるのを待つ間、黒ドラちゃんはお店の中をキョロキョロと眺めていました。
ドンちゃんもラキ様も同じようにキョロキョロしています。
と、ラキ様が何か棒のようなものを手に取りました。
「ほお、これは……。美しい、見事な簪じゃ」
「かんざし?それ、どうやって使うの?」
ドンちゃんたら、ラキ様のこと怖がっていたのに、もうすっかりお友達みたいにしゃべっています。
「これはな、このように――」
そう言ってラキ様が髪に簪を挿しました。
ラキ様の艶やかな黒髪に、鮮やかな赤色が映えてとても綺麗です。
「わあーラキ様きれい!すごく似合ってる!」
ドンちゃんがぴょんぴょんしながらはしゃぐ後ろで、ラウザーがラキ様にぼーっと見とれています。
ズボンから尻尾がぷらーんと出てしまっているけど、全然気づいていないようです。
リュングがため息をついている横で、黒ドラちゃんはお店に並べられたたくさんの宝石を手にとって、光に透かして楽しんでいました。
ブランはお店の中をぐるっと回っています。
自分が持ち込んだ宝石がどんな風に加工されたのか、一つ一つ確かめているようです。
その時、奥から人が出てきました。
さっきのおじいちゃんかと思って見ると、黒髪の綺麗なお姉さんでした。
「輝竜様、お久しぶりでございます」
そう言って軽くお辞儀をしたお姉さんにみんなの視線が集まりました。
「わあ“閃光の細工師”グラシーナだあ」リュングの溜め息まじりのつぶやきで、このお姉さんがグラシーナさんだとわかりました。
その声で、グラシーナさんはブランの後ろにいるみんなの方へ視線を移しました。
「ふじの!?」
「かみなり様!?」
同時に見つめあう黒髪の美女二人。
でも、ラキ様はすぐに「いや、そんなはずはない」と、寂しげにつぶやきました。
一方、グラシーナさんも「まさか、そんな……本当に?」とつぶやいています。
ラウザーはラキ様の様子を見て黙っていられなかったのか「ふじの……さん?」とグラシーナさんに話しかけました。
グラシーナさんは、大きく目を見開くとラウザーを見て、それからラキ様を見て、それから首を横に振ると「いえ、いいえ、私は」と言ったきり黙りこんでしまいました。
その時テルーコさんが店の奥から顔を出しました。
「グラシーナ、輝竜様にこれも見ていただいたらどうかな?」
と、手にしたキラキラのアクセサリーを皆の方へ出して見せましたが、すぐに雰囲気がおかしなことに気付いたようです。
「あの、輝竜様、何かお気に障る事でもございましたか?」
テルーコさんの心配そうな声に、あわててブランが答えます。
「いや、そんなことは無いけれど、私の知り合いがグラシーナの細工物にとても興味があるようなんだ」
そう言いながらリュングを前に押し出します。
リュングはちょっとビックリしつつも「は、はい!私は魔術師の見習いですが、グラシーナさんの類稀なデザインの細工物には以前から興味がありまして……」と続けてくれました。
さすが!伊達に日々ラウザーの尻拭いをしているわけではありませんね。
するとテルーコさんは嬉しそうにうなずきながら「ありがたいお褒めの言葉ですな。良ければ奥に円卓がございますので、そちらでお話をされては?」と言ってくれました。




