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【完結】地味でも大冒険!『古の森の黒ドラちゃん』  作者: 古森 遊
ちょっと一息 ☆ ラウザーのひとりごと
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*** オアシスとキャラバン ***



あれから何日か経ったけど、俺がオアシスに入るのは砦のみんなの公認になった。

魔術師見習い君も態度を変えた。

「陽竜様、オアシスの中では女神様に迷惑かけないように、良い子にしていてくださいね」

あれ、やっぱりあんまり変わってないか?


俺ってば陽竜なのに、ほとんど毎日水の中で過ごしてる。

それでも影響を受けないラキ様のオアシス、すごいな。


でも、ラキ様はここに自分の意思で来たわけじゃないのに、余所に移ろうとは思わなかったんだろうか?


「なんだ、羅宇座、似つかわしくないぞ、お前がそのような難しい顔をしおって」

そう言ってラキ様が小さな稲光を尻尾の先へ飛ばしてきた。

「ピャッ!」

何度受けても声が出ちゃうな。

毎回新鮮な驚きだ。


「あの、ラキ様は別にこの場所に囚われているわけじゃないんですよね?」

ラキ様が、何だそんなことか、っていう表情で見ている。

「あの、どうしてずっとここに居てくださるんですか?砦の為?じゃないですよね。もっと前からなんでしょう?」

俺がたずねると、ラキ様の稲光がすーっと弱まった。

あれ、何か聞いちゃいけないことだったのかな?

何も答えてもらえないことが不安になって、尻尾を高速ニギニギし始めた頃、ようやくラキ様が答えてくれた。


「我がここに飛ばされてすぐのことだ。まだこの辺りは砂漠では無かったが、砂丘が広がっておった」


ラキ様は、ここは自分が元居た場所とは全く違う世界だとすぐに気付いたらしい。

初めのうちは、そのうち雷神様のお力で戻されるかもしれないからと、この場所に留まっていたそうだ。

その頃には、まだオアシスはここには無かった。

ラキ様は長く居るつもりは無かったし、空に登って雷雲を作ったり、たまに雷雨を降らせたりしながら、迎えが来るのを待っていた。


ある日、一人の娘が現れた。

それはこの世界の人間ではなく、黒目に黒髪、ラキ様がいた世界の人間だった。

なぜここに来たのかはわからない。

しかも娘はただの娘ではなかった。

大きなおなかを抱えた妊婦だった。


「ふじ乃はここに来た時にすでに傷だらけであった」

理由は口にしなかったが、おなかの子の父親から逃げてきたと言っていた。


ラキ様が遠い目をしながら語り続ける。


大きなお腹に傷だらけの体、ふじ乃という名の娘はどんどん弱っていった。

助けてやりたくても、ラキ様自身が出来ることと言ったら、雷と雨を呼ぶことくらい。

なんとかしてやりたくて、せめて水だけでも、と雨を降らせ続けた。

ふじ乃はそんなラキ様に「ありがたい、ありがたい」と何度も繰り返し礼を言ったという。

砂丘に振り続ける雨、やがてそれがオアシスとなるまでに時間はかからなかった。

移動しない雷雲に、キャラバンが水を求めてやってきて、ふじ乃はその隊の人間から手当を受ける事が出来た。


そして、まるでキャラバンを待っていたかのように、ふじ乃は子どもを産み落とした。

最後の力を振り絞ったんだろう、赤ん坊の産声を聞きながら、ふじ乃は息を引き取った。

生まれた赤ん坊は、出来たてのオアシスから汲んだ水で産湯をつかった。


幸いキャラバンには赤子が口にできる物もあったので、ラキ様は赤ん坊を彼らに託すことにした。

もちろん、相手は商人だ、ラキ様もただとは言わない。

ラキ様は、この地にオアシスを残すことを条件に、ふじ乃の赤ん坊を育ててもらうことにしたのだ。


「その赤ん坊って、どうなったんですか?」

気になって質問すると、ラキ様は笑った。

「悪ガキになりおったわ。キャラバンと一緒に何度かここにも顔を出したが、……最後に会った時には孫を連れていたな」

「最後……」

俺は何も言えなくなった。


そうだ、ラキ様は本当に長いことここにいるのだ。

赤ん坊が成長し、老いて、砂に帰るほどの長い時間。


「そういえば、あの悪ガキな、仮でも良いから母親の墓を作ってやりたいと言ってな」

「墓ですか?」

「ああ、ふじ乃は亡くなってすぐにこの地で荼毘にふした。だから跡には何も無い」

「お墓はどこに造ったんでしょうね?」

俺にはこの辺でそれっぽいものを見た記憶が無かった。

「この砦の向こうに、大きな木が1本あるだろう?薄紫の良い香りをさせる花が咲く木が」

「フジュの花のことですか?」

「ああ、この砦の者たちがそのように呼んでいた気もするな。あれがふじ乃の墓だ」

「えっ!あれが!?」

「ああ、なにやら遠方で手に入れた珍しい木だと言っていたが、初めは小さかったがな、大きくなったな」

ラキ様はさらっと言ったけど、あそこまで大きくなるなんて、どれくらいの時間がかかったんだろう。


「その、悪ガキさんの子孫とかここには来ないんですか?」

気になって聞いてみる。

「ははは、何人かは訪ねてきたりもしたが……長い時間が経ったからな、今はもう我とふじ乃のことを知るものもおるまい」

ラキ様、自分は忘れ去られてもオアシスを守ることだけは続けてるんだ。

「それに、長い時間が経って、ふじ乃の血を引く者も薄く広がった。そういえば、砦にも一人おるな」

「ええーっ!砦にいるんですか!?ラキ様はわかるんですか?」

なにそれ、すごい偶然?必然?びっくりしちゃうな。

「いつもお前にくっついて回っている魔術師の小僧がおろう?あれはふじ乃の血を引いておる」

「ええーっ!見習いくん!?」

そういえば、黒髪だな、あいつ!

なんかドキドキワクワクする!


俺が我慢できなくて、水中でクルクルと回転して、落ち着きなく尻尾を動かしていると、ラキ様から大きめの稲光を尻尾に落とされた。

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