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【完結】地味でも大冒険!『古の森の黒ドラちゃん』  作者: 古森 遊
ちょっと一息 ☆ ラウザーのひとりごと
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*** オアシスとツンデレ ***



あの日からもう五日。

コレドさんには散々叱られ、砦の魔術師からはオアシス禁止令が出された。

白砂より内側には入っちゃダメだって。

出来ればライキ様と仲直りして、またオアシスの中に入れてもらいたかったんだけど、これじゃ無理そうだ。


竜の姿のまま、白砂の外側で立ち尽くす。

尻尾をニギニギしながら、背伸びしてオアシスの中を覗き込む。

するとどこで見張っていたのか、すぐに若い魔術師見習い君が走ってきて「ダメですよ、陽竜様!」とか言われてしまう。

一応「様」とか付けてくれているけど、口ぶりは小さな子供のいたずらを注意する感じだよね?

なんか、我ながら情けない。


しばらくオアシスを眺めていたら、良いことを思いついた。

白砂の外側でオアシスに背中を向けて座り込む。

そうすると当然尻尾はオアシスの方へ伸びる。

「チャポン」

小さな水音を立てて、尻尾の先っちょがオアシスに入り込む。

でも俺、今、オアシスの外側の方に気を取られてますから。

建物の壁や窓を見るのに夢中ですから。

尻尾の先っちょがオアシスの中に入ってるのなんて、全然気が付きませんでしたから!

魔術師見習い君は気づいていない様子。

尻尾は草や花に隠れて見えないもんな、へへへ。


でも、ライキ様も気づいていないのか、尻尾にピリッとした刺激は来なかった。

辛抱強く待つ。

水の中で、ちょっと先っちょを揺らしてみる。

ちゃぽちゃぽ。

で、待つ。

辛抱強く待つ。

――けど反応無し。

ライキ様は俺の尻尾には気づいていないみたいだなあ……と、もう尻尾を引き上げようと思った時だった。

ビリリリッ!と強力な稲光が尻尾の先っちょを痺れさせた!

「ピャア~ウッ!」

思わず大きな声を出してしまった。

やばい!魔術師見習い君が飛んでくる。

「陽竜様!」という魔術師見習い君の咎める声と、「羅宇座!何しておった!」というライキ様のお怒りの声が同時に聞こえた。


振り向くとライキ様がオアシスの上に浮かんでいた。

キラキラと体の周りを無数の稲光が光っていてとても綺麗だ。

反対側を振り向くと、魔術師見習い君が腰を抜かしてへたり込んでいた。

「あ、女神さま……オアシスの女神様だ」

見習い君が何だか拝み始めたぞ。

ライキ様は「ふんっ!」と鼻息荒く俺の方を見て顎をしゃくると「さっさと入ってこんか!何をしておったのだ!?羅宇座の分際で!」と怒鳴った。

オアシスに入っても良いらしい。

ラウザの分際で、という表現は初めて聞いたけど、まあ気にしなくても良いだろう。

これってツンデレってやつじゃないかな?

ロータが言ってた。

気が強くて可愛い女の子によく見られる現象だって。


俺は魔術師見習い君に「それじゃ、女神さまに呼ばれてるんで!」と言ってから、オアシスの中に勢いよく飛び込んだ。



この間は引きずり込まれたけど、今日は自分からどんどん潜っていく。

尻尾を揺らしてグングン潜っていくと、水底近くにライキ様が立っていた。


「遅いぞ!羅宇座、何をしておった!?」

いきなりお怒りモードだ。

「でも、ライキ様、この間は俺に帰れって……」

つい尻尾をニギニギしながら答えるとライキ様がキッと睨みつける。

「もう来るなとは言っておらんぞ!なぜ五日も来なかったのだ!」

えーと、これはつまり淋しかったってこと?

ツンデレだな、これ。ツンデレ決定だよな?ロータ。


「このオアシスは砦の皆からとても大切にされているんです。そこに俺が勝手に入りこんじゃったから、怒られちゃって」

「誰が怒ったのじゃ!?オアシスに入る者を決めるのは我じゃ!他の誰でもないぞ!」

ライキ様はプンプンピカピカしながら俺の周りをくるくると回っている。

「あの、俺、毎日来ても良いんですか?」

恐る恐るたずねると、ライキ様はパッと頬を染めてからそっぽを向いた。

「まあ、羅宇座がどうしてもというなら、……仕方あるまい?」

素直じゃないなあ。

でも、ほんのり頬を染めたライキ様は可愛くて、俺は尻尾を振り振りしながら「来たいです!」と元気よく答えておいた。


水底で、時々尻尾に稲光を飛ばしてもらいながら「ピャウッ!」とか言ってライキ様と遊んでいると、水面の方がずいぶん騒がしくなってきた。

ああ、そう言えば魔術師見習い君は腰を抜かしていたんだっけ。

これは一度上に出て様子を見てきた方が良いかもしれないなあ。

「あの、ライキ様、ちょっと上が騒がしいんで見てきますね」 俺がそう言うと、ライキ様は稲光を飛ばすのを止めて、ちらっと水面を見上げた。

「行くのか?」

「はい、あの、さっきの魔術師見習い君がどうなったか気になるし」

「そうか。よし、では我も一緒に行ってやる」

「えっ!?」

「何か?」

「い、いや、ありがとうございます」

ライキ様にはそう答えたけど、大丈夫なのかな?

このオアシスにライキ様が住んでいるなんて、長いこと誰も知らなかったんじゃないか?って思うんだ。

魔術師見習い君は腰を抜かしていたし、コレドさんに見られたら何て言われるか……。

オアシスがあるから、この砦は成り立っているようなものだし、まさかライキ様に出て行けとは言わないとは思うけど。

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