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【完結】地味でも大冒険!『古の森の黒ドラちゃん』  作者: 古森 遊
5章☆見つけるのって大変なんだ!の巻
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8-王女の願い

あれから何度か黒ドラちゃんとドンちゃんはゲルードのお屋敷へ行きました。

お屋敷にはカモミラ王女が居て、一緒にダンスの練習に付き合ってくれました。

ダンスを教えてくれるのは、王女も数回教えてもらったことがあるというおばあちゃん先生でした。

ダンスを全然知らない黒ドラちゃんのために、優しくて教えることがとても上手な先生をスズロ王子が選んでくれたのです。

おばあちゃん先生なので、1回の時間は短いし毎日は無理ですが、空いた時間はカモミラ王女とドーテさんから、マナーを教えてもらうことになりました。


そうそう!ドンちゃんもダンスすることになったんです。

練習場所は、本庭園です。

食いしん坊さんが「ノラウサギのダンスといえば、ノーランド国の名物である。踊りの一つも踊れないようでは、ノラウサギの名が泣きますぞ!」と言って、ドンちゃんにノラウサギダンスを教えてくれることになったのです。

食いしん坊さんの言い方はツンツンしていますが、声には喜びがあふれていました。


ドンちゃんのお母さんの話によると、ノラウサギダンスというのはウサギの世界では伝統芸で、食いしん坊さんのような由緒ある一家のウサギから教えてもらえるなんて、光栄だわ!と喜んでいました。

ちなみに、ドンちゃんのお母さんもノーランド・プチ魔ウサギだと教えてくれました。

お母さんはあまり多くを語りませんでした。

人から狩られる危険を乗り越えて、古の森にたどり着いた後も、あまり名乗らないようにしていたみたいです。



「ドンちゃん、ダンスを覚えたらあたしに見せてね!」

黒ドラちゃんが言うと「うん!あたしゆいしょ正しいノラウサギとしてがんばる!」とドンちゃんも元気に宣言します。

自分のことをノラウサギと呼ぶのが、最近のドンちゃんのお気に入りになっていました。

ダンスを教えてくれるのは、どんな先生なんだろうと想像していましたが、黒ドラちゃんもドンちゃんも先生がとても優しくて安心しました。


ついでにブランとゲルードも、秘かにホっと胸をなでおろしていました。

どうやら舞踏会で黒ドラちゃんの頭の上に乗るのは、リボンや髪飾りだけで済みそうだからです。


ゲルードの屋敷にいる間、ドンちゃんはいつもは黒ドラちゃん達とは別れて、ダンスの練習で食いしん坊さんと一緒に過ごす時間が長めでした。

でも、たまに一緒になると、カモミラ王女はドンちゃんのことをとても可愛がってくれました。

自分の国、ノーランドの魔うさぎだって言うだけじゃなく、茶色の瞳に茶色の毛並み、なんだか妹みたい、なんて言ってくれたのです。

ドンちゃんの毛並みに似合いそうなリボンや飾りを手造りして、プレゼントしてくれました。

それらは本当にドンちゃんに良く似合って、みんなで可愛い可愛いといって盛り上がりました。

ドンちゃんは嬉しくて、ゲルードのお屋敷に来て、カモミラ王女とみんなと会えて良かったなあと心から思いました。

そして、リボンや飾りをつけてもらうと、毎回食いしん坊さんのところへ見せに行きます。

食いしん坊さんは「悪くない」とか「姫さまの審美眼は確かですな」とか言いながら、片眼鏡をキラリと光らせて微笑むのでした。


そんな感じで、ゲルードのお屋敷に通ううちに、黒ドラちゃんはカモミラ王女ととても仲良しになりました。

王女はスズロ王子と同じ年でした。

「私は、上の二人のお姉さまとは年が離れているの」

「そうなんだあ」

「お父様もお母様も、お姉さまたちも、とても私のことを可愛がってくださったわ」

「うん、わかるよ。だってカモミラ王女は本当に可愛いもん!」

黒ドラちゃんがそう言うと、カモミラ王女は苦笑しました。

「それに甘えて、なんとなくこんな年までお嫁行くことも無く残ってしまって……」

「こんな年?王女様はまだ若いでしょ?」

「上のお姉さまたちは、私の年にはもう子どもを産んでいたわ。なのに私は……」

「カモミラ王女はスズロ王子の結婚相手にはならないの?」

黒ドラちゃんがそう言うと、カモミラ王女は真赤になって「えっ」とか「うっ」とかつぶやきました。

どうやら、カモミラ王女はスズロ王子のことが好きみたいです。


「カモミラ王女も今度の舞踏会には出るんでしょ?」

「え、ええ」

「じゃあ、そこでスズロ王子のお嫁さんに選ばれれば良いんだよ!」

「えっ、いや、あ、私なんて、無理よ」

カモミラ王女がつらそうに言いました。

「どうして?あたしカモミラ王女にスズロ王子と結婚してほしいな!」

黒ドラちゃんが無邪気に言うと、そばで控えていたドーテさんもうんうんとうなずきました。

「いえ、私では無理ね」

さっきまでの明るい表情は消えてしまい、痛みに耐えるようにカモミラ王女がつぶやいて、黒ドラちゃんはどうしてなんだろう?と思いながらも、それ以上は聞くことが出来ませんでした。


それから二、三日経った日のことです。

黒ドラちゃんはドーテさんからマナーのお勉強を教えてもらっていました。

今日はカモミラ王女が「会っておきたかった方」のところへ出かけるので、ドーテさんだけがゲルードのお屋敷にいるのです。

「ねえ、ドーテさんはカモミラ王女の侍女さんなんでしょ?ずっと一緒にいなくても良いの?」

黒ドラちゃんがたずねると「今日は王都から少し離れた場所に向かわれるので、騎士がついております」とドーテさんが答えました。

「へー、そうなんだあ」

「それに、私はカモミラ王女があの方にお願いをしに行くのは賛成できませんので」

ドーテさんが苦々しく言いました。

「お願いしに行く?会いに行くだけじゃないの?」

黒ドラちゃんが不思議に思って聞き返すと、ドーテさんは焦ったように答えました。

「い、いえ、その……」

しばらくどうしようかと悩んでいたようですが「聞いていただけますか?」と言って、カモミラ王女の話を始めました。

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