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【完結】地味でも大冒険!『古の森の黒ドラちゃん』  作者: 古森 遊
3章☆おとなになるって、かゆいんだ!の巻
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12-とくべつなもの?

ゲルードは、クマン魔蜂さんから身を守るために、頭からすっぽりマントをかぶって縮こまりました。

マントの中でハアハア息を切らせています。


「ちゃんと説明してもらおうか、ゲルード坊や」


マグノラさんがそう言うと、ゲルードの周りを竜三匹でぐるっと取り囲みました。




ようやく喋れるまで息が落ち着いてきたゲルードが話し始めました。


あの日、黒ドラちゃん達がお城に行った日のこと――


クマン魔蜂さんのはちみつという素晴らしい<素材>を前にして、ゲルードの魔術師としての血が騒ぎました。

王子の前から運び出した巣ごとのはちみつを、すぐに魔法薬作りにまわそうと考えたそうです。

ところが、突然謁見の間から運び出されてしまったことに、クマン魔蜂さんたちは一匹も納得していませんでした。

王子様のところへ戻せー!黒ドラちゃん達のいるところへ戻せー!とぶんぶん騒ぎました。

貴重なクマン魔蜂だけど、今ははちみつの方が重要!とばかりに、ゲルードは巣の周りに一瞬炎の魔法を躍らせたのです。

びっくりしたクマン魔蜂さんたちは大混乱のまま一斉に窓から逃げ出しました。

あとには一匹も蜂のついていない、きれいな蜂の巣とはちみつ……ゲルードは大喜びで魔法薬作りを進めたそうです。


「ひどい!!」

と黒ドラちゃん。


「まったく、なんてやつだ!」

とブラン。


「もう、ゲルードなんて一生はちみつ食べちゃダメ!」

ドンちゃんも怒っています。


マグノラさんも手を腰に当ててゲルードを見下ろしています。


「で、でも炎の魔法は見せかけだけだったのです。さすがに私だって贈り物を持ってきた相手を燃やすようなまねはいたしません」

「えー、そんなこと言ってるけど、ほんとかなあ?」

黒ドラちゃんが疑うと「その証拠に、焼かれたクマン魔蜂はいなかったはず!」とゲルードが訴えます。


マグノラさんがクマン魔蜂さんの方を見ると「ぶいーん、ぶんぶん」と羽音で答えています。

「確かに焼かれたものはいなかったそうだけど、2、3匹迷子になっちゃって、帰るのが大変だったらしいよ、坊や」

「そ、それは大変申しわけございませんでした。一生に一度在るか無いかの大チャンスに目がくらんでしまいましたっ」


「もちろん、二度目は無いんだよ。坊や」

マグノラさんが低いガラガラ声で念を押します。


「も、申し訳ございません!申し訳ございません!」

ゲルードはマントの中で震えあがっています。

「出てきてちゃんとクマン魔蜂さんに謝った方が良いよ、ゲルード」

黒ドラちゃんがそう言うと、おずおずとゲルードがマントの中から顔を出しました。

マグノラさんの頭の上に落ち着いたクマン魔蜂さんに向かって頭を下げます。

「す、済まなかった、つい夢中になってしまって。お詫びに古の森にたくさんの花を植えると約束しよう!」

黒ドラちゃんも思い出して言いました。

「そうだった、クマン魔蜂さん、ゲルードとはお花を植えてもらう約束をしてあるから、許してあげて?」


クマン魔蜂さんは、マグノラさんの頭の上で「ぶん!」と一回大きく羽音を立てました。

「ゲルード坊や、この子たちとの約束を破ったら、私が許さないよ。たかが虫だとは思わずに、必ず約束は守るんだよ」

ゲルードは何度もうなずきました。

「というわけだ、これで許してあげられるね?」

マグノラさんがそう言うと、頭の上のクマン魔蜂さんが返事をするようにご機嫌で「ぶーん」と一回羽音を響かせました。


やれやれ、良かった、とその場のみんながほっとした時です。

ドンちゃんが「あっ!」と叫びました。

「どしたのドンちゃん?」

黒ドラちゃんが聞きましたが背中のドンちゃんから返事がありません。

「ドンちゃん?」

黒ドラちゃんがもう一度声をかけると「ど、ど、どうしよう!黒ドラちゃん」とすごく焦った声が返ってきました。

「ドンちゃんどうしたの?」

もう一度黒ドラちゃんが聞くと「取れちゃった……」と声がして、背中から1枚うろこが差し出されました。

「えっ!?ひょっとしてこれ、あたしがかゆがってたやつ?」

「うん。今、ゲルードとクマン魔蜂さんの追いかけっこ見ていたら夢中で掴まってたみたいで、気が付いたら……」

ドンちゃんのしょんぼりした声がしました。

「ごめんね、黒ドラちゃん。これ『ひっぱちゃダメだよね』って言ってたのに」

「大丈夫だよ、全然痛くなかったし。っていうか、取れたのも気付かなかった」

取れたうろこを手にして、太陽に透かしてみるとキラキラ輝きました。


「不思議だなー、あんなに大変な思いをしたのに、こんなに簡単に取れちゃうなんて」

 

黒ドラちゃんがしみじみしながらつぶやきました。

と、さっきまで萎れていたゲルードが、黒ドラちゃんのうろこを見て目の色を変えました。

「そ、それは竜のうろこではないですか!!しかも古竜殿の取れたてうろことは!!」

まるでどこかの野菜や果物みたいな言われ方です。

「な、なに?」

黒ドラちゃんはタジタジしながらゲルードにたずねました。


「竜のうろことは非常に貴重なものなのです!驚異的な効き目を持つ魔法薬の原料にもなりますし、防具や武器にはめ込めば人間の使う魔法や攻撃など簡単に跳ね返します!おおおっ!まさかこの目で実物を見ることが出来るとは!」

ゲルードの勢いに押されて、黒ドラちゃんはどんどん下がっていました。


と、ブランが後ろからゲルードのマントを引っ張り「お前の立ち直りの速さの方が驚異的だ!」と言って、鎧の兵士さんたちの方までペイっと投げてくれました。

「黒チビちゃんのうろこを材料に、なんて考えるなんて、坊やはまだ懲りてないのかい?」

マグノラさんが低ーい声でそう言うと、クマン魔蜂さんが頭の上で羽音を「ぶい~~~~~ん!!」とさせました。

ゲルードの顔色がサッと変わり「懲りておりますよ、懲りておりますよ、十分です!」といってその場でマントをかぶって丸まりました。


ブランは黒ドラちゃんに向き直ると、取れたうろこのことを教えてくれました。


「そのうろこにはね、強い魔力が籠められているんだ。竜の弱点を守るくらいのものだからね」

「そうなんだ。きれいなだけじゃないんだね」

「そうだよ。竜にとっては特別なものさ」

「特別?」

「うん。普通は竜からの友情や感謝の印や、その……愛情の印に贈ったりするものなんだ」

「へー!そうなの?じゃあ、あたしも誰かにあげた方が良いのかな?」

「いや、別にそれは黒ドラちゃんの気持ち次第だから、手放さなくたって良いんだし……」

「うーん。どうしよう?特別なうろこだもんね。特別な相手に贈りたいな」

「特別な相手!?うん、うんそうだね!」

なんだかブランが目をキラキラさせています。


そして不安そうにドンちゃんをちらちらと見ながら、黒ドラちゃんの言葉を待っているようです。






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