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【完結】地味でも大冒険!『古の森の黒ドラちゃん』  作者: 古森 遊
3章☆おとなになるって、かゆいんだ!の巻
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5-竜のじょうしき?

ドンちゃんが「マグノラさんてブランよりもどのくらい大人なの?」と聞くと、マグノラさんは大笑いしてから「ずっとずーっとだよ」と教えてくれました。


マグノラさんは、本人曰く“竜として一番魅力的な”580年くらい、ブランは“若造”の120~130年くらい、3年目の黒ドラちゃんはおチビちゃんだそうです。

「おチビちゃんって可愛いってこと?」と黒ドラちゃんがたずねると、マグノラさんはまたガラガラの大きな声で笑って「そうだねえ、黒チビちゃん」と答えてくれました。

ブランはマグノラさんのことツンツンしているなんていっていたけど、全然そんなことありません。

どうしてブランはマグノラさんのこと苦手なんでしょう。


「マグノラさんは、ブランと仲良しじゃないの?」

あ、ドンちゃんも同じことを考えていたみたいです。

疑問をそのまま素直に聞いちゃいました。

「ははは、ブラン坊やが何かぼやいていたかい?」

「えっ、いや、あの……」

ドンちゃんが困って口をムグムグさせています。

あなたのこと苦手って言ってたらしいですよ、とはさすがに言えないものね。


「あの坊やはさ、北の山から出たての頃にこの森に来たのさ」

「へえー、ブランが“おチビちゃん”の頃?」

「そうそう、チビ助だったねえ」

マグノラさんは思い出しながらすごく楽しそうです。


ブランは自分の巣穴を塞いでいた大岩をようやくどかして、北の山から出てきたばかりでした。

何年もかかって大岩を動かして広い世界に飛び出した時、自分はもはや一人前だ!と思っていたようです。

マグノラさん風に言うと“チビ助”のブランは「そっちが先に名乗れ」とマグノラさんに言ったんですって。

マグノラさんはその時に、竜の常識っていうのをブランにちゃんと教えてあげたそうです。

ブランは文字通り尻尾を丸めてマグノラさんの前から飛んで巣穴に逃げ帰ったそうです。


「竜の常識って?」

 黒ドラちゃんがドキドキしながらたずねました。

もしかして、自分もマグノラさんの前から飛んで逃げださなくちゃいけないかな、と思いながら。

「自分よりも強い者、長き者には敬意を払うってことさ」

「けーい?」

黒ドラちゃんもドンちゃんも初めて聞く言葉です。

「自分よりも魔力が強いもの、長くこの世にいるものには自分の方からごあいさつしなさい、ってことだね」

それなら大丈夫、さっきマグノラさんと出会った時ちゃんとごあいさつ出来たはず、と黒ドラちゃんはホッとしました。

そして、ブランも物知りだと思ったけどマグノラさんはもっと物知りだなあ、と感心しました。

「ブランにごあいさつの仕方を教えてあげたの?」

ドンちゃんが聞くと「ああ、よーく教えてやったよ」とマグノラさんは答えてくれました。

「まあ、でもそのせいか、あたしのことを避けるようになっちまってね」

マグノラさんがちょっと淋しそうに言います。

なあんだ、マグノラさんは親切なのに、ブランの方では苦手だなんて、そんなのダメですよね?

思わず黒ドラちゃんは言ってしまいました。

「今度ブランと一緒に来るよ!」

ドンちゃんも背中でうんうん肯いています。

「ありがとう。たまにこうして他の竜と話すもの悪くないね」

マグノラさんは嬉しそうに笑ってくれました。


それからマグノラさんは白いお花の森の中を案内してくれました。

一緒に回っていて気付きましたが、マグノラさんはとても良い匂いがします。

白いお花と同じ匂いです。

ほんのり甘くて、ついついくんくんしたくなっちゃう感じ。

ドンちゃんも黒ドラちゃんの背中でしきりにくんくんしているので、思わず笑っちゃいました。

「どうしたんだい?」

マグノラさんが不思議そうに聞いてきました。

「あのね、マグノラさんってとっても良い匂いがするの。ドンちゃんがくんくんしてるから可笑しくなっちゃって」

黒ドラちゃんが答えると「ああ、あたしは華竜だからね」とマグノラさんが言いました。

そういえばブランがそんなこと言ってたような……。

「華竜は植物の中でも花を咲かせる種類のものを大きく育てることが出来るんだよ、魔力でね」

花の咲く植物はたいていが実を付けます。

マグノラさんは、花を咲かせて実りを見守り育てる竜なんですって。

そのせいか、人間からは「安産の守り竜」なんて言う風に呼ばれているそうです。

「まあ、植物だろうと人間だろうと豊かに実れば良いな、とは思うさ」

だから、あながち人間が勝手に呼んでいるだけってことでもないみたいです。


この国では女の子が産まれるとマグノラさんの森にお参りして、その子がやがて大きくなってお腹に命が宿るとまたお参りに来る、そんな習慣があるそうです。


「マグノラさんてすごいんだねえ」黒ドラちゃんとドンちゃんはすっかり感心してしまいました。

「あたしは別に特別じゃないよ。竜は、たいていが己が棲む場所に、国に、恩恵をもたらすものさ」

「そうなの?」

「ああ、だいたいみんな気の良い連中だよ。争いを好まず、自分よりも弱きもの短き者にも優しいさ」

「へえー。あ、でも確かにブランはあたしにもドンちゃんにも、とっても優しいよ!」

黒ドラちゃんが嬉しそうに言うと「ま、それはまた別かもね。あの坊やも一人前になったってことなんだろうさ」

マグノラさんはいたずらっぽく笑いながら、楽しげに答えました。






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