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【完結】地味でも大冒険!『古の森の黒ドラちゃん』  作者: 古森 遊
13章☆甘えるのって、ふわふわなんだ?!の巻
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7ー『何もしない』

 二人のやり取りを見ていた黒ドラちゃんが、力強く立ち上がりました。


「決めた!ゲルードの気持を確かめよう!」

「えっ!」


「ぶぶいん!」

「モッチも協力してくれるって」

「えええっ!」


 戸惑うドーテさんをしり目に、黒ドラちゃんとモッチの乙女心応援団は止まりません。

「じゃあ、まずはマグノラさんに相談に行こう!」

「ぶぶいん!」

「華竜様に……そうね、それは良いかも」

 マグノラさんの名前が出てきたことに、カモミラ王太子妃もうなずいています。


「カモミラ様まで……」

「だって、ドーテ、マグノラ様は女性の味方よ?」

「そうだよ、前にマグノラさん『困ったときは長き者が導いてくれる』って、言ってたし」

「ぶぶいん!」

「確かに。マグノラ様のお導きがあったからこそ、私も良い方へ向かうことが出来たのだと思っているわ」

 カモミラ王太子妃がしみじみとうなずいています。

 その言葉を聞いて、しばらく考え込んでいたドーテさんが、顔をあげました。

 そして、みんなの顔を見まわしてからゆっくりとうなずきます。


「マグノラ様の元へ行ってみます。ご相談させていただくことで、何がどう変わるのかはわかりませんが……カモミラ様が一歩を踏み出したように、私も動いてみます」

「そうと決まれば、さっそく行こうよ!」

「ぶぶいんぶいん!」

 黒ドラちゃんもモッチもすっかり乗り気です。


 とりあえず、まずは鎧の兵士さんのところまで戻ってから、二人と二匹は白いお花の森へと向かうことにしました。

 みんなが戻ってみると、鎧の兵士さんたちはカモミラ王太子妃たちを見送った場所できちんと待っていてくれました。


 兵士さんたちに白いお花の森に向かうお話をして、みんなで馬車に乗りこみます。

 久しぶりの馬車にはしゃぐ黒ドラちゃんたちの横で、ドーテさんは真剣なまなざしをしてじっと手を握りしめていました。










「おやおや、珍しいメンバーだね」


 白いお花の森のお花畑で、マグノラさんがみんなの顔を見回しながらゆっくりと尻尾を振りました。

 辺りに優しい甘い香りが漂います。


「あの、華竜様、本日は突然お邪魔して申し訳ございません」

 ドーテさんが緊張しながら話し始めると、すぐにマグノラさんが首を振りました。

「なに、そんなに固くなる必要はないよ。そろそろ来る頃じゃないかと思っていたのさ」

 マグノラさんの言葉にドーテさんが目を見張ります。

「マグノラさん、ドーテさんが来ること、知ってたの?」

 黒ドラちゃんがたずねると、マグノラさんがうなずきました。

「ええと、昨日だったか、その前だったかね?ドンちびちゃん夫婦がやってきてね、ノーランドの双子におめでたい話が続きそうだ、と」

「ドンちゃんと食いしん坊さんが!?」

 黒ドラちゃんがびっくりして声をあげると、マグノラさんはゆっくりと尻尾を振りました。

「なんでも、ノーランドの騎士と結婚する……モーデだっけ?そちらは体が弱かったとかで、母親が心配しているらしい」

「まあ、お母様が!?」

 ドーテさんが驚いてカモミラ王太子妃と顔を見合わせます。

「それで、グィンはモーデのことをマグノラ様にお願いするように頼まれたのね」

 カモミラ王太子妃がつぶやくと、マグノラさんがちょっと首をかしげました。

「双子の母親はモーデの体のことも心配してたけれど、お前さんのことも、心の……気持ちの方を心配していたようだよ」

「え」

 ドーテさんが再び驚いて目を見張りました。

「あちらの結婚が決まったことで、こちらの結婚の話も進むことになったんだろう?」

 マグノラさんの問いかけにドーテさんがうなずきます。

「『きっと喜ぶだろうと思っていたのだけれど、何だか元気がないようだ』と心配していると」

「そ、そうなのですか……。やはり家族の目はごまかせませんね」

 ドーテさんがちょっと困ったように笑います。


「まあ、結婚前は多少なりとも気持ちが揺れ動くことはあるもんだ、そんなに心配することはないだろうよ、とグィンには言づけたんだが……」

 マグノラさんがドーテさんの顔をのぞきこみます。

「ここへ足を運んだってことは『そのうち解決するさ』とはいかない気持ちなんだね?」

 マグノラさんの言葉に、ドーテさんが黙りこみます。



「あの、わたし……」

 ようやく口開いたものの、どう伝えれば良いのか悩んでいるみたいです。


 たまらず黒ドラちゃんが助け舟を出しました。

「あのね、ドーテさんはゲルードのこと好きなの!初恋なの!ゲルードがお姫様みたいでも、おじいちゃんみたいなしゃべり方でも好きなの!だけど、モーデさんと騎士さんみたいにふわふわしてないんだって。あーゆーの良いなあって思っても、なかなかゲルードに言えないんだって。それにゲルードは内緒話じゃない『ささやく』をしてくれないんだって。ゲルードは鈍いんだって!」

 黒ドラちゃんが一気に説明すると、一瞬目を丸くしてからマグノラさんは大きな体を揺らして笑い出しました。

 ひとしきり笑ってから、マグノラさんは黒ドラちゃんの頭を優しくなでてくれました。

「ありがとう、黒ちびちゃん。良くわかったよ」

 自分の説明がうまくなかったのかと心配していた黒ドラちゃんはホッとしました。


 ドーテさんは胸の前で両手を組んで赤くなってうつむいています。

 その後ろ姿を、カモミラ王太子妃が応援するようなまなざしで見守っていました。


 マグノラさんがドーテさんに向き合いました。


「お前さんの気持はなんとなくわかったよ。まあ、ゲルードはひざまずいて花をささげるような柄じゃないものね。ふわふわするっていうのも苦手そうだ」

 これまでのゲルードのことを思い出しているのか、何度もうなずきながらそう言います。

「力になってやりたいが……いいかい、良くお聞き、双子のお嬢ちゃん。お前さんの望みを叶える方法を、私は知らないんだ」

 マグノラさんの言葉に、ドーテさんの口から小さく「え」という声がこぼれました。


「そんな!華竜様は私の時だって導いてくださいました!」

 カモミラ王太子妃がドーテさんを後ろから支えながらマグノラさんに大きな声で訴えます。

「いや、あの時だってあたしは『何もしなかった』よ。そうだろう?」

「そ、そうですけど……あ、いえ、そうじゃないというか」

「せっかく頼ってきてくれたのに申し訳ないけどね、今回もあたしは『何もしない』だろうね」


 説明はちゃんとできたはずなのに、マグノラさんがドーテさんのお願いを叶えてくれないみたいだと知って、黒ドラちゃんはしょんぼりしました。

 頭の上でモッチも白い布を出して涙をふく仕草をしています。


 マグノラさんは、そんなみんなの様子を見てから、ふうっとため息をつくとドーテさんに話しかけました。

「人の気持ちなんて、どんな風にでも変わるものじゃないかい?」

 マグノラさんの声に、ドーテさんが顔をあげます。

「たとえば、お前さんのその思いを知る前と知った後では、ゲルードの気持ちだって変わるだろう」

「マグノラ様……」

「カモミラ王太子妃がここを訪れた時だって、私は何かをしてあげられたわけじゃない。ただ、本人が自分で決めて、動いて、自分の道を切り開いたんだ」


 ドーテさんがカモミラ王太子妃を振り返りました。


 あの時、ドンちゃんのために短く切った髪は、ようやく肩を越えて背中に届くようになりました。




「わかりました」


 ドーテさんがマグノラさんにお辞儀をします。


「ありがとうございます。華竜様が『何もしない』とおっしゃってくださったおかげで、自分がすべきことが見えてきました」


 マグノラさんは何も答えずに尻尾を優しく揺らします。

 そして、ゆっくりと体を丸めると、お昼寝の体勢に入りました。

 それを見ると、カモミラ王太子妃も丁寧に礼をしてドーテさんと一緒にもと来た道を歩き出しました。

 黒ドラちゃんとモッチもあわてて後を追います。


 すると、後ろから「黒ちびちゃん」と呼び止められました。

「マグノラさん?」

 あわててマグノラさんのところに戻ると、マグノラさんは片目だけ開けて小声で伝えてきました。

「ブラン坊やに、今回のことを話してごらん」

「ブランに?」

「ぶぶいん?」

 黒ドラちゃんもモッチも不思議に思いました。

 だって、ブランとゲルードは仲良しさんじゃありません。

 とてもドーテさんの恋の味方になってくれるとは思えませんでした。


「黒チビちゃんが頼めば、ブランはすぐに何かしら動くだろう」

「う、うん」

「ブランも、本当なら喜ぶはずなのさ」

「え?」

「ぶぶいん?」

 黒ドラちゃんとモッチが首をひねっているうちに、マグノラさん寝息が聞こえてきました。

 どうやらお昼寝タイムに入ってしまったようです。



 黒ドラちゃんとモッチはそうっとマグノラさんのそばを離れると、急いでカモミラ王太子妃とドーテさんの後を追いました。



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― 新着の感想 ―
[一言] マグノラさんのアドバイスでひと安心かな? ブランなら変なことにはならない・・・はず(^-^;)
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