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【完結】地味でも大冒険!『古の森の黒ドラちゃん』  作者: 古森 遊
3章☆おとなになるって、かゆいんだ!の巻
26/297

4-マグノラさん

「あ、あの、あたし古の森の黒です。古竜です。すみません勝手に入り込んで……」

黒ドラちゃんが謝ると、また赤茶の竜は「いいよ、いいよ」とガラガラ声で言って、今度は黒ドラちゃんの頭をなでなでしてくれました。


この赤茶の大きな竜がマグノラさんでした。


マグノラさんは、白い花の森で毎日のんびりお昼寝して過ごしているんですって。

黒ドラちゃんもドンちゃんも、最初はガラガラの大きな声に驚きました。

でも、話しているうちにマグノラさんはそんなに怖い竜じゃないなあと思い始めていました。


マグノラさんに、夕べからのことを話してみました。

「そうすると、黒チビちゃんの背中のうろこが取れそうだっていうんで、ここに来たのかい?」


黒チビちゃん、そんな風に呼ばれたのは初めてですが、確かにマグノラさんと比べれば黒ドラちゃんはおチビさんです。


「そう、そうなの。夜中にものすごくかゆくなって眠れなくて、朝になってドンちゃんに見てもらったら、うろこが取れそうになってたの」

「ふーん。見せてごらん?」

黒ドラちゃんはドキドキしながらマグノラさんに背中を向けました。

マグノラさんの大きな手でグイッと引っ張られたら、グラグラのうろこなんて簡単にブチッと取れちゃいそうな気がしたからです。

でも、マグノラさんは背中のうろこをよく見ただけで、引っ張ったりはしませんでした。

「森を出たのは今日が初めてかい?」

「ううん。ブランと一緒に北の山に行ったし、この間は王子様に会いにお城にも行ったよ!」

黒ドラちゃんが答えると、マグノラさんはうんうんとうなずきました。

「なるほど、ははは、ブラン坊やがね。それならうろこが取れそうになったのはおかしなことじゃないよ」

「そうなの?」

「そのうろこはね、初鱗っていうんだ」


「はつうろこ?」


黒ドラちゃんとドンちゃんはコテンと首をかしげました。

「その部分は竜の身体の弱点なんだ。だから生まれてからしばらくの間は一番硬いうろこが守ってる」

「へえー」

「自分じゃ見えないし、手も届かない。羽でも守れないだろう?」

そう言われればそうです、夜中にかゆくても手が届かなかったし。

「竜が自分の縄張りを出られるくらいまで成長すると、もう大丈夫ってことなんで、自然と剥がれて落ちるんだよ」

「へえ~!」

ドンちゃんは黒ドラちゃんの背中でグラグラのうろこの匂いをくんくん嗅いでいます。

ついでに前足で触ったりして硬さを確かめているようです。

「ほんとだ!確かにすっごく硬いね!」

背中でドンちゃんが言いました。


「自然と剥がれるって、何日くらいかかるの?」

黒ドラちゃんが尋ねると、マグノラさんはちょっと考えてから「竜によるけど3~4日もあれば取れちゃうさ」と教えてくれました。

黒ドラちゃんはホッとしました。

もし、何日も何日もグラグラだったらどうしよう?

全身のうろこがグラグラになったらどうしよう?

そう考えてとても不安になっていたからです。

「じゃあ、ちょっと経てば、このうろこは取れるんだ?」

背中のドンちゃんが言います。

「ああ、そうだよ。それにしても黒チビちゃんはまだ生まれて数年だろ?ずいぶん早い初鱗だね」

「そうなの?」

黒ドラちゃんが聞き返します。

「普通は初鱗を迎えるまでに十年以上はかかるよ、たいていの竜はね」

「そうなんだあ。どうしてあたしのうろこは取れるのが早くなっちゃったのかな?」

黒ドラちゃんがそう言うと、マグノラさんが可笑しそうに「ブラン坊やが待てなかったんだろう?」って言いました。

「ブランが?どうしてブランが待てないの?」

「その初鱗はね、……まあ、良いや。あたしがあんまり喋っちまうと、坊やがかわいそうだからね」

「?」

黒ドラちゃんもドンちゃんもわからなくて首をかしげています。

それにしても、黒ドラちゃんから見るとブランは一人前の竜に見えたのに、マグノラさんは「坊や」なんて呼んでいます。


いったいマグノラさんて何年生きているんでしょう。





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