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【完結】地味でも大冒険!『古の森の黒ドラちゃん』  作者: 古森 遊
12章☆伝えるのって大切なんだ!の巻
246/297

1―何だか変なの

しばらく遊びに行かなかったので、

古の森のみんなに何か変化はあったでしょうか?

厳しい暑さのこちらの世界から

森に囲まれた湖のそばの涼しげな広場を

ちょっと覗いてみませんか?

その日、いつもはにぎやかな古の森は、静まり返っていました。

小鳥のさえずりも聞こえてきません。


でも、誰かの声が聞こえてきます。


森の奥深く、エメラルドグリーンの湖のほとりの、大きな大きな木の前の広場で話しているようです。

いったい誰が話しているんでしょう?

ちょっと見に行ってみましょうか。





*****





黒ドラちゃんは、大きな木に空いた洞の前の切り株の前に座っていました。

まわりには森の可愛い系のみんなが、ひしっとくっついて並んでいます。

ドンちゃんは黒ドラちゃんが抱っこしていて、モッチは頭の上に乗っています。


そして、黒ドラちゃんたちが一心に見つめる先、切り株の上に立ってみんなの前でお話をしているのは、蜘蛛妖精の吟遊詩人アラクネさんです。




「……そうして、今でも山奥の古井戸のそばを通ると、どこからともなく不気味な声で『置いてけ~!置いてけ~!』と、」


「ぶ「キャ「ギャーーーーーーーッ!」」」


聞いていたみんなが一斉に悲鳴を上げました。

ひときわ大きい黒ドラちゃんの悲鳴に、思わずアラクネさんが切り株の上で耳を押さえてよろめきます。


「あららら~、まさか皆様がこんなに怖がるとは思いませんでした。他所では良く知られている古典的な『涼み話』なのですが……」

「こ、怖いよ~!アラクネさんの涼み話、怖すぎる!」

黒ドラちゃんが涙目で訴えると、森のみんなもその通り!とばかりにしっぽをパタパタさせながらうなずきます。

モッチなんて、よほど怖かったらしく一瞬で湖の向こうまで飛んで行ってしまって、そこからよたよたしながら戻ってきています。

ドンちゃんは……

あれ、どうしたんでしょう?ドンちゃんの様子が変ですよ。

目をつむってぎゅっと縮こまって、ちょっと苦しそうです。


「あ~怖かったねぇ、あれ、ドンちゃん、どうしたの?」

「く、黒ドラちゃん、あたし、なんだか気持ち悪い。よくわかんないけど、何だか変……」

「大変!どうしよう!ど、ど、どうしよう!?怖すぎたの!?お話が怖すぎたのっ!?」

突然のことで、黒ドラちゃんは慌てふためきました。

アラクネさんも、自分のお話のせいなのか?と切り株の上でおろおろしています。


あせった黒ドラちゃんは、ドンちゃんを抱えたまま立ち上がりました。

でも、どうすれば良いのかわからずに、その場でグルグルと回るだけです。


「ま、待って、黒ドラちゃん、お願い、回らないで。ますます気持ち悪……」

腕の中のドンちゃんが、いっそうぐったりしています。


「ど、ど、ど、ど、どうしよ~~~~~っ!?」

立ち止まった黒ドラちゃんは、どうしたら良いのかわからなくて泣きそうになりました。


と、そこへ戻ってきたモッチが、落ち着いて!というように羽音を立てます。

「ぶぶ、ぶいいん?」


「そ、そうか、そうだね、ドンちゃんのお母さんのところへ行ってみよう!」

「ぶぶぶいん」

「うん、そっとだね、そっと連れていくね!」

「わ、わたくしも参ります!わたくしの涼み話のせいですもの」


そおっと歩き出した黒ドラちゃんの後ろを、心配そうなアラクネさんが続きます。

モッチは一足早く飛んで行って、ドンちゃんのお母さんにお話しをしておいてくれるみたいです。



黒ドラちゃんたちがドンちゃんのお母さんの巣穴に近づくと、モッチから事情を聴いたお母さんがこちらに向かって来るところでした。


「ドンちゃんのお母さん!ドンちゃんが大変なの!」

黒ドラちゃんが泣きそうな声で伝えると、ドンちゃんのお母さんが「大丈夫、落ち着いてね。大丈夫よ」と言って、すぐにそばに来てくれました。

黒ドラちゃんがしゃがみ込むと、腕の中のドンちゃんの様子をそっと見てくれます。


ドンちゃんの匂いをふんふんとかいだ後、おでこに前足を当ててそれからお鼻をちょっと触って、優しく背中をひと撫でしました。

それから何かわかったように、にっこりと微笑みました。


「ド、ドンちゃんは大丈夫?病気なのかあ?」

黒ドラちゃんがたずねると、お母さんは「いいえ」と首を振りました。


「では、やはりわたくしの涼み話のせいで、気分が悪くなられたのでしょうか……」

アラクネさんが申し訳なさそうにつぶやくと、またお母さんは「いえ、いえ、それも違いますよ」と優しく答えました。


「ぶぶいん?」

じゃあ、いったいどうしたの?とモッチがたずねます。


ドンちゃんのお母さんはもう一度優しくドンちゃんの背中を撫でると、みんなのことをぐるっと見回しました。

黒ドラちゃんがゴクッとつばを飲み込みます。

アラクネさんは不安なあまり、いつの間にかおしりから糸を出してグルグルと丸めていました。

モッチも、体に巻いた虹色リボンを丸めたり延ばしたり丸めたり延ばしたり、落ち着きません。


ドンちゃんのお母さんはにっこり微笑むと、ささやくように優しくドンちゃんに言いました。

「あのね、あなたはお母さんになる準備をしているのよ、ドンちゃん」


「へ?」

と黒ドラちゃんが言いました。


「あらまぁ!」

とアラクネさんが言いました。


「ぶいん?」

モッチが羽音を鳴らしました。


「お母さんになる準備?」

ドンちゃんが不思議そうにたずねます。


ドンちゃんのお母さんは、優しくドンちゃんの背中やお耳を撫でてくれます。

「ええ、そうよ、ドンちゃん。そうねえ、例えばね、最近こんなことなかった?」


そう言ってドンちゃんのお母さんは話し出しました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 幽霊の話かと思ったら、なんと!おめでたい話だったんですね\(^o^)/ 食いしん坊さんの喜ぶ姿が目に浮かぶ(^^) そして!……続きの話も置いてけ~!置いてけ~!(^-^;)
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