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【完結】地味でも大冒険!『古の森の黒ドラちゃん』  作者: 古森 遊
○古の森から感謝を込めて○
243/297

おまけの「ありがとう」

反抗期真っ盛りを経て、

例の彼はただいま青春を謳歌中

さて、この時期を彼はどんな風に過ごしているのやら……

はあ、今日はクリスマスだ。


ええ、そうですよ、見ての通り一人ですが、何か?


本当なら、今頃彼女と二人で『メゾン・ジレジレー』のお洒落なクリスマスケーキを食べているはずだった。

彼女っていうのは、大学に入ってから出来た初彼女のことだ。

可愛いかって?もちろんだ。

大きな目と大きな口で、笑うとひまわりみたいに周りがパッと明るくなる。

素敵な子なのさ、菜花ちゃん。

あ、なのかって言うんだけど、普段はなっちゃんて呼んでる、四月生まれだよ。

え、聞いてないって?

まあ、とにかく四月生まれのなっちゃんは、可愛いんだ。


それに勉強もできる。

俺が単位を落としそうになった科目も、彼女のフォローで何とか取れた。


春に出会って、なんとなく可愛いな、この子良いな、って思っていたら、向こうから告白された。

大事なことなので二回言うけど、向こうから告白されたんだ。


舞い上がりましたよ、そりゃ。


俺はアパート暮らしで、彼女は地元生活者。

情けないけど、デートの車出しだって彼女がしてくれた。

だけど、ちっとも恩着せがましくなくて「気にしないで良いんだよ。一緒にいられれば楽しいし」なんて言ってくれる。

くぅ~!言ってくれるんだぜ!?


はあ……

じゃあ、なんでクリスマスに一人なんだ?ってか。


信じてもらえるかはわからないけど、聞いてくれるか?

まあ、たいして時間はかからないからさ、ちょっとつきあってよ。


クリスマスはどうするか?

これはカップルにおける永遠のテーマだよな。

でさ、俺としては(電車で)横浜まで出かけて、夜景でも見ながらちょこっとプレゼントなんて渡して、話題のお店で食事して、と淡い計画を立てていた。

でも、彼女があまり無理しなくていいよ、プレゼントとかお店の予約とか、大変でしょ?って。

俺がアルバイトでぎりぎりやりくりしているのを知ってるからさ「部屋で二人でのんびり過ごそう」って言うんだ。

だけど、何も無しじゃあまりにも彼女に甘えっぱなしな気がして、何か欲しいものない?ってしつこく聞いたら、

『メゾン・ジレジレー』のクリスマスケーキ食べたいな、って。

そっこー検索したね。

俺は知らなかったけど、けっこう有名なケーキ屋さんで、クリスマスケーキもすごく綺麗だった。

飴細工で何か賞を取ったとかで、ちょっと他のケーキ屋では見ないような複雑な飾り方がされてる。


二人分なら三千円も出せば買えたけど、ちょっと奮発して大きめのを予約した。

残ったら、翌日も二人でクリスマスパーティーすれば良いんだし。

はは、ザ・リア充だよ、我ながら。


そんなことしていたら、ふと思い出しちゃったんだよ。

去年の秋に、迷い込んだ先で出会った『非リア竜』のことを。




俺は部屋で一人、引き取ってきた『メゾン・ジレジレー』のクリスマスケーキを前に、ラウザーとのことを思い出していた。


あいつと二人で眺めた星空を――


ごめんよ、ラウザー。


俺だけリア充になっちまって。


あの時、こちらに戻れた時。

髪についていた砂粒を集めて、俺は小さな瓶に詰めて取っておいた。


ケーキを前に、久しぶりにその瓶を取り出して眺めてみる。

軽く振ると、砂は瓶の中でサラサラと揺れた。


ラウザー、お前が寂しい思いをしていなければ良いなあ。

誰かがそばにいて、にぎやかに過ごせてれば良いなあ。


そんなことを考えていたら、手の中の瓶が熱くなったような気がした。

季節じゃないのに、藤の花の甘い匂いが漂う。

そして、目の前のお洒落なケーキが一瞬ふわっと光って消えた。


大事なことなので二回言うけど、ふわっと光って消えた。


消えちゃったーーーーーーーーーっ!!


しばらくは言葉も出ないし、動けなかった。


が、これはアレだ!

多分、ラウザーのいる世界に行ったんだ、『メゾン・ジレジレー』のクリスマスケーキが。

俺のリア充ケーキが!!

返せ!俺のケーキ!あのヤロー!くっそ~~~~!


ラウザーの元に、いきなりあのケーキが現れた様子を想像して、俺は泣いたらいいのか笑ったらいいのかわからなくなった。


で、結局こう言うしかなかったんだ。




「メリークリスマス、ラウザー」





で、それから彼女に電話したよ、予約がうまく出来ていなくてケーキが買えなかったと。

ごめん、本当にごめん!と謝る俺に「……ううん。良いよ、仕方ないよね、りょークンだし」というちょっと呆れたような彼女の声。


りょークンだし?俺だと何だと思われているんだろう。

ケーキの予約も満足にできない男?

明るい彼女の、寂しそうなちょっとがっかり感が隠し切れないような声に、めちゃくちゃ胸が苦しくなったが、まさかケーキが消えたなんて言えないだろ!?

彼女との気まずい会話が終了して、1時間経過。←今、ココ。


彼女と初めて迎えるはずだったクリスマス。

きっと君は来な~い……


ため息をついて、砂の瓶を片付けようとした時に部屋のチャイムが「ピンポーン」と鳴らされた。


「うち、新聞はもう取ってますから」

「もう、りょークン馬鹿なこと言ってないで、開けて!寒いんだから」

彼女のちょっとむくれたような声に夢中でカギを開ける。


コンビニの袋を下げた愛しのなっちゃんが、鼻の頭を赤くして立っていた。


「ご、ごめん、俺さ……」

「入れて入れてー!」

「あ、ごめん、寒かったろ、ごめんな」

「やだ、もう謝ってないで。ジャジャーン、見てみて~!」


彼女が部屋にあがってきてテーブルの上にコンビニの袋を乗せる。

そこから、こじんまりとしたコンビニのクリスマスバージョンケーキが二つ出てきた。


「今日までしかお店に出てないと思ったから、買っちゃった♪」


飲み物もあるよー!なんて、笑顔で俺に勧めてくれる。



神様って、いるんだ。


今、実感する。




俺は、彼女の買ってきてくれたコンビニケーキを受け取りながら、さっきまで罵っていたラウザーに心の中で詫びた。

ごめんな、ラウザー、もう一度メリークリスマス!


その時だった、俺の耳元に「メリークスマー!」っていうおかしな声が聞こえたんだ。

まるで何人かで集まってパーティーでもしているような。


「あれ、今、何か聞こえなかった?」

なっちゃんが小首をかしげてる。


「なんだろ、隣の部屋かな?」

とぼけて答えながら、俺は確信していた。


あれはラウザーたちの声だ。

何だよ、お前もリア竜してるんじゃんか。


「メリークスマー!ラウザー」

「なにそれ、何語?」

「異世界語!」

俺の答えになっちゃんが笑う。


ありがとう、目の前の幸せを大切にするよ。


ポケットの中の砂の瓶が、ほんのりと暖かく感じられた。






おまけのお話までお付き合いいただき、ありがとうございました。

メリークスマー!(*´ω`*)

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― 新着の感想 ―
[一言] やっと追いつきました! 古の森ではサンタローさんがケーキを作っていたのですね。聞き慣れない言葉が微妙に違っているところが面白かったです。おいしいケーキを囲んで楽しい時間を過ごしている様子がと…
[一言] 復活! まずはサンタロー人形を強奪してごめんなさいm(_ _)m 我ながら卑しいですね(^-^;) そして久しぶりのロータ登場! リア充うらやましす(ToT)
[良い点] 間に合った〜 クリスマス当日内にメリークスマーまでたどり着きました。 楽しかったです♪ ダイヤモンドダスト輝竜が早く報われますように。 安定の日本語力、脱帽です。 力ないと柔らかく書けな…
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