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モッチと金色の宝物☆5

さて、ようやくモッチの気持ちが聞かせてもらえるようです。

ほら、羽音が聞こえてきませんか?――

一方、モッチは自分が会議の議題になっていることも知らずに、まだ黄色い花の上でした。


胸のバッチも何だか今までほど輝いてないような気がします。

モッチの気持ちはざわざわとしていて、周りの花々の美しさも楽しめませんでした。


「ぶぃん……」


何度目かわからないため息が出てきちゃいます。

こんな時にキーちゃんがいてくれたらなあ、と思います。

きっとキーちゃんなら、アズール王子に対するモッチの気持ちを聞いてくれて、その上でファンとしての心得を説いてくれたでしょう。

モッチだけではこのもやもやざわざわした気持ちをきちんと落ち着かせられる自信がありません。

まるで、自分の気持ちがどこかで迷子になっちゃったみたいな気分です。


黄色いお花に寝ころんで、晴れた空を見上げます。


いつもなら楽しい気持ちで飛べるはずなのに、どうしてこんなに体が重く感じるのでしょう。

羽もバッチも重くなってる気がします。


広間をいきなり飛び出したモッチのことを、みんなはどう思ったでしょう。


きっとアズール王子だって、もうモッチのことをファンだとは認めてくれないかも……


青い空がにじんで見えます。




黄色いお花の上でぼんやりしていると、優しい風が吹いてきました。

何かふんわりとしたものが辺りを漂っています。


モッチは花の上で起き上がると、辺りを見回しました。


辺りにたんぽぽの綿毛がたくさん飛んでいます。


モッチが寝ころんでいたのは、黄色いたんぽぽの花壇でした。

スズロ王子は小さいころにたんぽぽの綿毛を飛ばすのが大好きで、お城の庭にわざわざたんぽぽの花壇を作らせたのです。



そういえば、王子はいつもたんぽぽの妖精を肩に乗せていました。



「ぷぷん」

思わずたんぽぽの妖精の名前をつぶやきます。


「なあに?モッチ」


「ぶんっ!?」

すぐそばから返事が返ってきたので、モッチはとてもびっくりして花の上で飛び上がってしまいました。


「ぶぶいん?」

「ふふ、僕はさっきからずっとここににいたよ。声がかけづらくて黙っていただけさ」

「ぶ、ぶいん」


もやもやうじうじと悩んでいた様子を見られていたんだと思って、モッチはちょっと恥ずかしくなりましたが、ポポンはそんなこと気にしていないようです。

ほわほわした綿毛のような黄色い髪をなびかせながら、モッチの隣に座ります。


「今日も良い天気だね」

「ぶ、ぶいん」


「今日は会合なのでしょう?もう終わったの?」

「……ぶ、ぶいん」


「途中で出てきちゃったの?」

「ぶん」


「でも、モッチにはからくりで大役を務めてもらうんだって、スズロ王子から聞いていたけどなあ?」

「ぶん?」


「その話は聞いていない?」

「ぶん」


「そっか、本当に途中で飛び出してきちゃったんだね」

「……ぶん」



優しい風が辺りにたんぽぽの綿毛を漂わせています。


この優しい風の中ならなんだか素直になって、胸のもやもやのことも話せそうな気がしてきます。


モッチは、ポポンに広間での話を聞いてもらうことにしました。


「――ぶん、ぶぶいん、ぶいん、ぶん」

「そうなんだ、アズール王子とグラシーナさんかあ……」

「ぶん」


静かに聞いていたポポンが、モッチに向き直りました。


「ねえ」

「ぶん?」

「モッチはアズール王子にどうあって欲しい?」


「ぶ……ん?」


「モッチのことだけ見ていてくれれば良い?他の人には優しくしないでほしい?」

「ぶ、ぶぶいん!」

そんなことありません。

だって、モッチはアズール王子の優しく穏やかなところが大好きなんですから。


「そうなの。でも、アズール王子がグラシーナさんにゼロの金バッチを上げるところを見たら、もやもやしちゃったんだね?」

「ぶぶ、ぶいん」

「そっか、自分でも自分の気持ちがわからないんだね」

「ぶん」



ポポンが髪を優しく揺らしながら聞いてきます。


「じゃあさ、モッチは好きな人が笑顔でいるのと悲しい顔しているのどっちが好き?」

「ぶ、ぶいん!」

「そう、僕も同じだ。僕もスズロ王子の笑顔の方が好きだよ」

「ぶん」


「モッチが飛び出してきたとき、アズール王子は笑顔だった?黒ドラちゃんやドンちゃんや、その場にいたみんなは?」

「……ぶ、ん」


モッチの耳に、広間を飛び出してきた時のグラシーナさんの悲しげな声がよみがえりました。


「……」


「ねえ、モッチ、モッチがどうしてもやもやしているか、僕、わかるような気がするな」

「ぶん?」


「うん。きっとね、モッチはアズール王子がグラシーナさんに優しくしたからもやもやしたんじゃないんだよ」

「ぶぶ?」


「うん。だって、モッチはアズール王子に笑顔でいてほしいんだよね?」

「ぶん」


「モッチは、大好きなアズール王子の幸せそうな笑顔を喜べない自分にもやもやしたんじゃないかな?」


「!」

モッチの胸がドキンとしました。


ポポンは黙って髪を揺らしています。


「……ぶん……ぶん!」

モッチは、大きくうなずきました。


迷子になっていた気持ちが、無事に帰ってきたみたいです。

ポポンの言葉が、モッチのもやもやをスッと晴らしていってくれました。


何度もうなずくモッチの胸で、金バッチが陽光を反射してきらりと光りました。


ポポンが髪をほわほわさせながら続けます。

「ねえ、モッチ。クマン魔蜂ってね、バルデーシュでは『愛と勇気と、不可能も可能にするほどの情熱の象徴』って言われてるんだよ」

「ぶいん?」


「ああ、本当さ。そしてモッチは『どのクマン魔蜂よりもクマン魔蜂らしいクマン魔蜂だ!』って僕は思うよ」

「ぶぶ、ぶいん?」


「とても深い愛情と強い勇気と、不可能を可能にする情熱の持ち主さ、モッチは」

「ぶ、ぶふふ~ん」

すごく嬉しくて恥ずかしいような気持ちになって、モッチは辺りを飛び交うたんぽぽの綿毛を見ているふりで視線をさ迷わせました。


すると、たんぽぽの綿毛の中を、何かキラリと光るものが飛ん来るのが見えます。


「ーーン」


「ぶいん?」


「ブブイ~~~ン!」


ホペニです!

銀色の美しい羽を輝かせながら、ホペニが飛んできました。


「ぶぶいん!?」

モッチはびっくりしました。

どうしてホペニがここにいるんでしょう?

カモミラ王女はホペニのことなんて何も言っていませんでした。


「ブブイン、ブン」

ホペニはちょっと疲れているようでした。

何しろ、モッチはあちらこちらメチャクチャに飛び回り、庭まで出てくる間にもお城中をぐるぐるしました。

その跡をたどってきたホペニも、同じようにあちこち飛び回り、ぐるぐるしてきたのです。


ホペニはモッチとポポンの座っていたたんぽぽの花の上に来ると、すぐにモッチに呼びかけました。

「ブ、ブン♪」

順序は違っちゃったけど、モッチのことをびっくりさせることができて、ちょっと嬉しそうです。

ホペニがサプライズゲストだったのだと聞いて、モッチは嬉しくてホペニの周りをぐるぐる飛び回りました。

ホペニが、モッチにからくりの話をします。


「ぶぶん?!」


「そうなんだよ、モッチには内緒だったかもしれないけど、ホペニとモッチはからくりで大役を務めるんだよ」

ポポンも教えてくれました。


「ぶいん?」

「うん。スズロ王子はもちろんだけど、カモミラ王女がとても楽しみにしていたよ」


ホペニが花の上でふわんと軽く飛び上がりました。

「ブブブイン!」

モッチに一緒に来るように誘います。


「うん、そうだね。ねえモッチ、ホペニと一緒に戻ったら?もうアズール王子のどんな笑顔も大好きだって、思えるでしょ?」


グラシーナさんを見つめるアズール王子の笑顔を思い出しながら、モッチは胸のバッチを見つめました。

金のバッチは以前と同じように輝いて見えます。

羽の重みも感じません。


「ぶん♪」


モッチの気持ちは、モッチの中にきちんと落ち着いてくれています。

そうすると、今すぐにみんなのところに帰りたくなりました。


「ぶいん!」

「ブイ~ン!」


ホペニと一緒に元気よくお城の中に戻っていくモッチを、ポポンが優しく揺れながら見送っていました。





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