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【完結】地味でも大冒険!『古の森の黒ドラちゃん』  作者: 古森 遊
8章☆大好きなのって隠してるんだ!?の巻
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28-また来るよ!

網元のおじいちゃんの家でご馳走になり、黒ドラちゃん達はお腹いっぱいになりました。


すっかり満足そうなラウザーに、リュングがささやきます。

「陽竜様、まだラキ様にお土産買ってませんよ?」

聞いた途端に、ピキーン!とラウザーの尻尾が伸びました。


「ん?ラキ様と言うのはラウザーの彼女のことか?」

おじいちゃんはしっかり聞いていて、ラウザーに聞いてきます。

ラウザーは黒ドラちゃんやみんなのことをチラチラ見ながら、「えっと、うん、そんな感じ」小さな声でと答えました。

黒ドラちゃんが思わず行きと同じように突っ込もうとすると、後ろからくいっと尻尾が引っ張られました。

「?」

不思議に思って振り返るとドンちゃんが首を振っています。

横でリュングも「見逃してあげましょう今回は」とか、したり顔で言っています。

黒ドラちゃんはラウザーにつっこみたくてうずうずしました。

でも、ラウザーのおかげで、尻尾が出ちゃうほど美味しい魚料理を食べられたから、我慢です。


おじいちゃんは、ちょっと考えてからラウザーに言いました。

「どんな女子かわからんけど、真珠はどうだ?」

「しんじゅ?」

黒ドラちゃんが初めて聞く名前です。


「そうそう!真珠!俺も今そう言おうと思ってたんだ!」

ラウザーがパッと顔を輝かせて嬉しそうに声をあげました。

尻尾もブンブン勢いよく回っています。

良くわからないけど、ラキ様にぴったりのお土産らしです。


「ねえ、ドンちゃん、しんじゅって知ってる?」

黒ドラちゃんが小声で聞くと、ドンちゃんは首を振りました。

ドンちゃんがそのまま食いしん坊さんを見上げると、食いしん坊さんも首を振ります。

食いしん坊さんがリュングを見ると、リュングは自信なさげに言いました。


「確か、暖かい海で採れる物だとか……。人魚の涙とか海の宝箱から取れるとか、そんな話を聞いたことはありますが、実物は見たこと無いですね」

どうやらこの中で真珠を知っているのはラウザーだけのようです。


「真珠は隣の蔵で保管しとるよ。見に行くか?」

おじいちゃんがラウザーにたずねると、ラウザーは尻尾をブンブン振ってうなずいています。

そんなにステキな物なんでしょうか?


おじいちゃんに連れられて、みんなは隣の蔵に入って行きました。


蔵の中は二階になっていて、真珠は上の階に置いてありました。

鍵のかかった箱の中から、おじいちゃんが平たい台を一枚出します。

覗き込んで見ると、白くて丸い物が大きさごとにきれいに並べられていました。


「これがしんじゅ?」


黒ドラちゃんがおじいちゃんにたずねると「そうじゃよ。明るいところで良く見てごらん」と一つ渡してくれます。


黒ドラちゃんはドンちゃん達と一緒に、窓から差し込む光で真珠を良く見てみました。

「わあ~!不思議な輝き~!」

黒ドラちゃんもドンちゃんも一目で真珠が気に入りました。

魔石のように透き通っていたり光を発してはいないけれど、柔らかくて優しい白さと輝きです。

見つめていると優しい気持ちになれる、そんな不思議な力を感じました。


「ねえ、おじいちゃん、これって人魚の涙なの?」

黒ドラちゃんが尋ねると、おじいちゃんが笑いながら首を振りました。

「この美しさからそんな言い伝えも出来たようじゃが、これは貝の中からたまーに見つかるもんなんじゃ」

「貝の中にあるの!?貝が飲み込んじゃったのかな?」

ますます不思議な気がして、黒ドラちゃんは手の中で真珠を転がしました。

「詳しいことはわからんがの。こんな風にきれいな物からもっと形の不揃いなものまで、色々あるな」

「へえ~!」

本当に不思議です。


すると、リュングが心配そうにラウザーに小さな声で話しかけているのが聞こえました。

「ちょっとちょっと陽竜様、真珠って丸い物はすごく高価だと聞いたんですけど、お代はどうするのですか」

またまたおじいちゃんがしっかり聞いていて、すぐに答えてくれました。


「ラウザーにはな、欲しい時にいつでもやると言ってあったんじゃ。まあ、今までは一度も欲しいとは言わなかったがな」

「ええ!そんな……これってかなりのお値段だと――」

リュングが驚いて聞き返すと、おじいちゃんは真面目な顔で言いました。

「今までラウザーには何度も漁師仲間が助けられてきた。そのたびに礼をしようとしたが、一度も受け取らん」

ラウザーはそっぽを向いてとぼけています。


「確かに真珠は高価なものじゃよ。だが、ラウザーからお代を貰おうとは思わんさ。この港町じゃ、誰もな」


おじいちゃんの言葉を聞いて、黒ドラちゃん達は台の中の真珠を眺めました。

魔石や宝石に劣らぬほどの価値があるはずの物です。

それにも勝るほどの感謝を、この港町の漁師さんたちはラウザーに感じているのでしょう。


「俺、これにする!」

台の中でも大きめな1つをラウザーが手に取りました。

「そうか、それならこれと揃えて耳飾りにすれば良い」

おじいちゃんはあっさりと、ラウザーが手に取った物とほぼ同じ大きさの一つを選んで箱に入れてくれました。

「おお!ありがとなあ!」

ラウザーが嬉しそうに尻尾を振りました。


「あ、あとこれとこれとこれも!」

続けていくつかの大きさの違う真珠を選んでおじいちゃんに見せています。

「ええー!陽竜様、いくらなんでもそんな!」

リュングがあわててラウザーの尻尾を引っ張って止めようとしましたが、おじいちゃんはあっさりうなずいて箱に入れてくれました。

「良いんじゃよ。贈らせてくれ」

「で、でも――」

リュングが申し訳なさそうに言うと、おじいちゃんはラウザーを見ながら答えました。

「次はいつ来られるか、わからんじゃろ?」

「う、うん」

ラウザーが尻尾をニギニギしながら答えます。


「その時、わしがまだいるかわからんしな」

おじいちゃんが笑いながら言うと、とたんにラウザーがおじいちゃんに抱きつきました。


「だめだよ!もっともっと長生きしろよ!俺、必ずまたマクロご馳走になりにくるから!絶対来るから!」

ラウザーの声が震えています。

おじいちゃんが優しくトントンと叩きました。


「わしはもう十分長生きしとるよ、今でもな」


黒ドラちゃん達にもようやくわかりました。

なんであんなにラウザーが港町で時間を作ることにこだわったていたのか。

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