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【完結】地味でも大冒険!『古の森の黒ドラちゃん』  作者: 古森 遊
7章☆離れていたって友だちなんだ!の巻
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モーデさんのひとりごと<聖J・リッチマンと三匹のニクマーン>

――曇りなき眼と広き心を持つ不死身の大富豪

  ジェームズ・リッチマン様に捧ぐ――


もうすぐ日付が変わろうという夜中に、モーデさんはホッと溜息をつくと雪景色の広がる窓の外を眺めました。


今朝早くに、黒ドラちゃんとモッチがバルデーシュへ帰り、モーデさんもその専任を解かれたのです。


黒ドラちゃん達がいる時は、たくさんの人であふれ歓声が響いていた広場も、今は薄らと雪をかぶって静かです。


竜のお世話をするなんて、内心ドキドキでしたが、黒ドラちゃんはとても素直で可愛らしくて、あっという間にお別れの日が来てしまいました。

わずか数日でしたが、お別れする頃には淋しくて涙ぐんでしまう程度には、モーデさんも黒ドラちゃんのことを好きになっていたのです。






さあ、今夜はもう寝ようかとベッドに近づいた時に、本棚の本が少しだけ飛び出しているのが目に留まりました。

黒ドラちゃん達がいた間、雪でお出かけできなかった時に読んであげた絵本です。


<聖J・リッチマンと三匹のニクマーン>


表紙には冒険者風の男の人と、お饅頭のような丸っこい魔獣ニクマーンの絵が三匹描かれています。

モーデさんも子供の頃に双子のドーテさんと一緒に、乳母によく読んでもらいました。

ノーランドでは、おなじみの童話です。

それは昔々ずーっと昔の、本当にあった出来事を物語にしたものだ、と言われていました。






昔々、ノーランドではニクマーンという魔獣があちこちで見られました。

このニクマーンと言う魔獣は、お饅頭のような形をしていて、見た目通りの柔くて弱い生き物でした。

その辺の草むらや湖や沼の近くに行けば、ポムポムと弾むように移動する、その姿がよく見られたそうです。


童話では、J・リッチマンと言う一人の冒険者が、このニクマーンと力を合わせてノーランドやノルド、バルデーシュを旅して回るのです。

誰も見向きもしなかった弱い魔獣ニクマーンたちを保護し、仲間になり気持ちを通い合わせます。


特に、黄色・白・桃色の三匹のニクマーンは常にリッチマンと行動を共にしました。


リッチマンはあちこちでたくさんのニクマーン達を他の魔獣から守ってやったり、人間たちが保護するようにと働きかけました。

その甲斐あって、ニクマーンは人間からおもちゃ代わりにされるような扱いから、ペットや友達としての存在へ変わっていったのです。


やがて三匹のニクマーンを連れたリッチマンは、国をまたぎ冒険者としても名を上げて行きました。

ノーランド、ノルド、バルディーシュを経て、老齢になったリッチマンは、はるか東の先にある幻の王国にたどり着きます。


そこは豪放磊落な若き女王が納める国でした。

女王は、リッチマンと三匹のニクマーンのことをいたく気に入りました。

そして、ここへ根を下ろす気があるなら、とリッチマンにニクマーンと過ごすための領地を与えてくれたのです。

リッチマンは、その地をニクマーン達と暮らす終の棲家と決めました。


やがて、その領地には自然と色々な国から、ニクマーンが集まってきました。


しばらく、穏やかで楽しい時を過ごした後、いよいよリッチマンが天に召される、と言う時がやってきました。

静かに息を引き取ったリッチマンの亡骸を守るように、三匹のニクマーンが体の上に乗りました。

そして、まばゆい光を放ったと思った次の瞬間には、三匹のニクマーンは、それぞれ金・銀・銅のニクマーンへと進化をしていました。


さらに不思議なことに、三匹のニクマーンと一緒に光に包まれたリッチマンの亡骸は、その後も全く様子が変わらなかったと言われています。


安らかな寝顔のようなその姿に、いつしか彼は<聖J・リッチマン>と呼ばれるようになりました。

女王は、リッチマン亡き後もその奇跡に敬意を示し、ニクマーンの楽園とも言える領地を維持してくれました。


そこにたどり着くには、曇りなき眼で真実を見抜き、優しい心で魔獣ニクマーンに接することが出来ること。

それらをすべて満たした者だけが、楽園への扉を開くだろう、そう言い伝えられています。


そうして、今でも大陸の東のどこかには、金・銀・銅の三匹のニクマーンが、聖J・リッチマンの亡骸を守りながら暮らしている。


そう信じられているのです。





モーデさんはベッドの中でゆっくりと絵本を閉じました。

子どもの頃、この絵本を読んでもらうと必ず、東にある幻の王国を探しに出かけたくなったものです。

ドーテさんと二人、どうやってニクマーンの楽園へ行こうかと話しているうちに眠ってしまう、そう言うことが何度もありました。


大きくなってからは、その王国と言うのが伝説上の幻の国で、ニクマーンという魔獣も誰も見た者がいないとか、そういう現実を知るたびに、だんだんと夢は遠くなっていきました。


けれど、この間バルディーシュの古竜様、黒ドラちゃんがノーランドにやってきて、ノラクローバーの花を見事に集めた時から、なんとなく心が浮き立ってしまうのです。

もしかしたら、ニクマーンの楽園は本当にあるかもしれない、と。


竜が国を超えて飛んでくる世の中ですもの。

「黒ドラちゃんて呼んでね!」なんて言って、気安く花びらを撒いてくれたりするんですもの。

妖精が集まるはちみつ玉を作れるような、すごいクマン魔蜂さんだっているんだもの。

それに、黒ドラちゃんはこの絵本のお話に出てくる三匹のニクマーンをすごく気に入ってくれました。


ひょっとしたら、今もどこかでひっそりと金・銀・銅のニクマーンがいるのかも。

そして、聖J・リッチマンの亡骸を守っているかもしれない。

そうだったら、ステキなのに。


そうだったら、とってもステキ。


そう思いながら、モーデさんはだんだんと眠りの中に入って行きました。


夜空では、ガラス玉のように輝く星々が、静かに静かに瞬いていました。












モーデさんのひとりごとにお付き合いいただき、ありがとうございます。


モーデさんが読んでいた絵本の中に出てくる金・銀・銅のニクマーンが

次の黒ドラちゃんのお出かけの重要なアイテムになる予定です。



また、この絵本のお話を読んで、これってひょっとして……

と思われたクランブラーな皆様は、ぜひ活動報告をご覧ください。


「古の森に~」の次章更新は、12月からを予定しています。

それまではニクマーンたちのポムポムした移動風景を、のんびりお楽しみください。

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