16-がらん
黒ドラちゃんとモッチが、ノラクローバーを探し求めて、雪の中で右往左往していたころのことです。
ドンちゃんは真夜中にふと目を覚ましました。
なんだか数日のうちに色々なことがあったので、気持ちがザワザワしてよく眠れませんでした。
夜の古の森はとても静かです。
黒ドラちゃんが森に居ないと思うと、なんだか変な感じ。
すごく変な感じ。
そして、すごーく……
さびしい感じ。
黒ドラちゃんは無事にノーランドの王宮へ着いたのかなあ?
寒さで凍っちゃったりしてないかな?
途中で怖いおじさんに捕まったり……は、してないよね?竜だもの。
ドンちゃんは起き上がると、食いしん坊さんからもらったポシェットを斜めにかけました。
お母さんの方を見ると、やはりこのところの色々な出来事で疲れているのか、ぐっすり眠っています。
静かに静かに穴を抜け出しました。
黒ドラちゃんのいない森の夜は、怖い系の皆さんがいそいそと出てきている気配がします。
時々、闇の中にキラリと光る目が見えました。
でも、食いしん坊さんのポシェットをかけているドンちゃんには、誰も近づいてきません。
夜の森の中を、ドキドキしながら移動して、ドンちゃんは大きな大きな大きな木の洞に着きました。
中をのぞき込んで見ます。
もちろん、誰もいません。
ドンちゃんは洞の中に入りました。
敷き詰めた枯れ葉が、カサリと足の下で音をたてました。
黒ドラちゃんがいない洞は、がらんとしています。
くんくんすると、黒ドラちゃんの匂いがしました。
「黒ドラちゃん……」
ドンちゃんの声が洞の中に淋しく消えます。
ドンちゃんが淋しいと感じているのは、ここに黒ドラちゃんがいないからだけではありません。
昨日、食いしん坊さんが来てくれた時に、おばあ様のお話をしていきました。
そして、何かの拍子にお歳の話になりました。
「人間ほど短命ではありませんが、おばあ様はもう170歳を越えています。ノラウサギとしてもかなりの高齢です」
「もちろん、竜ほど長く生きられるとは思っていませんが、まだまだ長生きをしてほしいものです」と。
それを聞いて、ドンちゃんはびっくりしました。
“竜ほど長くは生きられない”!?
そんなこと、考えたこともありませんでした。
だって、黒ドラちゃんとドンちゃんはずっとずっと一緒だったんですから。
これからもずっとずっと一緒だと思っていました。
黒ドラちゃんは竜です。
何百年も生きます。
そしてドンちゃんはノラプチウサギです。
かなり長生きだというおばあ様でさえ二百年にも届きません。
だから、ちょっと考えればわかることなのに、全然思いつきませんでした。
ずっとずっと一緒に居られると思っていた黒ドラちゃんと、いつか離れる日が来る。
二度と会えない日が来る。
それを考えたら、ドンちゃんは淋しくて怖くて、今すぐ黒ドラちゃんに会いたくなってしまったのです。
会って、背中に登って「黒ドラちゃん!」て呼んで「なあに?ドンちゃん」って返事をしてもらうのです。
あの明るい若葉色の瞳を見ながら、おしゃべりしたくなったのです。
ドンちゃんの茶色の瞳から、大粒の涙がこぼれ落ちました。
黒ドラちゃんは無事にノーランドの王宮へ着いたかなあ?
寒さで凍っちゃったりしてないかな?
ノラクローバーを見つけるために、無理していないかなあ?
しばらく洞の中で時間を過ごしてから、ドンちゃんは大きな大きな大きな木を後にしました。
そして、お母さんを起こさないように静かに巣に戻りました。
温かい巣の中で、瞳を閉じて丸まりながらドンちゃんは考えます。
黒ドラちゃんとずっとずっとずっと一緒に居たいけど、ずっとずっとずっと一緒にはいられない。
大好きな大好きなお友だち。
あたしのために、黒ドラちゃんは寒い雪国でノラクローバーを探してくれている。
あたしには何がしてあげられるんだろう?
黒ドラちゃん……黒ドラちゃん……
お母さんの横で、ドンちゃんはいつの間にか寝息を立てていました。




