5-行くよ、ノーランドへ!
「でも、黒ドラちゃん、どうやってノーランドクローバーのお花を手に入れるの?」
ドンちゃんは黒ドラちゃんにたずねました。
「もちろん、ノーランドに摘みに行くんだよ!」
「ぶん、ぶい~ん!!」
黒ドラちゃんとモッチが同時に答えます。
湖の前に集まった皆が一斉に「えっ!!!!」と声をあげました。
「いや、ダメだよ!絶対にダメだ!」
ブランが真っ先に反対しました。
「黒ドラちゃん、ノーランドって、雪に覆われていてとても寒い国なのよ?」
カモミラ王女とドーテさんも反対します。
「南の砦なんかよりずっと遠いんだぜ!?馬車じゃ行けないし、日帰りは出来ないんだよ?黒ちゃん」
ラウザーも心配そうです。
ゲルードや普段着の兵隊さんたちも口々に「無理ですよ」とか「古竜様には早いです!」とか反対しています。
マグノラさんだけは、黙って黒ドラちゃんとモッチを見つめていました。
「黒ちゃん、黒ちゃんは本当ならまだ古の森の中だけで過ごしているはずだったんだよ?」
ブランがひと言ひと言言い聞かせるように、黒ドラちゃんに話しかけました。
「出かけることで、また急に成長したりしたら、黒ちゃんの体にどんな影響があるかわからないんだ。それにいくら友好国だと言っても、よその国だ。どんなことがあるかわからない。僕は絶対に反対だよ、黒ちゃん」
いつも一番に黒ドラちゃんの味方でいてくれるブランに猛反対されて、黒ドラちゃんはちょっとくじけそうになりました。
黒ドラちゃんが涙目でブランを見つめると、ブランがたじたじと後ずさりました。
「あ、あのね、黒ちゃん、ブランは怒ってるわけじゃないんだ。心配してるんだよ?」
「そうじゃぞ、銅鑼子よ。そこな白き竜の言う通りじゃ。おぬしはまだチビ竜であろう?」
ラウザーとラキ様も優しく言い聞かせようとします。
黒ドラちゃんのお口がへの字に曲がっていきます。
反対ばかりのまわりのみんなを見回して、マグノラさんと目が合いました。
「マグノラさん、マグノラさんも大反対?」
泣き出しそうな声で黒ドラちゃんが聞きます。
マグノラさんはちょっと考えてから、答えてくれました。
「まあ、無茶な話だと思うね」
それを聞いて黒ドラちゃんは、今度こそ本当に本当に泣き出しそうになりました。
マグノラさんは、そんな黒ドラちゃんを横目で見ながら、言葉をつづけました。
「でも、幸せアイテムっていうのは、手に入れるのが難しいからこそ、価値ある幸せアイテムなんだろう?」
みんなに向かってたずねます。
皆は驚いて目を見開きました。
「いやいやいや、それとこれとは話が――」
食いしん坊さんが止めに入ろうとしましたが、黒ドラちゃんは元気を取り戻して宣言しました。
「あたし、やっぱりノーランドに行く!!」
体中から魔力があふれています。
若葉色の瞳もキラキラと輝いています。
もう、誰にも止められそうにありません。
ブランがため息と一緒に、ダイヤモンドダストを辺りに撒き散らしました。
「だけど、黒チビちゃん、ブランやあたしはバルデーシュを出ることは出来ないんだよ」
マグノラさんが優しく言います。
「黒チビちゃんに何か困ったことがあっても、助けてやれないんだ」
「う、うん。でも、あたし行く!!」
黒ドラちゃんはきっぱりと言いました。
それを見ていたラウザーが「あのさー、オレ一緒に行こうか?」と声をかけました。
とたんにみんなが反対します。
「お前が一緒だと思うと不安が倍増するからやめてくれ」
ブランがまたダイヤモンドダストを吐き出します。
「陽竜殿は大人しく南の砦でお待ちください」
怖いくらいの笑顔でゲルードが優しく言います。
「な、なんだよ、俺って信用無いんだな」
ラウザーがガックリと肩を落として言いました。
いつもはブンブン振っている尻尾も元気がありません。
「お前は我のそばに居れば良いのじゃ」
ラキ様が小さく稲光を飛ばしてラウザーに言いました。
「ピャッ!」と叫びながらも、ラウザーはちょっと嬉しそうです。
黒ドラちゃんはドンちゃんとお母さんに向き直りました。
「あのね、あたし必ずノラクローバーの花を持ち帰ってくるから、待っててね!」
「黒ドラちゃん……」
ドンちゃんが目をウルウルさせながら黒ドラちゃんのことを見つめました。
お母さんは心配そうな、でもちょっぴり期待しているような複雑そうな顔をしています。
「黒チビちゃん、ドンチビちゃんに花嫁の冠を作れるのはお前さんだけだ。かといって無理をするんじゃないよ」
マグノラさんが静かに言い聞かせます。
「もし、お前さんに何かあれば、何よりドンチビちゃんを悲しませることになるんだからね?」
「うん!あたし、必ず無事にノラクローバーを摘んで帰ってくるよ!!」
黒ドラちゃんは、心配そうなみんなの顔を見ながら、元気に言いました。
頭の上では、モッチもぶいん!ぶいん!と元気に羽音を立てています。
それを見ていたカモミラ王女が、何かを思いついたようでした。




