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二度目の人生、呪いも無能も継続中なのに、なぜか毒母が聖母すぎる  作者: 真崎 奈南
一章

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4/5

好き嫌い発動中


「お待ちください! 納得できませんわ!」

「お前と話し合いをする気はないと言っている」


 階段の下には怒りの形相のミラーナと、そんなミラーナを冷酷な目で見つめる父ゴードンがいた。


 いつものネイトなら、両親の殺伐とした空気に耐え切れず、部屋に逃げ帰ってしまうところだが、今のネイトは少しも動じない。

 小さな足音を響かせながら階段を降りていくと、一斉に両親の視線がネイトに向けられる。

 疎ましそうに顔を歪めたふたりへネイトは冷めた視線を向けるが、足は止めない。


 慌てて追いかけてきたエルザがようやくネイトに追いついたところで、ゴードンが口を開いた。


「ネイト、親に挨拶もなしか?」


 掛けられた言葉にネイトはぴたりと足を止めると、気だるげに回れ右をする。


「父様、母様、おはようございます。……いってらっしゃいませ」


 ネイトは胸に手を当て、両親に対して軽く頭を下げて挨拶する。ゴードンへ向けての言葉を適当に付け加えつつ、ふたりの反応を確認するようにじろりと見た。


 不遜な態度をとっているため、両親から怒鳴りつけられてもおかしくないのだが、ふたりはネイトの雰囲気が変わったのを感じ取ったらしく、怪訝な顔をするだけで何も言ってこなかった。


 会話が続かないならここに留まる理由はない。ネイトはくるりと踵を返して、すたすた歩き出す。

 両親との予期せぬ接触で緊張したエルザが息を小さく吐き出すのを背中に感じながら食堂へと入ると、すぐにコック服を着た男が近づいてきた。


「ネイト坊ちゃん、もうすっかり元気そうですね。食事は準備できていますよ。いっぱい食べて体力をつけてください」


 にたにた笑う料理長を前にして、その不快さにネイトは眉根を寄せる。

 しかし、エルザに「こちらへどうぞ」と促されたため、ネイトは早々に料理長から視線をそらし、食事が並べられた席へと移動した。


 エルザに手を貸してもらいつつ席に腰かけると、人参がふんだんに使われたスープやサラダが視界に飛び込んできて、ネイトは鼻で笑う。


(俺が人参を苦手だからって、地味な嫌がらせだ)


 ネイトが顔をあげると、こちらを見て下品な笑みを浮かべ続けている料理長とすぐに目が合った。


(こんなのばかりだから……お前、俺に殺されるんだよ。あーあ。今の俺にまだその力がないのが心の底から残念だ)


 殺意を込めて見つめ返すと、料理長の顔色が変わる。

 ぶるりと体を震わせたあと、ブツブツと文句らしきことを言いながら厨房へ引っ込んでいった。


(つまらないやつ)


 舌打ちしたくなるのを堪えて、ネイトは手に取ったフォークでサラダの人参を突き刺した。そのまま口に運ぶが、咀嚼は途中で止まる。


(……まずい。やっぱり人参苦手)


 元々好き嫌いは多いのだが、特に人参は大人になっても避け続けていたくらいに苦手である。

 フォークで人参を皿の隅に追いやり始めたところで、エルザがため息交じりに呟いた。


「だめですよ、ネイト坊ちゃん。好き嫌いなく食べないと、大きくなれませんよ」


 大きくなれない。そのひと言に、ネイトがぎくりと顔を強張らせる。

 確かにネイトは体が小さいほうだ。しかも、十五歳くらいまで思うように身長が伸びず、背が低いとからかわれ続けるため、ネイトにとって悩みの種だった。


(背が伸びなかったのは好き嫌いが原因だったのか?)


 ネイトは疑問を言葉にせずに、何度かエルザへ視線を向けたのち、人参をもうひと欠片だけ口の中に放り込み、げんなりとした顔をする。


「人参おいしいですよ」

(どこが?)

「私は好きですもの。さあ、もうひと口いきましょう!」

(俺は嫌いだ。背なんてどうでもいい。もう食べない!)


 にこやかなエルザに対し、ネイトは涙目になりながら心の中で非難するが、ふと浮かんできた考えに、口元に笑みが浮かぶ。

 ぐさぐさとフォークに人参をいくつも突き刺すと、それをエルザに向ける。


「はい、どうぞ。エルザにあげる」


 ネイトがそう言うと、エルザは大きく目を見開き、少しばかり惚けた様子で見つめ返してくる。


(あとひと押し)


 そう感じたネイトはにっこりと笑ってみせた。


「エルザ、いつもありがとう!」


 エルザは声になっていない小さな悲鳴をあげた後、フォークを持っているネイトの手を両手で包み込むようにして掴んだ。


「すべていただきます!」


 フォークに刺さっている人参をぱくりと頬張ったエルザは、幸せそうな顔でもぐもぐと咀嚼する。


「おいしい?」

「そりゃあもう! ネイト坊ちゃんの笑顔もひっくるめて、すべてが私の栄養です!」

「そうなの? 嬉しい! もう一回!」


 再び人参をフォークで突き刺しながら、ネイトはこっそりほくそ笑む。


(残しても料理長が文句を言ってこないくらいの量まで食べてもらおうかな)


 そんな思惑を抱いた時、ミラーナが足取り荒く食堂に入ってきた。穏やかだった場の空気が一瞬にして不穏に染まる。


「ネイト、行きますよ」


 一方的に、かつ苛立ちを隠そうともせず、強い口調で要求してきたミラーナに、ネイトは小さく舌打ちした。




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