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二度目の人生、呪いも無能も継続中なのに、なぜか毒母が聖母すぎる  作者: 真崎 奈南
一章

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3/5

無能という贈り物

 包帯を替えて、ついでに着替えまで済ませると、エルザがネイトの朝食の準備をお願いしに行くと言って部屋を出ていった。

 そのため、ネイトは当然のようにベッドを離れて、部屋の中をうろうろと見て回る。


 部屋はそれなりの広さがある。

 しかし、家具はベッドに机にテーブル、クローゼットや本棚などがある程度で、普通の子ども部屋には恐らくあるだろうおもちゃやぬいぐるみなどは一切ない。

 本棚を見上げても、子供向けの魔法に関する本が二冊並んでいるだけ。


(文字の読み書きを学び始めたのは、この頃だったか)


 細かい時期まではやはり思い出せないが、先ほど確認した机の上に文字を練習した紙が置いてあったため、ネイトはそう判断した。


 続けて、本棚の前へと移動させた椅子に乗って本を一冊掴み取ると、そのまま椅子に腰かけて、ぱらりとページを捲った。


(問題なく読める。これなら文字も普通に書けるはず)


 半ページほど黙読して、読み書きから始めずに済みそうだとわかり、ネイトはほっと息を吐いた。


 特に面白みもなかったがそのまま読み進めていると、エルザが部屋に戻ってきた。エルザはネイトが手にしている本を見てほんの一瞬驚くものの、すぐに申し訳なさそうな顔をする。


「朝ごはんはすぐに準備できるとのことですが、料理長が食堂までいらしてくださいと。……ネイト様は病み上がりなので私が部屋まで運ぶと言ったのですが、聞き入れていただけず」

「……わかった、行こうか」


 ネイトはぱたりと閉じた本を本棚の手の届くところに戻すと、椅子からぴょんと飛び降りて、エルザに向かって歩き出す。


「申し訳ありません。私が強く押し切れなかったばかりに」

「俺はもう動けるから食堂に行くぐらい構わない。逆に部屋に運んでもらって、嫌味を言われたり、食べ終わるまで居座られたりする方が面倒だ」


 この家の主である父親から雑に扱われているためか、ネイトは使用人たちから嫌がらせを受けている。もちろん料理長も例外ではない。

 子どもの頃は大人が怖かった。おどおどしたり、悲しくて涙を流したりすることも多かったが今は違う。

 約五年後、恐怖に染まった目で震えながら自分を見つめる料理長の姿を知っているからこそ、ネイトはまったく怖くない。


 あっさり言い放ったネイトにエルザは面喰うが、すぐに微笑みを浮かべて「ありがとうございます」と感謝を口にした。


 ネイトの部屋は二階の角にあり、食堂は一階にある。

 部屋を出て、のんびりとした足取りで廊下を進んでいると、ネイトの横に並んだエルザがこそっとささやきかけてきた。


「やる気になったのですね。応援しておりますよ」


 突然、エルザから飛び出した意味不明な発言に対して、ネイトは怪訝そうに「は?」と返す。


「先ほど『初級魔法入門』を見ていらっしゃいましたよね。魔力鑑定の結果は残念でしたけど、心配せずともきっと大丈夫です。ネイト坊ちゃんなら、いつか必ず魔法をうまく使えるようになりますから!」


 心の底から信じているらしく、エルザの瞳が力強く輝く。一方で、言葉の意味を理解したネイトは冷めた様子で肩を竦めた。


「……どうかな」


 初等部には六歳で入学するのだが、入学予定者の子どもたちはそれに先立って魔力鑑定を受けることになる。

 エルザの言葉によって、もうすでに魔力鑑定を済ませていたことがわかり、あの日体験した絶望が体の中を這い上ってきた気がして、ネイトは唇をかんだ。


 魔力鑑定により、ネイトは魔力が低い……つまり無能というレッテルを貼りつけられた。

 そうは言っても、努力次第で魔力量は増やすことができる。努力さえすれば生活する上で必要不可欠な火、水、風といった初級魔法は問題なく使えるようになるため、現時点ではそれほど深刻に捉えられることはない。


 しかし、エルザの言う「うまく使える」というのは生活魔法とも呼ばれているそれらではなく、炎、氷、烈風など上級魔法を使えるようになるといった意味合いを含んでいる。


 魔力鑑定時に、精霊が贈り物としてなにかひとつ魔力を与えることがある。

 将来有望だと感じたのか、性格を気に入ったのか、それともただの気まぐれなのか、精霊に選ばれる基準ははっきりとしていない。けれど、そこで上級魔法を使えるようになれば、エリートとしての人生が約束され、家の品位も上がる。


 あの時のことを、ネイトははっきり覚えている。

 何人かの子供たちが精霊に選ばれたのだが、ネイトに対してだけ精霊の態度は厳しかった。精霊はネイトを睨みつけ、「下がれ。お前のような者に、我らは力を授けない」と言い放ったのだ。

 その場に居合わせた保護者たちから「魔力が低いという結果が出たのですし、そう言われても仕方ありませんね」と馬鹿にされ、ネイトは顔を真っ赤にさせた実母ミラーナから「恥をかかせたわね」と睨みつけられたのだった。


 それでもネイトは希望を捨てず、初等部に入ったあとも努力を続けた。

 上級魔法を習得するには、精霊から認めてもらい力を授けてもらう必要がある。そして、ほとんどの学園は、様々な精霊と契約を交わしているため、頑張れば多くの上級魔法を取得することが可能だからだ。


(ずっと俺も、いつか精霊に認めてもらい、力を授けてもらうんだって希望を持ってたけど、そもそもが無理な話だった。精霊たちはミルツェーア家の人間を憎んでいたのだから)


 ネイトが左目をそっと手で押さえた時、階段の下で金切り声が響いた。



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