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二度目の人生、呪いも無能も継続中なのに、なぜか毒母が聖母すぎる  作者: 真崎 奈南
三章

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教会でのひと時3

(エイモンってあの爺さん精霊のことだよな。俺が爺さんみたいって、どういうこと?)


 ネイトは動揺しつつも、なんとかオカリナを吹き続け、教会入り口手前のバザー会場まで戻ってきた。

 大勢の人々を引き連れてきたネイトたちに、シスターとナディは驚きを隠せない様子だ。

 二曲目を吹き終えたところで、人々から温かな拍手が沸き起こった。

 ネイトはぺこりと頭を下げてから、次の曲を吹き始める。


(……あっ。しまった)


 子どもが奏でていても違和感がない様に童謡を選曲している。

 しかし、童謡はオカリナを手に取った初期の段階での練習で二、三曲吹いた程度であるため、完全にうろ覚えだ。

 途中で音を外してしまい、ちらりと聴衆に目を向ける。

「へたくそ」と野次を飛ばされるかと思いきや、誰も罵声をあげることなく、みんなにこやかな顔で耳を傾けてくれていた。


(そっか。俺は五歳の子どもだもんな。評価が甘くなってもおかしくないか。子どもで助かった)


 客を逃さずに済んだことにネイトはほっとしつつ、最後の一音まで心を込めて奏でた。

 先ほどよりも大きな拍手を贈られて、中にはネイトに「君、才能あるわよ!」と声を掛けてくる者までいた。

 ネイトがそれらに軽く頭を下げてこたえていると、横にいたガゼルがオカリナを持つネイトの手を両手で包み込むようにしてぎゅっと握りしめた。


「ありがとう、ネイト! お前のおかげで人を呼ぶことができた。あとは俺に任せろ! ネイトの頑張りを絶対に無駄にはしないからな!」


 ガゼルの底抜けに明るい笑顔と前向きな言葉に、ネイトの心がほんのり温かくなる。


「ああ、頑張れよ。応援しているから」


 ネイトの嘘偽りのない心からの言葉にガゼルは力強く頷き、さっそく人々への売り込みを開始した。


(全部売れると良いな……えっ……嘘だろ)


 こちらを見つめて涙を流すミラーナの姿を見つけて、ネイトは口元を引きつらせた。


「……か、母さん、どうしたの?」


 恐る恐る歩み寄って問いかけると、ミラーナは感極まった様子でさらにぼろぼろと涙を零した。


「さすがネイトね。最高だったわ!」

(そ、そんなに?)


 引き気味のネイトへと、涙で顔を濡らしながらミラーナは手を合わせた。


「もっと聞かせて。せめてあと一曲だけで良いから。……直接聞けるのも、もしかしたらこれで最後かもしれないし」


 ネイトはミラーナの言葉の意味を理解するまで数秒を要した。


(ああ、そうか。母さんは父さんとの離婚が成立したら家を出て行くし、確かにこれが最後だな)


 両親の離婚後、ミラーナと会うのは二回のみ。一度目は偶然で、二度目は息の根を止めろと命じられた時だ。

 ミラーナの前でオカリナを吹くことは今この時を逃したら二度と来ない。


「……そうだね。わかった」


 わずかな、しかし確かに存在する心の痛みに気づかない振りをして、ネイトは頷き、オカリナを構えた。

 奏で始めたのは童謡ではなく、愛する人を失った悲しみを表現した一曲。

 ネイトが紡ぐ美しい調べにミラーナはもちろんのこと、集まった人々も静かに聴き入る。


(俺は、今度こそ母さんを殺せるのだろうか。……もしかしたら、また失敗するかもな)


 そんな風に思いを巡らせながら、ネイトは切ない余韻を残して完璧に一曲吹き終えた。

 口笛や「ブラボー!」という声が飛び交い、拍手喝采の中、ネイトは深くお辞儀をする。

 大泣きしているのはミラーナだけではなかった。

 上部後方からもすすり泣く声が聞こえてきたため、ネイトは驚きと共に振り返る。

 教会入り口の屋根の上にドレイクと女の精霊の姿があった。

 ドレイクはいつもと変わらない様子に見えたが、女の精霊は涙で顔をぐしゃぐしゃにしていてミラーナと似たり寄ったりの状態になっている。


「まさか人間の子どもに感動させられるだなんて!」


 女の精霊の叫びに気づいた人々からどよめきが上がるが、精霊たちはそれを気にも留めず、ネイトのそばへと舞い降りてきた。


「良いもの聴かせてもらったわ」


 そこでネイトは女の精霊へと顔を近づけて、小声で話しかける。


「良かったなら俺のお願い聴いて。あれらを完売させるのを手伝って欲しい。特に編み紐の腕輪」


 女の精霊はちらりとバザーの方へ視線を向ける。

 ガゼルは売り込みを頑張っているが、なかなか手に取ってもらえず、時折悲しそうな表情を浮かべていた。


「ええ、いいわ。力を貸してあげましょう」


 女の精霊は余裕たっぷりに言うと、敷物の方へと飛んでいく。

 次いで、ネイトがドレイクをじっと見つめると、ドレイクは察したように苦笑いし、女の精霊を追いかけていった。

 女の精霊は編み紐の腕輪の上で浮遊したまま目を閉じた。そして光の粉を撒き散らすようにして、くるりと回転する。

 一方ドレイクは、苗を前にして両手をかざすと、同じように光の粉を放った。

 編み紐の腕輪や苗を輝かせていた光はほんの数秒で消えてしまったが、どちらもさっきまでとは違い、艶やかに見えた。


「まあ、精霊の加護が」


 驚きと共に飛び出したシスターの言葉通り、精霊によってなんらかの加護が与えられたのは一目瞭然である。

 他の品にも精霊たちが加護を与え、その様子を人々が唖然とした様子で見つめている。

 精霊の加護が付与されたものなど滅多にお目にかかれない。

 それが目の前にあり安価に手に入る状況に、恩恵を受けたい人々の目の色が一気に変わっていく。

 完売するまでそれほど時間はかからなかった。




 バザー会場の後片づけまで終えたあと、ネイトはシスターたち三人へ再訪を約束し、カメリア教会を後にした。


「あなたたちのおかげよ。なにかお礼をしなくちゃね。何がいいかしら」


 ドレイクと女の精霊にミラーナは笑顔で話しかけると、女の精霊は小さく肩をすくめた。


「必要ないわ。だって、ネイトのオカリナの音色がとても良かったから、それのお礼だもの」


 ドレイクも同じ気持ちのようで爽やかな微笑みを浮かべている。


「それじゃあ、私たちはここで」


 曲がり角に差し掛かり、ネイトたちが馬車の待っている方へ歩を進めようとした時、女の精霊がそう声を掛けてきた。

 精霊たちがそのまま別方向へと進路を取ったため、思わずネイトは呼び止める。


「待って。ありがとう……ええと……精霊さん」

「リリンナよ」

「ありがとう、リリンナ。それからドレイクも」


 リリンナは笑顔で、ドレイクは軽く手を掲げて、ネイトの言葉にこたえた。


「じゃあ、またな」

「いや、またはない方向でお願いしたい」


 ドレイクとネイトが以前も交わしたようなやり取りを経た後、二体の精霊は姿を消した。

 そこから、ミラーナとネイトにふたりの侍女が続く形で、一行はのんびり歩き出す。


「今日は楽しかったわね」

「まあそれなりに充実していたかも」

「……ねえ、ネイト」

「な、なに?」


 急に真剣な面持ちを向けてきたミラーナに、ネイトは思わず身構える。

 ほんの少しだけ間を置いてから、ミラーナは言葉を選ぶようにして口を開いた。


「私はもうすぐお父さんとお別れすることになると思うの。私についてきてくれないかしら。一緒にあの家を出て、母さんの実家がある田舎で暮らすの」


 ネイトが足を止める。

 動きを止めて自分と向かい合ったミラーナを、ネイトは強張った顔でじっと見つめた。


「お母さんは、ネイトと一緒に暮らしたい。ネイトを連れて行きたい。……でも、今のままだと、それは叶わないかもしれない。……でも、ネイトが一緒に行くって言ってくれたら、母さんもっと頑張るわ。絶対に諦めない。諦めたくないの」


 完全に言葉が出てこなくなってしまったネイトに、ミラーナの表情が切なく歪んだ。


「ごめんなさい。突然こんな話をされたらショックよね。話はいったん終了。お腹もすいたし帰りましょう」


 ミラーナは侍女ふたりの気遣いの眼差しも吹き飛ばすように明るく笑うと、ネイトの手を掴んで歩き出す。


(母さんと一緒に家を出るという選択肢は、存在しないと思っていた)


 ネイトはミラーナに手を引かれながら、その横顔をぼんやりと見上げた。


(もし父さんの元を離れることができたら、俺は一度目と違う人生を……誰も殺さずに済む人生を送れるのだろうか?)


 その答えなどわかるはずもない。

 思い描いてもいけない気がして、ネイトは唇を引き結ぶ。

 心臓が早鐘を打つのだけを、ただひたすら感じていた。




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