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二度目の人生、呪いも無能も継続中なのに、なぜか毒母が聖母すぎる  作者: 真崎 奈南
三章

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19/24

にぎやかな祝祭1

 それほど時間を置くことなく、ミラーナ付きの侍女がネイトを迎えに来た。以前、ネイトのかすり傷を手当てしてくれた侍女だ。

 ネイトはエルザと共に部屋を出ると、先導する形で前を歩いている侍女に話しかける。


「これからどこに行くのですか?」

「あら、奥様はなにもおっしゃらなかったのですか? 今日は国王様の誕生日。町で祝祭が行われているので、それを一緒に楽しみたいと」

「そっ、そうだったんだ……祝祭か……あははっ、はは」


 侍女が迎えに来るまで、ネイトはどこに連れて行かれるのかをずっと考えていた。

 獣がうじゃうじゃいる森に置き去りにされるか、もしくは、まさかの魔力鑑定三回目。

 思いついたのはそれくらいだったため、返答が想定外過ぎて乾いた笑い声しか出てこない。


「奥様は前々から祝祭の日に出かけることは決まっていたのですが、今朝、急にネイト坊ちゃんと一緒に行きたいとおっしゃいまして。なにせ急でございますし、私どもはネイト坊ちゃんのご予定もわかりませんでしたから、迷惑ではとお止めしたのですが、聞くだけ聞いてくると奥様が部屋を飛び出したのです」


 ありえない行動のはずなのに、ネイトにはミラーナの一連の姿が想像できてしまい、苦笑いを浮かべた。

 ネイトの傍らを歩くエルザが、にこにこ顔で会話を繋ぐ。


「お勉強の予定は入っておりましたが、ネイト坊ちゃんは優秀ですから一日くらい休んでもなんら問題ございませんよ。ネイト坊ちゃんは祝祭を観に行くのは初めてですよね。たくさんの露店が出ていますし、催し物もされていますし、私も久しぶりなので楽しみです」

(祝祭どころか、誰かの誕生日を祝ったことすらないけど)


 再びネイトは「ははは」と乾いた笑い声を発したあと、思いを巡らせた。


(まさか、母さんと祭りに行くことになるとはね)


 もちろん魔力鑑定など親子で出向く必要がある際、一緒に出かけることはあったが、このようなお出かけは一度もない。


(一度目の人生には無かったことだから、まったく予測ができないな。……どちらにせよ、ただの散歩で終わるとは思えないけど)


 ネイトはそんなことを考えながら、侍女たちと共に廊下を進み、屋敷の外へ出た。

 門の近くにはすでに馬車が準備されていた。

 その傍らにはミラーナと数人の侍女がいて、ゴードンを迎えに来たのとは別の御者と楽しそうに立ち話をしていた。

 三人で近づいていくと、ミラーナがこちらに気が付き、笑顔を咲かせる。


「ネイト、待っていたわ! さあ、乗ってちょうだい!」


 ミラーナ自ら馬車の扉を開けて手招きする。ネイトはこくりと頷くと、警戒しつつ馬車の中に乗り込んだ。


(不審なところは特になし)


 ネイトが注意深く見回していると、続けてミラーナも乗り込んできて、御者が軽く頭を下げて扉をぱたりと閉じた。

 窓から外へ目を向けると、先ほどまでミラーナの近くにいた侍女たちが若干の苦笑いを浮かべつつ、こちらに向かって手を振っていた。

 それに、向かい合う形で座席に座ったミラーナが、にこやかに彼女たちへ手を振り返しているのを目にして、ネイトは唖然とさせられたのだった。


(侍女たちも、母さんの変化に戸惑っている……というか振り回されているみたいだな)


 今目の前に広がっている光景と、廊下で聞いた侍女の話から、そう判断できる。

 手を振っている侍女たちをぼんやり見つめていると、ふとあることに気づき、ネイトはミラーナに問いかけた。


「付き添いは、エルザとさっき俺を迎えに来てくれた侍女だけ?」

「ええ、そうよ」

「本当にふたりだけ? あの侍女は?」


 エルザと先導してくれた侍女の姿が見えないのは理解できる。ふたりは共に町へ行くため、御者台に移動したのだろう。

 しかし、もうひとり姿が見えない侍女がいる。ネイトを常に見下していたあの眼鏡の侍女だ。

 ネイトの疑うような声音に、少しの間キョトンとしていたミラーナだったが、理解したようにハッと目を大きくさせた。


「それって、ネイトに罰を与えようとしていた彼女のことかしら? 彼女ならとっくにクビにしたわ。もう近くにいないから安心して」

「……そ、そうなんだ。わかった」


 あの眼鏡の侍女も実は同行していて、祭りというひと目の多い場所で蔑もうという魂胆かとネイトは考えたのだが、ミラーナにあっさり否定される。


(確かにあの時、クビだって言っていたし、いないっていうのは嘘じゃなさそうだけど……)


 馬車が動き出すと、ミラーナがさらに楽しそうにはしゃぎ出した。

 疑いの気持ちがなかなか晴れずにいたネイトだったが、そんなミラーナの様子に毒気を抜かれてしまい、脱力する形で背もたれに寄り掛かった。


(……まあいいや。なるようになるだろうし)


 すべてが面倒に思えてきて、ネイトは窓の向こうへと目を向ける。

 祝祭が行われているというのも納得なほど人通りが多く、時折目を凝らすと精霊の姿もちらほら見受けられた。


(さすが国王の誕生日。国民だけでなく精霊たちも祝福しに訪れているってことか。……あ、ドレイクだ)


 ちょうどパン屋の看板の裏からドレイクが顔をのぞかせた。

 次いで、ドレイクの横から女の精霊も顔を出す。彼女はネイトに気づき、大きく手を振った。


「あら。可愛らしい精霊さん!」


 反応できず固まったネイトの目の前で、ミラーナは女の精霊に向かって手を振り返した。


「……か、母さん、精霊が見えているの?」

「あら。ネイトも見えているのね。あの子可愛いわね。ふたりは恋人同士かしら」


 何気ない口調でミラーナは質問に答えたが、ネイトは困惑する。それはドレイクたちも同じで、ミラーナに対して驚きを隠せない様子だ。

 なぜなら、今、ドレイクたちは姿を隠している状態だからだ。

 その証拠に、女の精霊が大きく手を振っているのにも関わらず、行き交う人々は誰ひとり彼女に目を向ない。

 これほど多くの人がいる中で精霊が姿を見せたら大騒ぎになるのは明らかだ。そのため、姿だけでなく気配までしっかり隠しているのだろう。


 慌ててネイトは一度目の人生での母の記憶を掘り返す。


(母さんが精霊を見えていたかどうかは……わからない。でも、光魔法を半月で習得してしまうほどの人だし、見えていてもおかしくないか)


 上機嫌に鼻歌を歌い出したミラーナを呆然と見つめながら、ネイトはそう結論付ける。


「今日はたくさん付き合ってもらうからね。思う存分食べるぞーー!」


 握りこぶしを突き上げながら、にこやかになされた宣言に、ネイトが口元を引きつらせた時、ゆっくりと馬車が停まった。




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