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二度目の人生、呪いも無能も継続中なのに、なぜか毒母が聖母すぎる  作者: 真崎 奈南
三章

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光と影1

 魔力鑑定の時のように、水晶へ意識を集中させていく。

 火魔法を発動させて水晶を包み込むが、火力の弱さにゴードンの口から不満のため息がこぼれたのが聞こえてくる。


(これが今の全力なのだから仕方ないだろ)


 煩わしさと共にそんなことを考えていると、水晶がしゅるしゅると音を立ててネイトの火を吸い込んでいった。

 ネイトは球体を指で摘まんで、目の高さまで持ち上げた。

 球体の中では、赤い輝きが渦を描くようにしてぐるぐる旋回している。

 この輝きが強ければ強いほど、なおかつ、水晶の中の光が留まる時間が長ければ長いほど、優れているとされるのだ。


 ネイトの赤い光は最初こそ輝いていたものの、徐々に弱々しくなり十秒ももたずに消滅してしまう。

 またしても残念な結果に終わったが、ネイトは必死に魔法を捻り出したことで、ひどい脱力感に襲われ、ぐったりと息を吐く。


(疲れる)


 心の中でぼやいたところで、昨日女の精霊に言われた言葉が脳裏をかすめた。


『ただ単に魔力をうまく生み出せていないってところかしら?』


 魔法を使ったあとの疲労感はいつものことである。

 しかし、彼女の発言を踏まえて改めて向き合うと、魔力の消費量と疲労感が噛み合っていないと気づかされる。


(気力体力を振り絞っても、あの程度の火力しか発動できないなんてほんと情けないな。……でも、できない原因はいったいなんだろうか。彼女に聞いたら教えてもらえるだろうか)


 ネイトが考えを巡らせていると、ゴードンの冷たい声が響いた。


「失望した」


 鋭く抉るようなひと言にネイトの肩がピクリと跳ねた。ゆっくり視線を上らせると、すぐに冷ややかな眼差しとぶつかる。


「精霊から魔力を授けられたかと思っていたが、違うようだな。お前に力を与える価値などないと判断されてしまったか。まったくもって役立たずな」

(役立たずでけっこう。気が済んだならさっさと出て行ってくれ)


 理不尽な侮辱だけでなく、こちらの反応を探るようなゴードンの視線に対しても、ネイトは無表情を貫く。

 すると、ゴードンが業を煮やしたように話を切り出した。


「ネイトお前、精霊と話をしていたらしいな」

「……僕が誰とお話を?」


 ネイトはわずかに息をのんだあと、大きく目を見開いて驚いた顔を装う。


「お前と精霊だ。昨日の昼間、庭で話をしていたと聞いた」

「違います。ひとりでお喋りしていただけです」


 焦りを見抜かれないよう注意を払いながら、ネイトはたどたどしく答える。ゴードンは冷たい眼差しをネイトに向けたまま、強い口調で言い切った。


「しかし、あの場に精霊はいた。それは認めるな」


 認めるべきか、それとも知らないふりをするべきか。どちらが正解か見当もつかず、思わずネイトは黙り込む。

 そんなネイトの態度を不振がるように、ゴードンは目を細めた。


「誤魔化そうなどと考えてはいないだろうな」

「……ど、どうして僕が、そんなことを?」

「ではなぜ答えない。答えろ!」

「……何かがいるような感じはしたけれど、その正体は僕にはわかりませんでした」


 ネイトがなんとか返答を絞り出すと、ゴードンは腑に落ちない様子をわずかに残しつつも、軽く頷いて見せた。


「精霊はおいそれと人間に姿を見せない。すぐそばにいたとしても見えないことは大いにある。そしてまた、気配を感じ取ることも難しいのだが、お前はわかったようだな。その点はよろしい」

(褒められたというのにまったく嬉しくない。むしろ失敗したかも。最悪)


 出かかったため息を飲み込んで、ネイトは渋い顔をする。ゴードンはちらりとドアの方に視線をやりながら、声のトーンを落として話を続けた。


「私は精霊の気配を感じ取るのが得意ではない」

「……へ、へえ。そうなんだ」


 確かに一度目の人生で、ゴードンは精霊の気配をうまく察知できていなかった。ネイトの方が敏感に気配を嗅ぎ取れていたといっても過言ではないだろう。


「父さんの知り合いが言うには、最近、この屋敷の中で精霊の気配を感じることが多いらしい」

(ドレイクだな)

「私はその精霊を捕まえたい。手伝ってくれるな」


 威圧的に言い放たれた瞬間、ネイトの表情が凍り付く。


(ここで頷けば、言いなりの人生が始まる)

「どうしたネイト。私の言うことが聞けないのか?」


 ゴードンの瞳の奥で漆黒の闇が揺らめいた。闇の魔力に背筋が震える。


(ここで頷かなければ、殺される)


 そこでネイトはあることに気づき、ふっと笑みを浮かべた。


(あるじゃないか。陰鬱な人生を繰り返さずに済む手段が。今ここで、父さんに殺されてしまえばいい。そうすれば、未来で罪なき人の血が流れることもない)


 小さな肩を揺らして笑うネイトの態度が不快だったらしく、ゴードンは顔をしかめた。


「何がおかしい」

「精霊を捕まえてどうするの? 友達にでもなるつもり?」


 ネイトは笑みを引っ込めて、真っすぐにゴードンを見据える。

 小馬鹿にしたようなネイトの口調も気に障ったらしく、ゴードンの表情が一気に鋭さを帯びていった。

 殺伐とした空気を物ともせず、ネイトは再び口を開いた。


「違うよね。精霊たちを怒らせるようなことするつもりでしょ?」

「……お前、やっぱり精霊と話をしていたんだな。なにか聞いたのか」

「何も聞いてないよ。ただ、精霊たちの様子から、父さんが悪いことをしているのはわかった」


 ネイトはそこでひと呼吸入れ、引き金ともなるべき言葉を力の限り叫んだ。


「もう俺は父さんの言いなりにならない!」


 瞬時にゴードンの黒目が大きくなり、体全体から黒い影が揺らめき立った。

 闇の魔力にネイトが身構えるよりも先に、ゴードンがネイトの胸倉を乱暴に掴み上げた。


「自力では生きていけない子どもが、親に逆らうのか!」

「嫌なものは嫌だ! 親だからって俺に指図するな!」


 ゴードンの怒りに呼応するように手を伝って伸びてきた黒い影が、ネイトの首元に巻き付き、容赦なく締めつける。


「ネイト、何か言うことはないか」


 謝罪。命乞い。媚びへつらい。様々な言葉が脳裏をよぎるが、ネイトはそのすべてを跳ねのけるようにゴードンを睨みつける。

 首の締め付けが強まり、ネイトが苦悶の声をあげたところで、部屋のドアが勢いよく開いた。


「どうなされましたか……ネイト坊ちゃん! 旦那様、おやめください!」


 騒ぎに気づいて部屋の中に飛び込んできたジョセフが、慌てふためきながら駆け寄ってくる。


(やめろ。来るな)


 声にならなくても心の中で強く訴えかけると、「邪魔するな!」とゴードンが声を荒げ、風魔法を発動させた。

 強い風でジョセフを足止めするだけでなく、部屋の外へと押し戻していく。


「こいつはもういらない」


 ゴードンの視線がネイトに戻された。その目に宿る影がさらに色濃くなっていく。


(……父さん、このまま終わらせてくれ)


 死を悟り、受け入れたその時、温かな光がネイトの体を包み込み、ゴードンが後方へと弾き飛ばされた。

 首に巻き付いていた闇の力は消え去り、ネイトは床の上へと崩れるように倒れながらも、すぐさま戸口へ顔を向ける。

 そこにはジョセフだけでなく、ミラーナが立っていた。





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