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二度目の人生、呪いも無能も継続中なのに、なぜか毒母が聖母すぎる  作者: 真崎 奈南
三章

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16/24

交錯する思惑

 翌日、机に向かって計算を解くネイトの手は止まりがちだった。

 昨日庭で会ったあの男の顔が頭に浮かぶたび、心が重苦しくなり、ネイトは顔をしかめる。


 あの後、エルザがやって来て対応を始めてすぐに、ゴードンが正面の門から屋敷の敷地内へ入ってきた。

 男はすぐに気づいて声を掛けると、ゴードンはほんのりと嫌そうな顔をしたものの、そのままふたりは屋敷の中へ入っていったのだった。


 それから丸一日経った今でもまだ、ネイトの心は落ち着かない。


(あの男は精霊を見つけるのが誰よりも得意だった。ドレイクたちの姿を見ていなくても、気配を間違いなく察知していたと思う)


 あの男の『ところで今、だれと話をしていた?』という問いかけは、精霊の気配を嗅ぎ取った上で投げかけられたものと推測できた。

 精霊の情報を喉から手が出るほど欲しがっているゴードンが、あの男からネイトと精霊の繋がりを匂わせられたなら、途端に目の色を変えたことだろう。

 実際、今朝、玄関の前にいるゴードンと目が合った時、わずかながらネイトに反応を示したのだ。

 いつもは無視ともいえる態度を取られるため、ネイトにとっては大きな変化である。


(子どもだろうと関係ない。間違いなく、父さんは俺を利用しようとする。そうなったら、前の十九年間よりも悲惨だな)


 駒として父に扱われるのは、ネイトが初等部に入ったあとの話だが、今回のことがきっかけで早まることになっても、なんらおかしくない。


(さらに多くの命を奪うことになる)


 ネイトはそっとペンを置いて、手のひらをじっと見つめる。

 これから殺める者たちの血で徐々に染まっていくような錯覚に陥り、ネイトは小さな手をぎゅっと握りしめた。


(拒否すれば、父さんに殺されるのだけは変わらないだろうな)


 ネイトは父に認められたい一心で言われるままに動いていた幼い自分を思い出す。

 けれど当然、誰かを脅して盗みを働いたり、精霊を攫ったりするうちに、幼いネイトはゴードンに対して疑問を抱くようになる。

 誰かを傷つけたくない。そう強く思って拒否したことが一度だけあった。

 けれど、小さな反抗はゴードンの怒りを買い、ネイトは闇魔法によって拷問に近い苦しみを与えられてしまったのだ。

 その時、初めて死を意識し、逆らうと殺されるという意識を強く植え付けられたのだ。


 二度と味わいたくない記憶に恐怖が呼び起こされ、握りしめていたネイトの手が小さく震えた。


(いったい俺は何のために、最悪の人生を繰り返しているんだ)


 震える手で頭を押さえて項垂れると、問題用紙に影が落ちた。


「ネイト坊ちゃん、どの問題で躓いていらっしゃるのですか?」

「え? ……ああ、ええと、これ」


 ジョセフはネイトの様子を見て、問題が解けなくて悩んでいると考えたのだろう。

 何でも聞いてくださいといった顔で話しかけられ、ネイトは適当に問題を指さした。

「これはですね」とジョセフの説明が始まったところで、勢いよく部屋のドアが開かれた。

 咄嗟に振り返って視界に捕らえた姿に、ネイトは息をのむ。


「父さん」


 部屋に入ってきたゴードンに対して小さく零れ落ちたネイトの声には、動揺と失望が入り混じっていた。


「これは旦那様……ネイト坊ちゃんに御用でしょうか?」

「ああ。時間が空いたから、たまには話をしようと思って来た」


 これまで息子との関わりを必要以上に持たなかったゴードンの意外な言葉に、ジョセフも目を大きくさせて驚いていたが、すぐに温かみのある笑みが浮かぶ。


「そうでしたか。ネイト坊ちゃんはとても覚えが速いので、いくつかの分野においては教本の難易度を引きあげても問題ないと感じております」


 ジョセフに褒められている間も、ゴードンの視線が真っすぐ向けられていて、ネイトは生きた心地がしない。


「なるほど。魔法においてもそれが該当するのか」

「……魔法に関しましては、じっくりと時間をかけて進めていきたいと考えております」


 ゴードンの質問に、ジョセフは少しだけ間を置き、言葉を選ぶようにして答えた。


(魔法か。やっぱり、あの男から俺が精霊と話していた可能性を聞いて、ここに来たってことだな)


 精霊と話ができるくらいなら、魔力の贈り物をされていたとしてもおかしくない。

 しかし、ジョセフからの返答はぱっとしないものだったためか、ゴードンは不服そうな顔をした。


「ネイトと話がしたい。席を外してくれるか」

「は、はい。わかりました」


 不思議そうにしながらもジョセフはすぐに頷き、「失礼いたします」と部屋を出て行った。

 ふたりっきりになった途端、室内が一気に張りつめていく。

 ゴードンに温かみの無い声で「ネイト」と呼びかけられ、ネイトは再び手を握りしめて、椅子から立ち上がった。


「お父様。今日は僕にどのようなお話を?」

「これに魔法を」


 命令と共に、ゴードンが上着のポケットから透明の小さな球体を取り出した。

 それは水晶で、魔力鑑定の時に使用されていたものととてもよく似ている。


「……これで、俺の魔力を測定するってこと?」

「その通りだ。簡易的な測定のみで公の記録として扱うことはできないが、大まかな魔力値を把握するぶんには役に立つ」


 ネイトはゴードンに歩み寄って、恐々と水晶を受け取る。ネイトの小さな手にそれは大きく、しっとりとした重みが伝わってきた。


(俺は精霊から魔力を送られていない。あの男から何か聞いていたとしても、俺が無能のままだとわかれば、ただの憶測でしかないと判断してくれるかもしれない。うまくいけば誤魔化せる。もう少しだけでいい。悪に染まっていない幼い子供のままでいたい)


 希望を見つけた気持ちになり、ネイトの心の奥が騒ぎ出す。


「やって見せろ」

「はい。お父様」


 ネイトはゴードンをしっかり見つめて、力強く返事をした。




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