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二度目の人生、呪いも無能も継続中なのに、なぜか毒母が聖母すぎる  作者: 真崎 奈南
二章

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未来を補う力2

 久しぶりの日差しを体いっぱいに浴びながら、ネイトはエルザと並んで庭の小道をのんびり進んでいく。


 咲いている花を見つけてはエルザの足が止まる。どうやら彼女は花が好きなようで、蘊蓄を饒舌に披露する。

 最初は耳を傾けていたネイトだったが、三種、四種と続くうちに若干面倒になってきて、聞き流すことを決める。


(……それにしても、こんな風に庭を散歩するなんて初めてかもしれないな)


 ご満悦気味に語るエルザの横で、ネイトは青空へゆるりと視線をのぼらせる。

 眩しさで目を細めると同時に背後から視線を感じ、機敏に振り返った。


(この気配、精霊だな。どこにいる)


 ネイトの後ろには木が何本も並び、微風で枝葉が揺れている。その辺りから見られていたのは間違いないはずだが、小さな姿はなかった。


(本当に鬱陶しいな)


 三週間前、目覚めた直後に対面した精霊には、あれから何度も遭遇している。


 毎回、ネイトの周りをうろちょろした後、やつは決まって「お前いったいなんなんだよ!」と捨て台詞を吐いて消える。

 もちろんそれに、「お前こそなんなんだよ!」とネイトが怒鳴るところまでがお決まりの流れになりつつある。


 存在がうるさくてうんざりするが、特に攻撃してくる様子もないため、放置している状態だ。

 ネイトは気配を感じる方をじろりと睨みつけた後、木に背を向けた。


「あっちに咲いている花も見たい……いたっ!」


 この場から離れようとエルザに提案した次の瞬間、後頭部に何かが当たった。

 頭を抑えながら背後を確認すると、足元に木の実が落ちていた。しかも木の実には鋭い棘がいくつもついていて、ネイトは大きく口元を引きつらせる。


(ふざけやがって! あいつ、いつか絶対捕まえてやる!)

「ネイト坊ちゃん、どうしました?」

「ううん、なんでもない。はやく行こう」


 ネイトは心の中で怒りを滾らせながらもにこやかにそう言って、エルザの手を引っ張って歩き出した。

 少し道を進んではエルザの蘊蓄攻撃を受け、なぜこんなにも多種多様な花が植えられているんだとネイトが恨めしく思い始めたところで、ジョセフが姿を現した。


「遅くなりました。何を見ていらっしゃったんですか?」

「ベルチアナでございます。国花に指定されていて、分厚い花びらが特徴だとお話させていただいていたところでした。それからですね、この甘い香りは精霊が好むと言われていて……」


 説明が振り出しに戻ってしまったことにネイトは半笑いになりつつ、自然と視線はジョセフが持っている物へと移動していく。


「俺に渡したい物ってそれだよね?」


 つらつらと話し続けるエルザに面食らった顔をしていたジョセフだったが、ネイトに話しかけられるとすぐに視線を落とした。


「その通りでございます。これからネイト坊ちゃんがお使いになられる木剣です」


 両手で支え持つようにして木剣を差し出され、ネイトは硬い表情のままそれを受け取った。

 子ども用の木剣だというのにずしりと重く、己の非力さを実感させられる。

 木剣を目にした瞬間、エルザの語りがぴたりと止まった。不思議そうな面持ちで、ジョセフに疑問をぶつける。


「確か初年度は、剣術の授業はなかったはずでは?」

「はい、授業はございません。しかし旦那様は勉学だけでなく剣術も重視されているご様子で、授業の開始を待たずに指導を始めるようにと仰せつかっております」


 初等部一年生は基礎体力を養う程度の運動しかせず、実際に木剣を持つのは二年生からである。

 しかし、ゴードンは早々とネイトに剣を持たせ、慣れさせるつもりらしい。

 もちろんそれは親心からではない。幼い子供だろうが、必要があれば駒として利用するためである。


「まずは持ち方、構え方、姿勢などお教え……」


 ネイトが慣れた手つきで剣を構え持つと、ジョセフは目を大きくさせ、言葉を飲み込んだ。

 エルザも同様に驚いている様子だったが、ネイトはそれらを気にすることなく、ぶんぶんと剣を振るう。


(木剣を使っていたのは初等部の時だけだったけど、毎日必死に素振りして、すごく手に馴染んでいたことは覚えてる。懐かしいな)


 僅かに笑みを浮かべながらそんなことを考えていたが、次の瞬間、ネイトの眉間にしわが寄る。空気を震わせながら、剣先を近くの低木へ素早く向けた。


 すると、今まさに低木の向こうから棘とげの木の実を投げつけようとしていた精霊が、ネイトの鋭い眼光に顔を青くして慌てて姿を隠した。


「これは良いものをもらった」


 あえて相手に聞こえるようにネイトが不敵に言い放つと、精霊は恐怖を覚えたらしく低木がガサガサと揺れた。


「ネイト坊ちゃん」


 動揺に満ち溢れた声でエルザに呼びかけられ、ネイトはハッとする。


「電光石火とはまさにこのことでしょうか。思わず見惚れてしまいました」

「驚いた。とても様になっておりますし、なにより、剣を持つと雰囲気が変わりますね。これは向いているかもしれません!」

(……あ、失敗したっぽい)


 エルザにうっとり見つめられ、ジョセフからは期待のこもった眼差しをむけられてしまい、ネイトは口元を引きつらせる。

 初心者らしくいるべきだったと心の中で反省していると、ジョセフがもう一言付け加えてきた。


「ネイト坊ちゃんの身のこなしを報告すれば、旦那様も大いに期待されることでしょう!」

「待って!……それはやめて欲しい……変に期待しないで。がっかりされるのが、なにより辛い」


 咄嗟に声を張り上げたネイトに、ふたりの表情が悲哀で満ち溢れていく。


「そうですよね。考えもなしに発言してしまい申し訳ありませんでした」

「いや、俺の方こそすまない。わかってくれたなら、もうそれでいいから」


 魔力鑑定で最悪の結果を二度も叩き出してしまい、ネイトが両親を失望させてしまったのは誰の記憶にも新しい。

 己の失言に対して渋い顔をし、深く頭を下げてきたジョセフに、ネイトは気遣うように大きく首を振る。


(本当は、期待というよりも使えると気づかれてしまうのが苦痛。良い様に利用されるのは癪に障るし。でもまあ、今の俺が正直にそれを言う訳にはいかないけど)


 嘘くさい笑顔を浮かべて、この場をやり過ごそうとしたところで、またしても視線を感じる。

 ネイトは気だるげにそちらへと顔を向け、目を大きく見開いた。自分を見ていたのは精霊ではなく、ミラーナだったからだ。

 ミラーナは二階の自室のバルコニーにいて、微笑みながらネイトを見ている。しかも目が合ったとわかると、一気に目を輝かせ笑顔となった。


 見せられている光景に、ネイトは理解が追い付かない。


「……ええと、せっかく木剣をもらったことだし、あっちで素振りしようかな」


 やがてネイトは現実から目をそらすと、ミラーナの姿が見えない場所へ避難するべく、ひとり歩き出した。


(なぜ笑っている。木剣を持った俺はそんなに無様か? それとも、剣術の練習中に怪我するのを心待ちにしての笑顔か?)


 様々な可能性を頭の中で並べ、注意力散漫になっていたネイトは石に躓き、転びそうになる。


「危ない!」


 すぐさま体勢を立て直すと同時に、バルコニーから鬼気迫る声が飛んできたため、ネイトは驚きと共に振り返ってしまった。

 手すりから身を乗り出すようにしてネイトに向かって手を伸ばすミラーナを、傍にいた侍女たちが慌てて押さえている。


「……う、嘘だよな」


 ミラーナが発した「危ない!」というひと言がどうしても信じられず、ネイトは呟く。

 バルコニーではミラーナを部屋の中へ引き戻すべく、侍女たちが格闘している。

 ミラーナは不満そうな視線を侍女たちに返した後、改めてネイトを見た。

 そして、柔らかで温かな微笑みをふわりと浮かべた後、身を翻し、侍女たちに促されるまま部屋の中に戻っていた。


(母さんは何を考えている)


 ネイトは呆然としていたが、立ち去り際にあの眼鏡の侍女から睨みつけられたことで、小さく笑みがこぼれた。


(ああいう態度の方が何倍もわかりやすくてありがたいな)


 母の考えがまったく読めないことに若干の恐怖すら覚えながら、ネイトはため息を吐いた。




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