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アンダーグラウンドfeat.最終話・殺し屋の休息

 とか思ったが、クロは普通じゃない。人を殺す事に躊躇がないし、やはりどこか一般常識が欠落している部分を一緒にいて強く感じる。

 だが、食べ物を楽しみにしている時は天使のようだ。「クロはまるげりーた」

 クロと同じメニューを注文しようと思った冬雪だったが、クロの表情が険しくなる。「相席させてもらうわね」と言って座る女性。

 冬雪もクロも知っている。

「此花さん」そう、殺し屋六麓HSの白亜が二人のテーブル席に相席してくる。そして店員を呼んで。

「モエ・エ・シャンドンのボトルをもってきて頂戴」

 店の一番高いお酒を注文し、「貴方達にお話しがあるのよ」

「クロはない。冬雪もない」クロがマルゲリータを守るように歪な形に切り分けて食べているのを見て「なら、ここはご馳走してあげるわ。あなた達の時間を買うならいいでしょ?」

「僕は構いませんが、何かお仕事の依頼のお話ですか? もし、そうなら僕やクロさんではなくて榊さんに直接お話をしていただかないと困ります。僕もクロさんもそのあたりの事は全然分からないので、すみません」

「……違うわ。友人からの約束を果たしに来たのよ」

 白亜は店員がもってきたモエ・エ・シャンドンをグラスに注ぐとそれを一口飲んで喉を潤した。

 ランチメニューだけならそこまででもないが、いきなり五桁のシャンパンをまっ昼間から開けている白亜は住む世界が違う人なんだなと心から思う。とくにオツマミを頼むわけでもなく、対照的にピザをおかわりしたクロは取られないように隠しながら食べる。

 そんなクロを不快そうに眺め、それを肴にシャンパンを飲み干す白亜。 

 なんだこの時間はと思うのは冬雪、一心不乱にピザを食べているクロと、そんなクロを眺めながらシャンパンを煽る白亜。冬雪の前にも同じランチメニューのマルゲリータがあるのだが、とてもじゃないが食べられるような雰囲気ではない。何故なら食事をしながらクロが先ほどの赤松と相対した時と同じように警戒している。白亜は冷静にこの空間内を支配しているとでもいうように気品さすら感じさせる。冬雪はピザをピザカッターで切り分けてはみるが、どうしても口に運べない、

 そして、白亜の視線が冬雪に移る。あっ、ヤバい。見つめられクロの凄さが分かった。今の冬雪は命を握られているという圧迫感から過呼吸に陥りそうだ。これが本物の殺し屋の纏う雰囲気なんだろうか? シャンパンを煽る手を止めて「ベッキーからこれをあなた達に」とコトンと置いた物。最初それがなんだか冬雪は分からなかった。だが、それが車のキーである事に気づくと冬雪はレベッカが自分達に車をあげると言われた事、しかしそれはレベッカが……死んだとき、要するにこれはそういう事なんだろう。

 冬雪も話にしか聞いていないが、レベッカが依頼していた民間軍事会社、全員宮水ASS,六麓HS、始末屋『よる』が一人残らずに殺害して、レベッカを引き渡した際の彼らは六麓HSだったという話。レベッカを保護したものだと思っていたが、どうやら違うらしい。

 白亜はレベッカのコルベットのキーから手を放して頷くので、冬雪はそのキーを受け取る。別に車が欲しいというわけではないが、受けとらないという空気ではなかった。

 それを手の中で遊ばせている冬雪に、

「私達六麓HSの仕事は今回の事件の画商を殺す事」そう言って再びシャンパンをすっと飲む。


「その画商がレベッカさんだったんですか?」

「えぇ、知ってのとおり麻薬の密売をしたかったみたいね」

 そうレベッカは話していたのを冬雪も知っている。なんとなく横を見ると興味なさそうにクロはスパゲッティに手を伸ばして逆手でフォークを持ってくるくると巻いて食べている。逆に器用だなと冬雪は思った。

「で、私達に殺された」白亜はそう思い出したかのように言って空になったモエ・エ・シャンドンのボトルを指でなぞった。「なんとも思わないのよね」

「はい? それはどういう?」冬雪は白亜の言葉を聞いて思わず聞き返した。

「レベッカがこちらに遊びに来ると聞いた時はそれなりに楽しみだったのよ。でも殺害対象だと分かった時は、あぁそうなのくらいだったのよ」

「それは友人を殺すと言う事に気が動転して?」と尋ねてみると白亜は財布から一万円札を5枚テーブルに置くと席を立つ。「冬雪、いらっしゃい。こちら側に、もしクロや貴方への殺しの依頼があったら私が直々に殺してあげるわ」


 要するに、裏稼業に身を置く者として冬雪は白亜に認められたらしい。それは親友と呼べるレベッカを自分の元にちゃんと連れてきて自分に引き金を引かせたからなんだろう。この世界のヤバさととんでもないところに来てしまった事を再認識する。


 白亜がいなくなってもしばらくクロは食べ続けた。

 クロは満足が行ったのか、白亜が置いて行った五枚の一万円札を店員に渡す。二万円と5千円くらいのお釣りが返ってきたので、クロは5千円札をポケットに入れると残りを冬雪に渡して店を出た。


 どこにいくわけでもなく、クロはベンチに座るとふぁああと欠伸をした。まさかここで寝るつもりなのか?

 冬雪が隣に座ると、もうすでに寝息が聞こえる。「猫みたいだなクロさん」と冬雪はつぶやくと、クロが半目を開けて「冬雪がいるから寝る」と一言。そして目をつぶる。

 冬雪がいるから安心だといいたいのだろう。

 そもそも貞操感は殆どなさそうなので、殺されないという事。

 ゴロゴロと鳴りそうな喉、クロは冬雪の膝の中で丸くなった。感情は読みにくいが随分心を開いてくれたんだなと思う。まだ少し暑い日が続くからか、それとも違う理由からか「なんか暑くなってきた」同時に冬雪の心音もだんだんと速くなっていく。

 今は一体どういう状態だろう?

 冬雪の膝を枕にして、クロはむにゃむにゃと眠りの世界。そんないちゃつきが目に入った人々は苦笑したり、ほのぼのして通り過ぎていく。

 なんかこういうのも悪くないと思った。

 自ら飛び込んだ普通じゃない日常の世界。しかし想像を絶する日々の毎日だったのだ。自分が学んだ殺しの技も誰かを殺した事実ですらも、いつのまにか自分の中で生まれたのか目覚めたのか雪之丞も、


――まだ宵の口。


 なんで自分は故郷から逃げ出してきたんだろうか? 居づらくなったからだ。しかし今にして思うと大した問題じゃなかった。 と言ってしまうと冬雪の恋人だった彼女は浮かばれない。やはり逃げ出す理由は十分だった。

 そんな事を考えながら、無意識にクロの髪の毛を撫でていた。さらさらとした触り心地の良い髪。「おなかがすいた」空耳だろうか? 確かに聞こえた。

 冬雪を見上げる野性的な人殺しの美少女クロと目があった。俺も君もいつ死ぬか分からないね?

 まぁでも今は大丈夫だろう。西宮市は仕事で殺しをしてはいけない場所なんだからさ。

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