8-3 アンダーグラウンドfeat. 『ひるね』ラーメンに行こう
氷で顔を冷やしている二階堂。
冬雪はクロと共に、六麓HSの社用車に乗車している。現在、依頼主の拠点である六麓HSに向かう為である。護衛対象のレベッカ・スミスは冬雪とクロの間に座ってニコニコと笑っている。冬雪は殺し屋の知り合いと聞いていたのでどんな人物かと思ったがひょうしぬけだった。
クロが首からぶらさげているスマホが慎ましく振動する。画面にはボスと表示している事から榊なんだろうと冬雪は思う。それを掴んでクロがレベッカを見つめるので、「どうぞ、電話にでなよクロ!」と流暢な日本語で返してくれるので頷いてクロは電話に出る。
クロは冬雪の方をみて「うん、分かった」と返し電話を切った。一体なんの話だろう。
クロは榊からの電話でも必要なこと以外はほとんど話さない。うん、分かった、大丈夫の三つの言葉を使う事が極めて多い。電話を切るとクロは、
「冬雪の歓迎会をする」えぇ? そんな話? 「仕事が片付いたら」
「ええっと、うん。歓迎会してもらえるように頑張るよ」
「冬雪はらーめんは好き?」
まさか、自分にラーメンが好きかと聞いてしまうのかと、ただ護衛対象の前だ「うん、まぁ」
「ラーメンかぁ、私も食べたいなー」
「えっと……」
レベッカがその話に入ってきたので、「レベッカ様、中華をご所望でしたら」
「中華じゃなくて、日本のラーメンを食べたいって言ってるのよ!」
確かに中華のラーメンも美味いが別物だ。
単純に完成度で言えば日本に軍配が上がるとすら冬雪は思っていた。
「それでは、何処か手配いたしますので」
「じゃなくてぇ」とレベッカは冬雪とクロの肩を抱いた。クロが一瞬反撃しようとしたのを二階堂と冬雪は反応しかけた。
「この可愛いボディガードの二人と食べに行きたいの」
ボディーガード期間は明日から3日間、酒蔵ルネッサンス当日に六麓HSに彼女を引き渡して終わり。「いいでしょ! 二人とも」
「クロは構わない」
クロが言うならと「僕も問題ないです」
レベッカは二人の肯定的な反応に喜んでよりハグする力を強める。クロは無表情で、冬雪はなんだか少し恥ずかしいなと思いながら、外国の人の距離感ぱねぇと思う。
「じゃあ決まりね! 宜しくね! クロに、フユキ」
「クロは一向にかまわない」クロはラーメンを食べれるからの反応だろう。
「じゃあ、とりあえず明日のお昼はラーメンですかね? レベッカ様は行かれたい場所とかありますか?」
「今から」とレベッカは言った。「今からラーメン食べに行きましょう! 夜しか開いてない店があるんでしょ?」
「レベッカ様、“ひるね”はもう昼間も営業しております」
「え!」
かつては看板が横に寝ており、夜から深夜しか営業していない、全国にファンがいる超有名なラーメン屋があり、現在は昼間も別名で営業している。
「そうなの? ファンタスティックなお店だと思ったのだけれど、まぁいいじゃない! そこに夜食を食べに行きましょうよ!」それはまずいという顔をするのは二階堂。「で、では他に夜間営業しているお店にしませんか? ここからだと遠いので」
「いやよ! そこにしましょ!」
そこはかなりまずい。現在、六麓HSがハリマオ会依頼を受けて向かっている大谷記念美術館から距離にして一キロ圏内だ。二階堂が一人焦っている中で、冬雪とクロはそんな事を知らないから、レベッカの行きたいそこに行こうと合意している。たかがラーメンだ。どこでもいいじゃないかと。
二階堂のそんな願いも空しく車は43号線に入る。
とにかく食べたらさっさと帰る。それに徹するしかないと頭を切り替え、白亜には出会わない事を心の中で祈りながら十五分もしない内に現地に到着する。
そこで注文したラーメンや......
「……凄いボリュームね」
ステーキみたいなチャーシューが乗っているラーメン。
クロは我さきにと割りばしを折っている。「いただきます」
「さぁ! フユキも食べましょう! お近づきの印に」
レベッカも箸をもってちゅるちゅると食べるので「は、はい。いただきます」
「ふふっ」
「フユキやクロみたいな子は本当はもう寝なきゃダメなのよ!」
深夜一時半、こんな時間に食べるラーメンの背徳感この上なく美味い事。というかこの店営業時間何時までなんだ? と冬雪が、
「深夜三時まで開いてるなんて、凄いお店ですね。お客様も多いし」
「ここはうまい」
「確かに美味しいわ!」
「二階堂さんは食べないんですか?」と冬雪が聞いてみるも、二階堂は苦笑して自分はいいと手を振る。彼の中ではそんな物食べている場合じゃないのだ。今頃白亜の屋敷にレベッカを送り、仮眠でもしているハズだったのに。
「この後どこかいかない?」
「もう結構遅い時間ですよ? 寝た方がよくないですか?」
二階堂はよく言った冬雪くん! と心から賛辞を与えたいと思ったが、レベッカは、
ラーメンを食べながら割りばしを小さく振る。行儀が悪い。
店内の外を指さしてからレベッカは言った。「向こう海でしょ? 見に行かない?」
「さすがにそれは危ないので」
もう失神しそうになりながら二階堂がレベッカの暴走を止めようとする。そんな二階堂に対して、レベッカは一心不乱にラーメンを食べているクロと、普通に食べている冬雪を見て「その為の可愛いボディーガードさん達でしょ?」
あぁ! もう! と声に出しそうだった。
二階堂は笑いながらも、さらに現場の近くに向かう危険性。同じ六麓HSの連中に見つかれば報告がいくだろう。報告がいけば、一体こんなところで何をしているか問われる。しかも海を見に来たなんて、「時差ボケもあるから眠くなるまで付き合ってよね」
アメリカ人という連中はみんなこうなんだろうか? こんなにぶっ飛んでいるのか、お前一応カリフォルニアのワイナリーのご令嬢なんだろう? だったらもう少し慎んだ行動しろよ。空気読んでくれよと喉から声が出そうになる。
「クロは仕事であれば遂行する」
あぁ、殺そう。次にクロが仕事で敵に回る事があった時は真っ先に殺してやろう。「ちょっと見に行ったら帰る事をお約束くださいね」さすがに自分の身になってくれと子犬のような目でレベッカを見る。
それに気づいたのか、もしかしたら気づいてて尚こんな感じなのか、ビールを注文するとそれを飲みながら餃子をつつき冬雪が食べ終わるのを待っている。その間にクロは二杯目としてちゃんぽん麺を食べ始めていた。それがさらに二階堂の怒りが積もる。
冬雪は自分が待たせていると気づくと必死になってラーメンを流し込む。本場福岡出身の冬雪だが、文句の付け所がないくらい「うまかったです」
「それは良かったわ。じゃあ行きましょう」終始レベッカのペースに乗せられ海に向かう。




