6-3 アンダーグラウンドfeat. 元町中華街で角煮まんを食べながら
「BB、久しぶりに三宮に来たらパイ山がなくなってるよ! これは驚いた」そうローカルネタを話される。ブリジットは三宮にはよく来るがパイ山なんて聞いた事がない。「パイ山ってなんなん?」
「おっぱい山の略」
「ボス、珍しくセクハラ? ウチはべつにええけど、他のところではやめてや」
「いやいや、かつてここ阪急三宮駅東口側にでこぼこした山のようなオブジェがあって、女性の胸を連想させる事から、当時の若者が待ち合わせ場所としてパイ山と呼んでたんだよ。うわー、もうないんだ! 地味にショック」
榊の子供の頃の話ならブリジットが知るわけがない。
「それだけ榊も年を取ったって事なんやろ? そんな感傷に浸ってないで、さっさと現場抑えるで!」
兄妹というには年が離れすぎているし、かといって恋人というわけでもない。なんなら人種も違う。榊とブリジットが並んで歩くとどういう関係なんだろうと道行く人は思う。「そういえば三宮といえばおでん屋のラーメンが最近女子に人気やねんで」と、すでに仕事を終えた後の一杯、あるいは食事の話をするブリジット、談笑をしているようで周囲の状況の確認も怠らない。三宮から歩く事十数分、目的地である元町に到着した。
「さて、どこだ」適当に選んだように角煮饅頭を売っている店に小銭を払い「明さん、悪ガキおらんかった?」
ブリジットは明さんと呼んだ知り合いにヒソヒソと情報をもらう。
角煮饅を受け取ると、「ありがとー、こんどみんなで呑みに来るわ」
「待ってるヨ。BB、できれば二人で会いたいネ」
「ほんま明さんのドスケベぇ!」
「BB気が済んだらいくよ」
「ばーい! ボス、まだうろちょろしてるみたいやで」
「中華街でよくやるなぁ」
別勢力であるチャイナマフィアも黙ってないだろう「売人はいつも下っ端や」
「割りのいいアルバイト気分って事か、それが実際どれだけ危険な事をしてるか本人は分かってないんだよな」
「汗水たらして粉配って、わずかばかりの小遣い。胴元は一攫千金。割に合わんな」とブリジットは喫煙所でタバコを吸う。「ボス、少し離れといて」
成程、ナンパ狙いか、榊は若い女性の武器というのは凄い物だなと缶コーヒーを購入して飲んでいると「お兄さん、ハイになれる薬とか興味ない?」
「おぉ、こっち来たか」
「えっ? もしかしてポリ?」
「いや、ポリじゃないよ。おっと逃げるな」
「なんだよ……こっちには海外マフィアがついてんだぞ」
「それ、お前たち助けてくれないよ」
こんな誰だかも分からない小僧の為に出てくるマフィアがいたら入りたい。
日本のヤクザですら、最近絶滅しかけて半グレが好き放題してるのに、映画の義理人情のヤクザが本当にかつていたのであれば、実に残念だと思って絶望している少年を見つめる。
びっくりするくらい赤っ恥をかいた。せっかく上着をはだけて、肌を露出させて待っていたのに、まさか粉売り少年がくいついたのは榊にだった。
きっと、あの少年は同性愛者で遊んでそうな榊にヤラナイカ的な遊びに誘われるのを期待していたのだ。そうに違いないでなければあまりにも自分がみじめじゃないかとブリジットは思う。こんな仕事柄だが、自分磨きには余念はない。片腕がない分、身体のバランスは悪くなりがちなのだ。「もしかして、腕のないウチを哀れにおもって声かけへんかったんか?」と都合よく考える事で冷静さを保つ。
ブリジットは死んだ目で榊にアイコンタクトを送る。若いボーヤとしっぽりお楽しみ。という冗談に付け加えて、元々外国人が配っていたハズなのに、既にシフトしたのか、連中のまとめ役が近くにいないか、いれば捕縛して状況を吐かせる。ここは神戸市、クロ風に言えば人を殺してもいい地域なのだ。
こういう連中は絶対に複数で動いているのが相場なのだ。下っぱ連中は頭がよくはないが、悪い事をする連中は実に頭がよくまわる。かつてブリジットが特殊部隊に所属していた時に教わった事。頭の良い連中に良いように使われないように勉強をしておけという物だった。今の仕事をして痛い程その教えはよく分かる。
連中をまとめている奴がそこそこ頭が回り腕にも自信があって欲しいなと心より願うブリジット。数時間前、芦屋における殺し屋の頂点、六麓HSの白亜を見てからアドレナリンが出っぱなっしだった。
焦ってどこかに電話をかけている少年、あれも使われる側だ。
「ねぇ、お前たちの雇い主教えてくれない?」
本気を出せば人間の頭蓋骨くらい簡単に砕ける鋼鉄の義手で麻薬をさばいている少年の口元を抑える。少し力の調整を上げる。ピキっとかミシっという感覚が伝わってくる。もう少し力をいれれば目玉が飛び出すだろうか?
声もあげれない、首を横にふるのが精一杯な少年を冷たく見つめる。今、自分に何が起きているのかも分からない。ただ、殺されるのか? というようやく自分の行いを見つめあう時間が彼にはできた。
「喋れるように力を緩めたるから、知ってる事全部ゲロしいや? ウチは素直な子は好きやけど、素直やないガキは生ごみにしてゴミの日に出すで?」
「すみません。ゆるしてください! 命だけはどうか助けてくだ……」
少年から出るのは命乞い。気が動転しているにしてもこれは酷い。酷すぎる。ブリジットは少年の口を再び握りしめてにらみつける。
もう一度だけブリジットはチャンスを与える。「次違う事喋ったら殺す」そう言って手の力を緩めた。
「雇い主は?」少年は考える。生存する為に無駄な事は言わない。「マリオって奴に誘われたんだよ。儲かるからって」
「そのマリオは何処にいるの? 連絡先、見た目、年齢。分かる事は言って」
半泣きで少年は、スマホの画面を向ける。「こいつがマリオです。お願いします助けてください」スマホを奪い取る。そして少年を蹴飛ばして「ここをまっすぐ走れば交番や、その粉もって逃げこめ」
「け、警察は勘弁してください」という少年にブリジットは一言。
「別に逃げ込む、逃げ込まないはお前の勝手や、せやけど、そんな粉売りしてた奴が逃げたとなったらお前の今の雇い主は死に物狂いでお前を探し出してもう二度と明日の朝日はおがめんくなるんちゃう?」
逮捕されている間は身の安全は保障されているという事を軽く伝える。「うわぁあああ!」と叫びながら交番に向けて走る。
「で、アンタがマリオかい?」
「良治のヘタレ、後で殺さないとダメになったじゃんか、あれでも向こうは俺の事、親友だと思ってたんだぜ? 友情を壊しやがって、ひどい事するな。でも、お姉さんと遊んだほうが楽しそうだ。両手両足の腱を切って絶叫ファックなんて最高じゃない? ハードなSMプレイ好きそうだから、ご褒美になっちゃいそうだなぁ!」
こいつがマリオか、こいつは強いな。「で、アンタがマリオかって聞いてんや? 耳遠いんか? だアホ!」その瞬間、マリオはナイフを隠してあるブーツでブリジットを襲う。
「しょーもない靴で蹴るからそうなんねん」マリオの足から出血。ブーツから飛び出た刃をブリジットは自らの靴の裏で押し込んだ。「痛ってぇ……素人じゃないな!」
こんな素人がいてたまるかとブリジットは狂気的に嗤った。




