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4−6 アンダーグラウンドアンダーグラウンドfeat. 後学の為のデート②

「―――最後は口づけをしてみんなが笑う、勉強になった」本当だろうか? というのが冬雪の感想。むしゃむしゃばりばり、ずずっ! と上映中ずっと何かを食べていたクロ、斜め前の女性は何度も不快そうにクロを見ていたが、直接言わない為結果二時間近くクロの租借音をBGMに映画を見ていた。映画の内容は、要するに身分差の恋愛という物だった。靴作りの職人である男と、良いところの令嬢が恋に落ちて~という人によっては二時間劇場で昼寝してしまうような内容である。何度か激しい濡れ場もあり冬雪は少しどう反応したらいいか分からなかったが、そんな映像もクロはフードを食べながらぼーっと眺めていた。榊に言われたとおり、勉強としてしっかり記憶していたという事なんだろう。と冬雪は考える事にした。


 クロは上映が終わり、劇場から出たところでフードのゴミをスタッフに渡すと冬雪を探し、その手を握った。冬雪からすると少し困る行動なんだが、クロなりに新人である冬雪の面倒を見ないといけない責任感なんだろう。素直でとても可愛く思えてしまう。宮水ASSの他のメンバーも同じ気持ちなんだろうと冬雪は思ったが、地面に血の跡、先ほど絡んできた男をのした場所だ。男が歩きスマホして盛大にこけたという事になったのだが……やはり彼女は平気で人を殺す事ができる殺人鬼なのだ。冬雪は、少し自分がバカバカしく思えてきた。元カノの復讐という名目ではじめて人の命を殺めた時、ひと時の高揚感とその後の空虚感。自分はいつか誰かに殺されて死ぬのだ。そんな風に悲劇のヒーローを決め込み、偶然見つけた宮水ASSの募集に飛びついて今にいたる。蓋を開ければ息を吸って吐くように人を殺せる先輩と映画を見ている自分。

「クロさん、この後はどうしますか? 食事はさすがに」と言いかけた時、クロが黙っている。映画を見に来たと思われるどう見ても目つきがおかしい外国の男が二人、こちらを見ている。同業者か? 一体何者だ? 「冬雪、普通に帰る。今はあれは襲ってこない。多分、仕事じゃないんだと思う。なにごとも起きない」

「そう、なんですか?」確かに向こうも首をひねって冬雪たちに背を向けた。

「アレは多分、冬雪よりも強い。軍人ってかてごりー、殺すのは割と手間」

 なるほど、裏稼業の人間以外で命を奪う仕事をする者の代名詞だ。この感じだとやはり軍人も手にかけた事があるらしい。

「殺しの仕方は教えたから忘れないように練習して、事務所に帰る」

 コストコで購入した荷物を事務所に運ぶ必要があると言うクロ、仕事の一環で映画を見るというのがどうにも冬雪には理解できなかったが、これで給料がもらえるのであれば文句を言うべき事でもないかと思う。ただ一つ、冬雪は自意識過剰かもしれないが、もしかすると榊はクロのデートの相手に自分を選んだんじゃないかと少し思った。クロは見れば見る程綺麗な女の子だった。

 もちろん、顔もなのだが、なんというか彼女の放つ雰囲気、着せられているように着ている普段の服、食欲に全てを振っている行動。全てが自然体、それでいて不思議と不快感を感じない。感情を失ってしまったように変わらない表情。この少女に笑顔を戻す事ができないものかと思った冬雪だったが、そもそもクロには笑顔なんてものは最初から無かったのかもしれない。生きる為に殺し奪う事しか知らなかった彼女、その背景になにがあるのだろう。

 これは、低俗な興味本位だ。

「クロさん、宮水ASSに来る前、何してたんですか?」聞いていい内容なのか分からなかったが、冬雪はクロを見つめてそう聞いた。もしかするとこれは地雷で自分は殺されるかもしれないが、こんな可憐な少女が何故殺人鬼となったのか……

「旅をしていた」

 クロは元々どこかの小屋に他の子供達といた事を話してくれた。

「そこにいるのとクロ達と殺しっこをさせる男がいた。その男もクロが殺した」普通に話してくれた。クロは何処の国の人なんだろう。

「殺したらご飯が食べられた。だからクロはみんな、みんな殺した。面倒くさかったからご飯をくれる男も殺した」

 クロは不幸話でも自慢話でもない。ただあった事を淡々と話してくれた。クロやその他子供達に殺し合いをさせていた変態が世の中にいたという事に冬雪は吐き気と感じた事のない嫌悪感を孕んだ怒りが込み上げてきた。そんな人間の尊厳を無視した行いがこの地球のどこかではいまだに行われているという事、そしてそんな胸糞悪い事件が表沙汰にならずに、その呪いを引き継いだかのようにクロが、殺人鬼“バンシー”として知れ渡っているという事にも納得がいかなかった。クロが殺した人たちの殆どは何の罪もなくクロに命を奪われたが、クロもまたそれしか生きる方法を知らなかったのだ。

 冬雪の中でえもしれぬ黒い物が渦巻いている時、クロに手をつながれた。「はやく帰ろう。今日はタマが寄せ鍋をつくってくれている」

 クロの異常な食欲はおそらくPTSDだと冬雪は確信した。

「うん、帰りましょう」

「タマに会うのは冬雪ははじめて?」

「玉風さんでしたっけ?」

「うん、中国地方人のタマ、すまほで電話をすると色々おしえてくれる。これから冬雪もタマに色々教えてもらう事があると思う。宮水ASSの要」

「そうなんですね。ちゃんと挨拶しないとですね」

 冬雪がそうクロに言うと、クロは満足したようにうなずいてみせた。車をどこに駐車したかクロが忘れているとまずいと撮影していた写真を用意するが、クロは迷う事もなく車のところまで冬雪の手を引いて案内してくれた。

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