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第68話「息子よ…」

 クァークァー……


 ミャーミャァアー…



 海鳥の鳴く声が耳に優しく届く。

 そこに交じる潮騒の音は、ゆりかごのように穏やかに聴覚を撫でる。

 スースー…と穏やかな息遣いは、良い香りともに体に温もりを与えてくれた…




 ……


 …


 うっすらと、目を開ける。

 ボゥとした視界に飛び込んだのは、すすけたはりと──垂れ下がる鍋掛けの棒が一本。


 そして、梁の奥には小さな白い酒瓶がある。

 そこに巻き付く白いヘビのような生物が見えた。


 ありゃなんだ…?


 ぼーっとした頭で見つめていると、スルスルと白いヘビの様な生き物は屋根のどこかに潜り込んでいった。


 ふと、姉貴の言葉が脳裏によみがえる

 ───神様に供えるんだ…って言って、姉貴が置いたのがくだん徳利とっくりだ。


 随分昔の事なので、中身はとっくに枯れているだろう…

 十年以上前の事──それが今もまだ、梁の片隅に見えた。




 あー…

 ポート・ナナンの我が家か…




 意識したことで体に感覚が戻る。

 ゆっくり体を起こそうとして、鈍い痛みが全身を走る。


「ぐぅ…!!」


 起き上がるのも困難そうだ…

 ビキビキと走る痛みに閉口していると──


 体の中心には、気怠けだるい重さのような物がわだかまっていた。

 まるで、誰かが乗っているような───……キナ?


「スー…スー…」


 殆ど半裸に近い恰好───薄着で、バズゥに寄り添う少女…キナ・ハイデマン。


 はかなげな印象に、溢れんばかりの母性を兼ね備えた不思議な雰囲気の女の子。

 白磁のような白い肌には、朱の射す愛らしい頬。

 それを彩るのは、銀糸のごときプラチナの交じる白髪。


 何よりも目を引くのは、特徴的な長い耳。

 それがピクピクと動いていた。

 

 幼い外見の体つきは、一応出るとこは出ているのだが、…シナイ島戦線異状なしと言った感じ。

 うん…需要はあるさ。


「あー……ドゆ状況?」


 イテテと手を動かし、額に手を当て記憶を探ろうとする───

 たしか、フォート・ラグダで…


「う…ぅぅん」

 寝起きのような声を上げるキナ。

 スッゴイ密着してるので、ちょっと動き辛いし、なんだかいけないことをしている感じだ。


 これはちょっと…

 まぁあれだ、他人には見せられない光景。

 いくら家族とは言え、薄着の女の子が一つ布団にいるのは外聞がいぶんが───…


「あ、起きた?」


 キョヌーがそびえる。


「……よぉ」

 オぱい星人こと、ジーマだ。

何処どこ見て挨拶してんのよ」

 どこって、そりゃオ───でんがな。


 ──もう、とあきれた声を出すオパー。…じゃない、ジーマだ。


「えっと、これは……そのだ、な」

 キナとナニをしてたんだ? と聞かれそうで怖い…

 何もしてないよ! ナニもしてない…! ───してないよね?


「あーあーあー…いいから寝てなさいよ…」

 あうあう、と言い訳をしそうになっているバズゥを寝かしつけると、ジーマが土間越しに腰かけて話しかける。


「熱は下がったみたいね…傷も塞がってる」

 チョ~イチョイとねー、なんて言いながら『魔力の癒し(アースヒール)』をかけて来る。

 ジワーっと体の芯が温かくなる感覚。

 皮膚の一部がムズムズとし、痒みとなって現れる。


「チチチ…う~…なんだよ? どういう風の吹きまわしだ?」

 ジーマが回復魔法を使ってくれるとは、……確か銀貨10枚だったか?


 …ふざけろよ。


「余計なお世話だ…金は払わんぞっ」

 グググと無理矢理体を起こす。

 これ以上魔法をかけられて、代金をふんだくられてたまるか!


「ちょ、ちょっとぉぉ…無茶し──」

「無茶しないで、バズゥ・ハイデマン」


 ジーマの言葉に被せたのは、眼鏡美人…

 たしかヘレナだったか? フォート・ラグダの冒険者ギルドの………


 !!!!



「フォート・ラグダ!!」



 不意にガバっと体を起こす。

 バズゥにしがみつくようにして眠っていたキナがコロコロとバズゥの上に転がる。

 まるで猫のように丸くなった彼女は、ショボショボと目を擦り…


 フワフワ~と、目を覚ます。


 そして、


 バズゥが目を覚ましている事に気付くと、徐々に目を見開いていき…叫ぶ───

「バズゥぅぅぅぅぅぅ……!」


 すがりつき、顔を埋めて泣く。


「泣ーかしたー」

 ケケケとジーマが意地悪そうに笑う。


「ちょっとキナさん…服、服…」

 チョイチョイとキナの背中を突き注意を促す。

 そしてキナはエグエグとしゃくりつつも自分の恰好に気付き…


「キャッ!」


 と小さく悲鳴を上げ、

 バズゥの布団をひったくり頭から被ってしまう。


「…どういう状況?」


 ??


 と、状況がよくわからないバズゥは、ジーマとヘレナに目を向けるが、何やら顔を赤くしている。


 ん? なんぞ?


 ジーマはチラチラと赤い顔をしきりに向けたりそらしたり…

 ヘレナもちょっと顔を赤くしつつも、バツが悪そうに…頭をポリポリ掻きながら───、


「あー…下を準備しようか」


 下?


 く?

 掃く…


 吐く?


 あ、


 あぅあぅ、

 

 パ、


 パパパパ、


「履物はどこやねぇぇぇぇぇんん!!!!」



 全身に包帯を巻いただけの誰得な格好のオッサンが港町で叫んだ。

 しかも、何故か「超元気」!!!

 

 ……


 もっかい言う、超元気ぃぃぃ!!


 ───


 キナちゃぁあん…布団返して~~~!!


 ……


 …


「なななな何事っすか!?」

 ドタバタと足音も荒くカメが飛び込んでくる。


 そこには、元気な「アレ」やら…コレやらと、顔を赤くした女性二人と、薄着で布団を被るキナの姿…


「し、失礼しました」

 パサっと、垂れ幕を降ろして下がろうとするカメ。

 いやいやいや、この状況で放置しないでよ!

「待てカメ! 行くな!」


 呼び止める声にきびすを返し始めたカメが止まる。

 そして、ギギギと首だけ向けると、もう一度、バズゥ、キナ…ヘレナ、ジーマ、バズゥの股間──顔の順で見る。


修羅場しゅらば?」


 ボソっと零すカメ。


「ちゃうわボケ!」

濡場ぬれば?」

「ちゃうわぁぁ!!」

「4……ク…」


「殺すぞテメぇ…」


 まったく…

 状況を説明したまいよ!


 って…

 ───お前はいつまで「元気」やねん!!!


 叔父さん、そんな息子に育てた覚えはありませんよ!

 




 あーーーーー!!!







 履物よこせぇぇぇぇぇぇえええ!








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