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第64話「フォート・ラグダ攻防戦(接近戦)」



 両手で持った鉈を大上段に構え…──────振り下ろす!



 グシャっ! と、砕ける頭蓋の感触がき手に伝わる。

 完全に切り落とすには至らないが、オリハルコン製の鉈は強力無比! 頭蓋を叩き割ることならば可能───

 即死させるには威力不足だったが、目的は数を減らすこと。

 息の根を止める必要はない。


 次ィ!!!


 キングベアの反撃に備えて今のうちに数を削ぐ。

 トドメはいつでも刺せる。


 今は…


 虫の息でも、重傷でも、行動不能でもいい!

 足を止めさえすれば…、こちらに反撃の機会さえ失わせれば俺の勝利だ。


 そうして最後尾を叩きのめしたバズゥ、それに対して流石さすがにキングベアは驚く───が、その行動は早い。


 恐ろしく早い!


 後方の一団がクルリと向きを変えると、気配の希薄なはずのバズゥに気付く。

 臭いが完全に消せない以上、熊の嗅覚を誤魔化せるはずもなし。


 その匂いを頼りにすれば、意識を逸らすだけの隠蔽いんぺいスキルはようさない。

 一瞬のうちに敵意がバズゥの体を貫く。


「ちぃぃぃ!! さすがに甘いか!」


 鉈を振り上げたものの、攻撃態勢に入ったキングベアの集団にまともに突っ込めばグチャグチャにされておしまいだ。


 地羆グランドベアとはけた違いの攻撃力と硬さを誇る熊集団。

 おまけにおつむも悪くはない。


 バズゥが飛ぼうが、伏せようが、下がろうが、的確に動きに追従するだろう。

 しかも、ここは見通しの良い街道上。


 身を隠す障害物も無ければ、盾とする木立こだちもない。


 周りには死体や馬車の残骸が少々ある程度。

 そんなものはキングベアの障害足りえない。


 戦場の常。

 地形の活用、現地資材の拾得しゅうとく


 ここではどれも使えない!

 くそぉぉ!


 逡巡しゅんじゅんする間に一匹がおどりかかる。

 それは、完全にバズゥを捕捉した動きだ。

 最早もはやスキルによる隠蔽いんぺいは効果がないらしい。


 うなりを上げる腕の一撃が目前に迫る。

 それをゴロゴロと転がりかわすが、大きく姿勢が崩れた。


 好機と見た別の個体が、覆いかぶさるように後ろ足で立ち、バズゥに前足をぶつけんとする。


 ───ぐ、これはかわせない!!!


 バッと腰に差しておいた銃を左手で抜き、手にする。

 まるでラッパのようなそれは…

 銃身を抜き取った後の、元「奏多かなた」だ。銃身上の「多」の字が抜けたため、「かな」となったそれは、ピストルのような外観で、銃口だけはデカく不格好そのもの。



 そいつを抜き出すと───



 ズパァン!!


 められていた弾丸が至近距離で炸裂。

 おおいかぶさらんとしていたキングベアの心臓を突き破った。


 ──ゴフゥと…血をふき出したキングベアはゆっくりと背後に倒れる。


 やはり、銃は強力だ。


 再装填するべく、鉈を口で加えて両手を開放。

 倒れた姿勢のままポケットから紙薬莢を取り出すと、鉈をペッ吐き出し、起き上がりざまに紙薬莢の端を口で破り切る。


 吐き出し捨てた紙屑を尻目に、

 火皿を開けて、紙薬莢から少しだけ火薬を注ぎ、残りを銃口に入れると──申し訳程度に突き出している槊杖かるかを取り出し、サッと包み紙ごと弾丸を押し込む。


 短い銃身のこともあり、装填にかかる時間はかなり短縮。

 

 ───アッと言う間だ。


 しかし、それでも隙はできる。

 かわした後方の個体がきびすを返し突進…別の個体群と挟み撃ちの態勢を作る。


 ちょうど、やり過した集団と挟まれる形のバズゥは、臆せず前に出た。


 さきほど吐き捨てた鉈を拾い、左手に持ち替えると───振りかぶってぇぇぇぇ、ぶん投げる!!!


 ギュンギュンと回転しながら集団に突っ込む鉈は、一頭目にはかわされるが…その後方の個体には、突然の出来事だったのだろう。


 なんだ? と考える間もなく──ゴキィィンと頭部をしたたかに打つ。


 いびつな軌道を取った鉈はふわっと宙を舞った。


 そこには血も肉も付いていない。

 キングベアを傷つけることは叶わなかったようだ。

 

 激しく回転していたため刃の部分ではなく、の部分が当たったらしい───それでは、致命傷でもなんでもない。

 せいぜい、重い石くれ(・・・)をぶつけられた程度、頭を振るくらいの時間で立ち直る。

 だが、バズゥにはその隙で十分だった。


 覇王軍の前線を偵察した時に比べれば、熊の群れに突っ込むくらい…訳もない───!!

 と、自分を奮い立たせて突っ込むバズゥ・ハイデマン。


 鉈の軌跡を追うように吶喊とっかんすると、最初になたを躱した個体の頭を飛び越え、その背を踏む。


 踏み台にぃぃ!?


 見たいな顔をしていたが…知らん。

 さらに一跳躍! キングベアの集団にまともに飛び込む。


 そして、宙に浮かぶ鉈を手にすると左に持ち、右手は銃を───


「せぃ!!」

 

 ズパァァンと、ちょうど真ん中にいたキングベアに発射!

 その背中を撃ち抜く!


 グゥォォォ!!! と苦悶の声を上げるが即死には至らない。

 そんなことは百も承知だ。


「うらぁぁぁっぁぁ!!!!」  

 傷つき動きの鈍ったキングベアに後ろ向きにまたがると、鉈を銃の開けた傷口に叩き込む。


 叩き込む、


 叩き込む、


 叩き込む、


 おおおおおらあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…!!!


 叩く、


 叩く、叩く、叩く!!!


 グォォアアアアアア!!!


 バタバタと暴れるキングベア!

 あまり激しく暴れるものだからバズゥも振り落とされそうになるがスキル『姿勢安定』で耐え切る。 


 そして明らかに致命症に近い傷を作ってやると、飛び降り次の個体へ!


 これで何匹だ!

 と見まわすと、絶望的に近い数…


「く!」


 5匹を仕留めるか、致命傷を負わせたが…まだキングベアは倍以上。

 思ったよりき付け過ぎたらしい。


 だが、まだまだ!!!


 バズゥを手ごわい相手と認識したのかキングベアは遠巻きに包囲し、軽々に突っ込んでは来なくなった。

 それでも、諦めるはずもない。


 隙を見せれば一気に突っ込んでくるだろう。

 悠長に弾を込めさせてくれるはずもなし…


 くそ!


 ジャキっと鉈を構えて見せるが、膂力りょりょくで敵わないキングベアに真っ向から立ち向かったとしても押し負けるだろう。

 所詮は人間にすぎないバズゥがキングベアを仕留めるのは、銃か…あるいは不意を衝くしかない。


 しかし、考える暇もなくキングベアが動き出す。

 やはり獣故、こらえしょうがないのか…集団の中でも比較的若い個体がバズゥを食い殺さんと雄たけびを上げて吶喊とっかんする。


 それに遅れる事、数瞬。

 包囲環が崩れる───


南無三なむさん!」

 かなに銃剣を取り付けると、鉈と合わせて二刀流にするが…それで防げれば苦労はない!


 若い個体がバズゥに殴り掛かる様に突進の勢いのまま前足を振り抜く。

 それを鉈を銃剣を交差して辛うじて受け止めるが──


 ズガァっと、すっさまじい衝撃!


 吹っ飛ばされはしないものの、ガードが解け万歳の状態。

 そこに背後から別の個体が突っかかり、背中に痛撃!!


 受け身も取れずにゴロゴロと転がされ、若い個体の足元へ倒れ伏す。


 その個体と目があった時に、殺気と食欲を同時に感じた。


 ボタボタと顔の前にしたたり落ちる熊の唾液───

 

 うぉぉぉぉ!!! 

 し、死ぬ!!!!????


 熊の獣臭が鼻腔いっぱいに広がったかと思うと───若い個体が噛り付く。


 ブシュ!!


 脇腹の一部と、軍服がビリビリと破り割かれて血が噴き出す。


「ぐあぁぁぁっぁぁぁ!!」


 グンっとくわえられて…持ち上げられる。

 肉は剥がれて、服の一部で奴の口と繋がった状態。


 離せ!! と、両手の武器を振り回し、奴の鼻先や服を切り裂く。


 無茶苦茶に振り回す、腕に持つ鉈に銃剣が、ザクザク! ブチブチ! と服をやぶきボロボロにして、ようやく千切れ落ちた。


 鼻先も叩いてやったが、平気な顔をしてバズゥの一部を喰らい、咀嚼そしゃくする。


 奴がモッシャモッシャとかじるのは上着の大半と、肉の一部──ぐぅぅ…いってぇぇっぇ!!!


 こ、この野郎…!!


 ポケットに入れておいた紙薬莢も奴の口の中だ。

 あぁぁぁざけんなよ!

 いってぇぇだろうが!!


 この野郎…!

 ああぁぁぁ!


 美味いか! えぇ?!

 もっと味わえ熊公がぁぁ!


 開いた口に向けてスキル発動───

 『点火』!!


 天職レベルMAXの『点火』だ。

 ちょっとした魔法並みに強烈な火種を生むことができる! 勿論もちろん火種ひだね以上の効果はないが…


 十分だ!!


 ───ボォォン!! 


 と紙薬莢が誘爆、バズゥの鼻先でキングベアの顔面が爆発する。

 ベチャベチャと降り注ぐ血と硝煙の匂いに、さすがにキングベアも肝を冷やしたのか、行動が鈍る。

 

 この状況での反撃など思いもよらなかったのだろう。


 ドクドクと流れる血に、顔をしかめながら立ち上がると、足にかじり付こうとしていた一匹に、鉈で切りかかる。


 驚いて動きが硬直していたとはいえ、そう易々(やすやす)と切られるキングベアではない。

 素早く身をひるがえすと、バズゥの一撃をかわす。


 だがそれで十分。

 別の個体も、多少は警戒している。それでいい…


 一瞬の猶予ゆうよさえあれば今はそれでいい。


 猟師を舐めるな!!

 と、

 ガンッ! とばかり、鉈を地面に突き立て、銃剣を引き抜き、かなを手に正眼に構え───



 ふぅぅぅ……



 コツン、と一度(ひたい)に押し当てる───



 ッ!



 『急速装填』『冷却促進』『姿勢安定』『反動軽減』『刹那の極み』ぃぃぃぃ──────『速射』ぁぁぁぁ!!!


 残りわずかとなった早号はやごうを取り出し、左手の五指にはさむと…手のひらには茄子なすび型の火薬差し───、


 右手は銃を構え機関部の撃鉄を操作し火皿を開放(ハーフコック状態)すると───火蓋の操作のみに特化。

 そして、口には短い槊杖かるかくわえ───、


 小指と薬指に挿んだ、早号はやごうのコルクを銃口で切り飛ばす様に外すと中身を投入──口に咥えた槊杖かるかで一押し…手のひらに浅く握り込んだ火薬差しから火蓋に火薬を盛り付け───、


 撃鉄を起こす(フルコック状態にする)と──、


 間髪入れずに引き金を引くぅぅ───ズパァァン!!!


 ここに来て、キングベアは隙を与えてしまったことにようやく気付く。


 ノロノロとしか動けず、大した牙も持たない人間だと、

 あの長い武器さえなければ、無力だと、

 多少は抗ってみせるも、たかだか餌だと、


 そういったあなどりがあったこては否めない。

 手には武器を持っているが、大したものには見えなく、ましてや、短銃身ゆえの頼りなさ。


 それがどうだ? 装填の速さと、この取り回しの速さ!

 キングベアをして意表を衝かれた思いだったに違いない。


 そして、当初は無策の中でも、少しずつ最善手を探っていたバズゥは、この絶妙な距離を狙う。


 かなは銃身がないにも等しいほど短い。

 おまけに弾の口径が大きいものだから、威力はあるが命中率は恐ろしく低い。


 ほとんど近距離でしか使えないのだが、この距離なら理想的。


 事実、発射弾はキングベアの一頭の顔面を粉砕!

 めっちゃくちゃに砕く!


 激しい動きさえしなければ火薬をこぼすこともない。

 流石に動きながらの装填は無理があるからだ。


 故にキングベアの勝ち目があるとすれば常にバズゥを動かし続ける事…


 しかし、事ここに至り彼らの選択は、遠巻きに包囲という最も間違った選択をした。

 銃士として…猟師として完成域にあるバズゥは銃を扱えば一級の腕前。


 その、完成された猟師の間合いに…自ら飛び込んだような物。


 通常の銃士の何倍もの速さで装填と発射。

 銃の性能と口径のデカさ、的の大きさと半端な数。


 それがキングベアの悲劇だっただろう。


 もし、バズゥの相手が人間だったらならば───もっと違った戦いになっただろうが…やはり獣だ。


 伏せる、射線を逸らす、遮蔽物を活用する…

 たったそれだけで回避できる銃撃に、愚直に対抗するしかない悲しきさが


 ジリジリと間合いを図っているキングベアに対し、バズゥは立て続けに銃を操る。


 スゥゥゥゥゥ……


 ───おおおおおぁぁぁ!!!

 

 『急速装填』『冷却促進』『姿勢安定』『反動軽減』『刹那の極み』『速射』!!!

 早合装着、弾丸装填、槊杖カルカで突き固め、撃鉄起こし、火皿へ火薬をぉぉぉぉ!!


 発射ぁぁぁっぁ!!!


 ドパァァァン!!!!


 次!


 装填発射


 次、次ぃ!


 装填発射装填発射ぁぁぁ!!!


 『急速装填』『冷却促進』『姿勢安定』『反動軽減』『刹那の極み』『速射』

 早合装着弾丸装填槊杖カルカ突固撃鉄起──火皿へ火薬!!


 発砲音のあと、キングベアも黙ってやられるはずもない。

 素早く攻撃に移るが、連携などどは言い難く、五月雨式の各個の行動に終始する。


 それをバズゥが見逃すものか!!

 

 ───狙って構えて、……順次発射ぁぁ!


 ズパァァン…!

 

 ドパァァン…!!!


 ……


 …


 立て続けに鳴り響く銃声のあと──


 手持ちの早号はやごうを全て撃ち尽くした時には残るキングベアは最後の一頭になっていた。


 コッフコッフ…


 目の前で起こる殺戮に、一歩も動けなかったのが幸いしたのか、そいつは荒い息を付きつつもバズゥを睨み据えている。


 周囲には、散発的にバズゥに襲い掛かったがために順繰じゅんぐりに撃ち抜かれた死体が散乱。

 見事に放射状に散らばり…そのあわれな姿をさらすに至った。


「悪く思うなよ…」

 

 脇から、ドクドクとあふれる血のため、若干青くなった顔でバズゥは語る。


 キングベアは当然答えるはずもなく、息を荒くしてバズゥと睨み合う。



 彼が草食動物だったなら逃げただろう。

 彼が地羆グランドベアだったなら逃げただろう。

 彼がたけき成獣となっていれば逃げたであろう。



 彼はどうしても、まだ幼く若く青かった。


 誇り高き、森と山の王だった…



「ケリをつけるか? 『王』よ」

 だからバズゥも認めた、こいつもまた『王』であると。

 誇り高き王の一人であると。


 こいつだけは他の個体と違いやや離れた位置にいるため、かなの命中圏外にいる。

 今撃ったとて、命中は五分五分といったところ…


 どの道、今銃の中はから──

 弾を装填する必要がある。


 早号はやごうは使い尽くした…今あるのは物入の中の弾のみ。


 そのため少しでも時間を短縮するために、紙包み入りの連合銅貨の梱包を使う。

 奴の目の前で火薬を注ぎ、連合銅貨の包みを少しほぐして銃口へ落とす。

 それを槊杖かるかで軽く押し込み、槊杖かるかは元に戻しておく。


 この一発でケリがつく。


 外せばバズゥが死ぬかもしれないし、

 当たれば奴が死ぬ。


 どのみち…銃を撃つ機会はこれで最後。


 満身創痍で弾もほぼ尽きた状態で、フォート・ラグダの援護もなにもあったものではない。


 コフーコフー…


 さっさと攻撃すればいいものを、まるでバズゥが弾を込め終わるのを待つようにキングベアはその場から動かない。


 ふ…


 いや、わかる。

 奴は本当に待っているのだ。


 銃の仕組みを知っているとは思えないが、

 バズゥの動作が攻撃のソレだと知っているのだ。


 例え彼がその動作を邪魔せんと襲い掛かってきても、スキルを交えた装填動作であっという間に準備が整う。

 今時間を掛けているのは、ただの感傷のようなもの。


 人が決して失ってはならない、憐憫れんびんの情ってやつだ。

 キングベアのその命を───頂く…


 その儀式の過程を、噛み締めるように行っているだけ。

 軍事行動なら唾棄だきすべき無駄といわれるもの。


 撃鉄をハーフコック状態にすると、パコっと火蓋を空け、火薬を注ぐ。


 そして、ひうち石を調整する。

 何度も連続射撃したがために、それは磨り減っていた。

 次かその次くらいで不発が出てもおかしくはない。だから、ひうち挟みのネジを緩めて、少し磨り減ったソレを前に押し出し再び挟み込む。

 

 そして、撃鉄を起こし切りフルコック状態にする。

 あとは引き金を引くだけだ。

 最後に、銃剣を再び取り付ける───


 コッフ…フ…グルルルルルル…

 終わったか? とそう言いたげな様子。


「あぁ、待たせたな…」

 スチャッと構えると、両手で支えるように持ち…構える。



 街道上、目まぐるしく前後左右が入れ替わった戦いで、───今、バズゥはポート・ナナンに続く街道を背に、正面にフォート・ラグダを目にして立っていた。



 対するキングベアは、フォート・ラグダを背に…まるでそれをまもろうとするかのように、立つ。


 グルルルルルルルウルルゥゥ…………───


 ふー…ふー…ふー…


 息が穏やかに…肺の膨らみに合わせて胸が上下する。


 哺乳類は息を吸っている時には若干行動が遅れる───両者それを狙って…いや、狙っているのはキングベアだ。

 バズゥの打つ手はひとつしかない。

 基本…相手に先手を取らせての、カウンターだけだ。


 接近して撃つという手もあるのだが…短銃身ゆえ、命中率はクソの様に悪い。


 動きながらでは恐らく当てるのは難しい。

 五体が満足なら、次の手も打てるが…負傷した身ではキツイだろう


 ポーションを使いたいところだが、あれとて一瞬で回復するわけではない。

 下手に使うと、回復してから戦いたいという欲が出る。

 今はその時ではないだろう。

 我慢してでも、一発に賭ける。それが最も正解に近いはずだ。

 


 さぁ…こいよ!


 親と兄弟の仇はここにいるぞ!!



 グゥオオオオオオオオオオオ!!!!!!!



 キングベアはえる。

 吼えると同時に駆けるようなことはしない。こいつは優秀だ…吼え声すらブラフに使う。 


 前足で地面を掻く動作もブラフ…


 そうだろ?


 お前の突進力は後ろ足だ。

 そこから生み出されるはずだ…


 俺は見ている。

 その足に力がこもる瞬間を…


 体を波打たせて見せる。

 毛を逆立てて見せる。

 頭を下げて見せる。


 ブラフ

 ブラフ

 ブラフ


 、


 、


 、



 ッ

 音がした。

 何か巨大な破裂音…



 

 キングベアはそれに、気を取られる。

 バズゥもわずかに意識をそこに向ける。

 

 いや、

 キングベアは、何かに気を取られたように、ソッポを向いたように見せた瞬間───


 後ろ足にめた力を爆発させる!!!


 ブラフの集大成は、現実に起こった出来事を囮にした一瞬の隙だった。

 たしかに、フォート・ラグダで何かが起こった…!?


 それは何だ!? と考える間もなく───グゥゥオオオオオオオオオオオ!!!


 チィィ、射線がズレたぁぁぁぁぁ!!! 


 ググググと、腕を動かし射線をキングベアに向ける。

 撃ちたくなる衝動をこらえる。

 フリントロック式は、火縄銃に比べてわずかに発射のタイミングがズレる。

 未来位置に弾を送り込まねば外しかねない…


 キングベアが真っすぐには突っ込んでこなかったが故に───わずかに三日月のような弧を描く湾曲した突撃軌道!


 射線が合わない…


 コイツ…学習した!?


 うぉぉぉぉ!!!

 ち、近い!!!


 バズゥから見て右側に回り込むキングベア。

 両手で構えていたせいで僅かにその軌道を追うのが遅れる。


 くぅぉおおおお!!

 叫び、片手で狙う。

 銃身を横に倒し──剣でぎ払うように…銃口が右へ右へと流れていく。 


 当あぁぁぁっぁ、たぁぁぁぁぁっぁ、れぇぇぇぇぇぇえぇ!!!!


 指呼の距離。

 奴の体臭が鼻を衝く。

 グワバと開いた口に、唾液が糸を引く様まで見える。


 その口に、銃剣付きの銃口が飛び込む───


 引き金を引く瞬間と、奴が口を閉じる一瞬が交差する。


 どちらが早いか──





 おあおああああああ!!!!

 グオオオオオオオオ!!!!





 ヒュルルルルルウルルルルル…………ゥゥッゥゥ……


 その瞬間を邪魔したのは無粋な、空気の擦過音さっかおん

 どちらの動作が早いも何もない…適当に点火した信管付きの榴弾が落下し死に絶えたキングベアと、瀕死や行動不能にのなっているそれらの中に着弾。


 生きていた一匹の頭部を潰して減速。

 ドォォンゴロロロロロロロ……と、くすぶる信管の火が、尾を引くように両者の方へと転がってくる…


 命と勇気と刹那さつなのやりとりをしていた両者を無粋に切り割くように──────





 ───ッッ、ドォォォォォォォオン!!!




 



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