第56話「フォート・ラグダ攻防戦(狙撃)」
普通の銃ならば───
バズゥの持つ、火縄銃とフリントロック式のマスケット銃。
これはシナイ島で出会った、軍に付いて回る流れの鍛冶屋であるドワーフに発注した特注品。
──オリハルコンにミスリル…その他諸々と、口が裂けても普通の銃などとは言えない代物。
高性能かつ、高価で、高度な品…
この銃があるから戦える…故に、勝算もあれば、自信も、根拠もある。
鍛え上げた腕と、勘と───銃…
誰もが無理だと考える距離からの、遠距離狙撃であっても──
常識的に考えても無理…と言われても──
それは、基本基礎に照らした場合であり、普通ならば、だ。
そう…
普通の銃ならば──だ…!
バズゥは、猟銃を2丁とも地面に置くと、マスケット銃タイプの「奏多」に触れ、槊杖を引き抜くと地面に立てる。
そして、木製の台座にある留め具を引き抜くと、台座が根元付近から外れた。
台座の根元には、何故か小さな槊杖が申し訳程度にチョロリと顔をのぞかせていた。
サイズ的にはピストル用だろうか?
バズゥは、その槊杖には気も止めず…
銃身だけで不安定になったそれに、力を籠めると───
コキュ…
と金属を擦るような音。
それを聞き届けると、当たり前のように銃身を回していく。
すると、何ということか…銃身が固い金属の音を立ててギュキギュキキキと機関部の根元付近で左右ブッ違いになり外れていく。
そして───
グポン…と、
籠った音を立てて外れた銃身。
マスケット銃タイプの「奏多」は、銃身の部分で別れて「奏」のみとなり、一方の銃身には「多」の文字が残った。
それを地面にソッと置くと──
ボロ布を取り出して、火縄銃タイプの「那由」の銃口に突っ込み、ネジ溝の汚れを拭っていく…───ボロ布には真っ黒な火薬の燃えカスが付くが、ネジ溝はあっという間に綺麗になった。
それを確かめると、地面に寝かせた銃身「多」を取り上げ──
バズゥはこの銃身を火縄銃タイプの「那由」の銃口に捻じ込んでいく。
「那由」の銃口付近に設けられていたネジ溝と「多」に刻まれているネジ山は完全に一致し、綺麗に収まる。
そうしてバカ長い銃身を持つ「那由多」が手元に残った。
こんな長い銃身にどうやって装填するのかって?
もちろん、槊杖にも工夫がある。
「奏多」と「那由」の槊杖にも、キチンとネジ山とネジ溝があり、一本に連結可能───
銃身長が4mちかくにもなる、笑っちゃうくらいブチ長い銃身に弾丸を突っ込むためには絶対に必要だからな。
地味だが、オリハルコン製の槊杖はこれほど長くなっても、そう簡単に折れ曲がることはなく──これ単品で実はかなりお高い…
準備を整えると、かなり短くなった、元「奏多」である「奏」を腰の前に突っ込んでおく。
さぁ、第二ラウンド開始だ。
───キングベア達よ!! 人間様を、舐めるなよ…
目を細めたバズゥは不敵に笑う…
スーーーー……
ジャキッッッ!!
と、バカ長い銃身に振られることなく、重さを感じさせないかのように安定した姿勢で構えて見せる。
スキルは多重発動。
『姿勢安定』『反動軽減』『冷却促進』───……
そして、
狙撃時に活躍する『鷹の目』:望遠鏡の様に遠視可能
さらに、
『刹那の極み』:狙撃時に限り脳内処理速度向上(時間を遅く感じさせる)
加えて、
『鷲の爪』:着弾点を表示(概ねの着弾点を示す)
これらも多重発動する。
かなり身体的疲労を感じるが、まだまだ許容範囲だ。
スチャッと構えた銃は恐ろしい精度で安定、バズゥの視線の先に───望遠鏡でも覗いたかのように視界を遠視させ、正門に体当たりしているキングベアの姿が、ありありと見えた。
その間、水の中にいるかのように空気の流れが遅くなったように感じ、周囲の音が間延びする。
ドロリとした空間にいるかのように、まるで時間経過が半分以下に遅くなったように感じる、が。思考はクリア、時間が10秒経つ間にバズゥの脳内では20秒が経過するかのよう。
その時間経過の感覚を利用してゆっくりと狙いを定める。
照門と、「多」の銃身部分を継ぎ足した先の照門と一致──その先を見通し、照星と合せてキングベアに狙いを付ける。
そこに、赤い線のようなものが伸び、ピタリとキングベアの頭部にくっつく…それは小さく細い赤い線だ。
弾道を示すようなソレは銃口からまっすぐ伸び──死神の口づけの用に彼の者の頭部に薄くキスをしている。
これらスキルの補助を受けつつ、バズゥは己の経験と、知識と、腕に慮ることも忘れない。
所詮はスキル…ただのオマケだ。
故に最後に頼りになるのは、己が技術!
細く息を吐き、体の微動を抑える。
フゥゥゥ…
スゥゥゥ…
狙いは正確───
『鷲の爪』は、キングベアの頭部にピタリと合わさる。
だが、バズゥの呼吸はそれを良しとしない。
人間の呼吸、筋肉の微動、手の震え…それらがわずかにブレとなり、照準を狂わせている。
だから、その瞬間を待つ。
必中の時、呼吸、筋肉、震え…それらの周期が一致し、止まる瞬間───
……
…
今! ──ズッギャアアアアアアァァァァッァァァァァッァンンン!!!
コトリと引き金を引いたかと思うと、すぐ発射の手応え。
考えるより体が先に動いた。
そして、刹那の先に「グォォォォォ!!!!」と、正門に群がっていた2頭が倒れ伏す。
一頭は狙い違わず、奴はバズゥの獲物であり───…命中した弾丸により頭部が爆発。
もう一頭は───弾けた仲間の頭骨…その骨片と、頭部で威力減衰した弾丸の飛び出た物が命中した。
運の悪い奴だ。
腹に当たったのか苦し紛れに滅茶苦茶に暴れて仲間と激突している。
こいつはもう無視していいだろう。
…次ぃ!
バカの様に長い銃を振り回し、手の中で弄び滑らせて銃口を自らに向ける。
スキル多重発動!!!
『急速装填』『冷却促進』『速射』ぁぁぁ!!!!
火薬差しから火薬を多めに銃口に注ぎ込み、早合ではなく紙薬莢をポケットから足り出し、端を口で噛み破ると──火薬と弾丸を中へ注ぎ込む。
カラカラカラ…コォォーーと粉が転がっていく音を聞き届け、銃口に残った紙包みごと銃弾をガリガリガリぃぃッと、バカ長い銃身に、バカ長い槊杖をバカ速く突っ込み、押し込んでいく。
体全体を使い、銃を地面に委託し槊杖を底に押し付け──ガンガンと弾丸と火薬を密着、突き固める。
そして、シャリリリィイィィ──と、素早く槊杖を抜き出すと地面にブッ刺しておく。
銃を構えるとぶん回し、銃口を前に、銃床を体に向けて───今度は火薬差しから点火薬を火皿に注ぎ込む。
入れ終われば、パチリと火蓋を閉じ──暴発防止。
激しい動きで外れた火縄を拾うと、消えかけの火に息を吹き掛け火を落ち着かせると、火縄挟みに載せて固定───
スチャッと構えて、再び照準っっ!!!
『姿勢安定』『反動軽減』『冷却促進』『鷹の目』『刹那の極み』『鷲の爪』!!!!
火蓋を開放───
今!!!
ズッギャアアアアアアァァァァッァァァァァッァンンン!!!




