第41話「地元じゃ最強」
酒場に戻ると、ジーマの席には顔面を真っ赤にはらした仲良し3人がオロオロしている。
そして、キュヌー魔法使いことジーマがどんよりとした顔で突っ伏していた。
男3人は、手のひらの形に腫れ上がった顔。
ケントがアワアワしながらもジーマを慰めようとしているが、机に突っ伏したジーマは肘でシッシと追い払い顔を見ようともしない。
バ~カ。
フっ、と笑うバズゥの気配に気付いたのか、ジーマの奴は顔だけバズゥに向けると──粘つくような鬱陶しい視線でバズゥを詰問するように睨む。
あんだよ?
キナに盆を返すと、カウンターに腰かける。
酒はまだまだ飲み足りない。
今日の一品料理はなんだろうね。
「キナ。熱燗とツマミ頂戴、あと魚醤のパスタね」
ジーマの視線を背後に感じるが、知らん。
「あ、バズゥぅぅ…うん…」
キナはキナで赤くした顔でモジモジしながらも、徳利と御猪口を差し出す。───なんでキナまでモジモジしてんのよ? なんかしたっけ?
コトッと、カウンターに置かれる陶器製の徳利。蓋替わりに置かれた御猪口からは芳醇な香りが漏れている。
余りこの辺の地方では見かけない飲みかたで、酒を温めて飲むというやり方だ。
朝夕が冷える時期には有り難い。
徳利から注ぐ酒は透明に近い。
濁酒の濁り成分である、穀物の成れの果てをしっかりと漉しとったものでひと手間掛かっている。
そうしないと焦げ付くうえに、甘みが妙に舌に障るまずい酒になるのだ。
コトリと置かれたツマミは、獣の筋肉を堅葉のハーブと一緒にじっくりと煮込んだもの。
普通なら硬くて食えたものじゃない筋肉も、時間を掛けて魚醤と水飴などで時間を掛けて煮込むことでトロトロの食感になる。
「大海獣の筋煮込みです」
すっかり酒場の女将の口調でキナが言う。
ついで小皿に盛った芥子をチョンと置いてくれた。
そして、小ぶりな丼に盛ったパスタを差し出す。
「魚醤のパスタです」
プンと一瞬だけ、海獣由来の油が鼻を衝くが、嫌な匂いではない。そこに魚醤の香りが合わさって複雑で独特の香気を放つ。
海獣の背油が浮き、透明の膜を張り、その下に縮れたパスタがのたうつ。
そうそう、これこれ!
一般的なパスタとはまた違った味わいの、我が家の特性パスタ。
戦場で彼方此方を巡ったが、これと同様のものは出会ったことがない。
一応作り方を知っていたが、材料がなかなかそろわない上、出汁を取るのに時間がかかる。
───そう言えば、戦場でエリンと頑張って再現しようとしたっけ。
思ったようには作れなかったけど、それでも美味かった。
「おいしいね」と笑うエリンの顔と共に思い出す。
パスタに張る透明の油の膜に、一瞬エリンの面影が見えた気がした。
このパスタも絶対美味いに違いないが、あの戦場のパスタもまた違った味わいがあったな。
シミジミとパスタを見つめるバズゥに、キナが不思議そうな視線を寄越している。
そして、なにやら冒険者どもの羨ましそうな視線を感じた。
ん?
何? どしたの君たち?
お金がないので酒も飲めないのだろう。
ジーマとケントはメシ代の返済は済んでいないとはいえ、今日の仕事は熟している。
ツケは残っているとは言え、全額今すぐ出せとは、流石に言わない。
だから、その金を使えば多少なりとも飲めるだろうが、ジーマ自身が何かに心折られたようで酒を飲む気にもならない様だ。
他の連中は、ほんの一握りの依頼達成者を除いて、酒が飲めずに閉口している。
いつもならキナに集っているのだろうが、バズゥの目が光っているので手が出せずに──ギギギギギギ、と唸るしかできない。
いや、そんな睨んでもやらんぞ。
と…よく見りゃ、いつの間にか増えた漁師どもが酒を飲んでいやがる。
ジーマやケントを警戒しているようだが、冒険者が随分と減ったので多少なりとも心に余裕があるのかいつもより多めの酒と注文でグビグビとやっている。
はっはっは。
飛んで火にいるなんとやら。
今日は絞り出してもらうぞ。
キナ──と、目を向けると首を軽く振る。
お代はもらっていないと、さ。
まぁ、まだ帰る前だしな。
帰る時に無銭飲食したら───上等だぜ。
冒険者連中でさえ、バズゥにビビッて酒を集れない。
だが、村の連中はバズゥのことを知っていても勇者小隊やら勇者のことは、知識として知っているに過ぎない。
詳細を知っている者がいたとしても、ちょっとした村の有名人くらいの認識しかないのだろう。
そんな、遠い世界のことよりも気弱な女将や、ハバナのような地元権力者の方がよっぽどの関心事項。
御国もこんな田舎まで、一々査察に来るわけでもなし…
精々王都で、「勇者」「勇者」と持て囃すだけ。
地元が湧きかえったのは、御国から偉い人が来た時くらいなもの…閉鎖的な村だ。まぁそんなもんだろうさ。
誰も彼も、遠い世界の出来事などどうでもいいのだ。
知って聞いて見たとしても、自分の日々の生活に追われて気にもならない。
だから、キナが困窮していても助ける気も無ければ、便乗して集っても罪悪感すら沸かない。
本当に自分勝手なやつらばっかりだ、うんざりするぜ。
クサクサした気持ちで漁師の動向に気を向けながらも酒を飲む。
キナの酒は本当に旨い…
勇者小隊の時やら、何やらで結構な高級酒にあり付く機会もあったが…これが一番旨い。
筋煮込みを頬張りながら、芥子を舐める。
口の中で複雑に絡み合い、筋肉の甘味と魚醤の塩辛さがよく合う。そしてそれを優しくまとめる堅葉ハーブの風味が鼻に突き抜け実にいい。
芥子を加えるとまた違ったアクセントを与えて飽きが来ない。
なるほどな…こんなうまいツマミと酒を毎日集れるなら、冒険者どもが離れようとしない気も分からなくはない。
だが、俺の目が黒いうちは無銭飲食は許しません。
例外を除いてツケも同様!
ま、今はできるわけもないがな。
はっはっは。
さて、お次は、
魚醤のパスタは、音を立てて一気に啜るに限る。
威勢のいい音に、冒険者や漁師が眉を顰めた。
ズズズと、音を立ててパスタを啜るのはやはりご法度らしい。だが、知らぬ。我が家のパスタはこうやって食うものだ。
キナもニコニコ顔。
小振りに椀に移し分けると、チュルルと可愛い音を立てて啜る。
そして───ほぅ、と…幸せそうな吐息。
我が家のパスタ、旨いよね~。
──ヌーハラ? 知らんがな。
追加で、風呂で食べた煮豆と漬物を出してもらう。
ザワークラウトではなく、塩漬けのキャベツと昆布を一緒に漬け込んだもの、それにズッキーニの塩付け、カブの薄切りの塩漬けだ。
ん? 塩漬けばっかだなって?
いや、普通に酢漬けも、ザワークラウト風もあるよ。
塩漬けは、まぁ…例によって例のごとく姉貴の拘りだ。
これら塩漬けがまた美味いんだよ。
古くなった塩漬けを水に浸けて塩を抜き──魚醤をたらして食べても旨いし、浅漬けもなかなかいける。
キャベツとかカブの浅漬けなんてちょっとしたもんだぞ。病みつきになる味だ。
乾燥させた昆布を入れるのがコツだ。
これ、なんで誰もやらないのか不思議。
村でも乾燥昆布は作っているが、誰も食べない。
主に輸出用だとか?
これを常食するほど好きな国があるんだとさ。まぁ姉貴拘りの国ね。
ちなみに大抵の村人だとか、王国民の考えだと海のゴミだなんて言っている。
俺は好きだけどね。
ま、人ぞれぞれ。
酒場に飲みに来る連中は、多分、それと知らずに食っているのだろう。
シャクシャクとした食感と塩味を楽しみながら、少ない客のおかげでキナと談笑しつつ酒を飲む。
余裕があるのでキナにも酌をしてやる。
微笑を浮かべたキナが小さな口で御猪口を啜り、白い喉が艶めかしく動く。
白い肌がほんのりと赤くなり、なんとなく色気を感じてしまった。
キナの場合耳が赤くなるから反応が分かりやすい。
機嫌が良いのか終始耳がピクピク動いていて、どこか小動物のソレを思い起こさせる。
俺がキナを独り占めしているのが気に食わないのか、酒が飲めるだけの稼ぎを出している冒険者が剣呑な空気を出しているが…知らんがな。
そういえば漁師連中も、ジロジロとバズゥを見ている。
お前らは金払っとらんだろうが! ───今日は払うかどうか知らんが、な。
ったく、気分悪いぜ。──キナ、オカワリぷりーず。
すぐに徳利を準備し、笑顔で酌をしてくれるキナ。
一息で飲み干し、キナにも返杯。
「ふふふ、ありがとう」
クィっとその小さな体で飲み干し、熱い息を吐く。
そして、バズゥのツマミを指でつまんで、チュプンと口に入れると美味しそうにコリコリと歯音を立てる。
ペロっと指についた塩分を舐めとると、お行儀悪さに気付いたのかテヘっと、舌を出して笑う。
はっはっは。愛いやつじゃ。
頭をカイグリカイグリしてやる…
諸所の仕草にふと、エリンを思い出すバズゥ。キナが似ているのか、エリンが似たのかどっちだが…
それでもやはり、似ているな──と。
その背後で、ようやく漁師でもが動き出した。
キナがあまり相手をしないものだから面白くなさそうに席を立つと、───払うそぶりも見せず店を出ようとする。
が、
「おぅ、待てゴラ」
ガシっと一人の首根っこを掴む。
グエっ、とか言うが──知らん。
「な、なんだよ!? バズゥ、てめ」
パグシと掴んでいた奴を押しつけ黙らせる。
「お代はどうした? あぁおぃ?」
チンピラ口調全開で漁師に詰め寄る。
「はぁ? 何言ってんだ? おめぇ帰ってきて挨拶もしねぇで偉そうだ──ワピュっ」
うるさい輩の鼻をつまんでギリギリと捻る。
こいつがリーダー格なのだろうか。
「ヒデデデデデデェェェ」
ギリギリと力を込めて引きちぎらんばかり、
「バズゥ、てめぇ!」「放しやがれ!」「ざっけんなよ、コラぁぁ」
と威勢だけはいい連中。
3人がかりでバズゥに組み付くがビクともしない。
「取れる、取れるうぅぅぅ…」
キナは目を伏せて、見ない様にしているが、顔は悲しげだ。
お前が気にすることじゃない…俺の責任でやっていることだ──気にするな。
「もういっぺんだけ聞くぞ…──お・代・は・ど・う・し・た?」
ギュリっと、最後のきつく一捻りしてから解放してやる。んで、お前らは邪魔だ、どけ。───ブングと振り払う。
真っ赤になった鼻を押さえて悶絶する漁師のリーダー格と、振り払われ尻もちをつくその他漁師たち。
「な、なんだよ!? 急にぃぃ!」
鼻を抑えて涙目の漁師がバズゥを見上げる。
それを視線で射抜いていると、
「お代だぁ!? 知るかよ、この借金まみれの阿婆擦れに払う金なんかねぇよ──ゴォフッッ」
メキョっと顔面につま先をっ叩き込む。
真っ赤な鼻からは嫌な音が響き、真っ黒に濁った血がドロリと出る。
「あ゛あ゛あ゛ん!?」
シンと酒場が静まり返る。
元々少ない客のせいで、余計にそれを感じさせる。
「おう、ゴラ…今なんつった」
ドクドクと溢れる鼻血にもめげずに、漁師は涙目でバズゥを見据える。
──…おーおー、さすが海の男。…気合入れるとこ間違ってねぇか?
「ぐ、ぐぼ…あ、阿婆擦れはアバズレだろうが!! 借金まみれで何れ、どこぞで買われるんだろうが!」
はっはっはぁぁ!! ──死刑だな。
「おーおーおーおーおーおー! よく言えたなお前? 凄いわ、感心するわ……で、それが事実だったとして───」
一拍置くと、
「お前らが金を払わん理由と、何の関係があるんじゃァぁぁぁぁぁ!!!」
ブシっと目の前の漁師の耳から血が溢れる。
余りの大声に店内がビリビリと震え、食器が一枚床に落ち割れる。
「ぐぉぉあ…」
リーダー格の男は白目をむいてぶっ倒れる。
ち…
「おう、お前ら、…本心か? 今のは?」
残りの漁師どもに詰め寄る。
冒険者どもは成り行きを見守っているが、漁師には汚いものを見るような目を向けている。──お前らも似たようなもんだがな…
キナは……ペタンと尻もちをついて、ショックを受けたような顔───
まさか、そんな言葉で罵られるとは思っていなかったのだろう。
村人のことも信頼していた節がある。
確かに悪人ではないが…世の中こんな連中ばっかだぞ、キナ。まだマシな部類だ、こんな連中でもな。
だから、キナ。
今日で終わりにするさ。
こいつらみたいなのは、もう店には入れさせないし、──あんな言葉は、二度と言わせない。
だからさ、泣くな…キナ。
蒼白になった顔のキナ。
体に力が入らないのか、別の理由か──ガクガクと震えている。
ゴメン、すまん…また、やり方をマズったかもな──俺は対人コミュ力がないんだわ。
「なんとか、言えや」
漁師の一人の胸倉を掴み、吊り上げる。
「ググググ…離せ…」
ゲホゲホとせき込みつつも、口は減らない。
「離してほしけりゃ話せ、おう…コラ、お前らもだ」
残り二人に目を向け威圧する。
腕まくりしてバズゥに殴り掛からんとしているが…お前らマジで舐めてんの?
なぁよ、おぉい。
俺が殴られる理由…なんかあんのか、おぃ?
ここは俺の店で、俺の家。
そして、お前らは酒飲んでツマミ食って…金を払わず出ていったんだろうがよ…あぁおぃ!?
「はっ…屑だわお前ら。いいぜ、まとめてかかってこいや、キナに言った言葉の落とし前つけてもらおうか、あぁぁん!」
ブンと、吊り上げていた男を残りの連中にぶん投げる。
受け止めるなどできるはずもなく、まとめて転がる漁師ども。
ぐあぁぁ~、とか言いながら転がると、テーブルの一つに突っ込み──ガチャンパリン、と派手に食器が割れ砕けていく。
起き上がるのを待って、クイクイと手で煽り挑発。
そういえば、ハバナが言っていたな。
地元じゃ最強だ、ってか? と───そうだよ、地元じゃ最強さ! 文句あるか?
「クソガキがぁぁ!!」
ガキって歳でもないんだがな、と。漁師の大ぶりのスイングを躱すと、カウンターを放つ。
ゴギャァァンと、喧嘩やおおよそ人を殴る時に出るような音ではないソレが響き。
見ていた冒険者が「うわっ」と顔を逸らす。
───殺しはしねぇよ…
前歯がポロポロとはじけ飛び、いくつかがバズゥの拳に張り付いている。
その歯を指でつまんでポイスと投げ捨てると、
吹っ飛ばした隙をついて、漁師の一人は椅子を構えてバズゥに振り下ろす。
効くかぁぁ、と腕で払いのけると勢い余って椅子が粉々に砕け散る。──弁償はお前ら持ちだからな。
払いのけた腕を戻しざまに、漁師の頭を掴むと───
おおらぁぁぁぁ!!!
遠心力と、落下する体重に重量を加算して、
砕けた椅子を呆然と見ていた表情のまま、強引に床にキスをさせる。
酔客の吐しゃ物が混じったこともあるだろう土間と連続するの床に無理やり叩きつけられた漁師は、…まず鼻が折れ、…次に前歯が折れ、…その他幾つかの歯が砕け散り──顎を酷く損傷して撃沈する。
ピクピク動いているので死んではいない。───死んでも知らんが、な…手加減はしてやる。
で、最後の一人はぁぁ、と。
割れた食器の尖った切っ先を手に、完全に殺す気でバズゥの脇腹を狙う。
おーおーおーおーおー…――凶器を持ったら喧嘩じゃないんだよ、ゴラァ!!
躱すまでもなく、その腕に肘鉄を落とす。
メキメキと骨が折れる音が響き、食器を取り落とすとともに、耳障りな絶叫が酒場に響いた。
おぉら、喋れる程度に手加減してやったぜ。
「ひぃひぃひぃぃぃぃ……」
ダラダラと脂汗を流しながら、呻く漁師。
「ひぃ、じゃねぇんだよ。オラ、なんとか言えや」
キナがアバズレだとぉぉ…はっはっはぁー! 叔父さん激おこですよ。もうマジで。
ズンと男の胸に足を乗せ床に蹴り転がす。
「ひぎぃぃぃ…!!」
ちょっとでも動かすと、痛むのだろう。やめてやめてと首を振る。───知らんよ。
「で~、…お前らなんでお代払わなくていいとか思ったんだ、ぁぁ!?」
チョンと折れた部分を軽く蹴る。
喋らなければもっと痛いぞ、と。
「ぐぅぅぅ…バぁぁぁぁズゥぅぅぅぅ…!」
はいはい。俺悪者ですよ~──何でもええから、はよ喋れや。
「そ、そ、そのガキが、漁労組合で借金背負ってたんだよ!」
それは知ってる…──で?
「だ、だ、だから漁師はみんな迷惑してたんだ! だ、だ、だ、だからさ」
はぁ?
「お前がどう迷惑するんだよ?」
「そ、そりゃ、お、お、お前…色々さ!」
アホかコイツ。
「色々ってなんだよ? 一個でも言ってみろや、具体的によぉ」
……
…
「言えや」
…
……
「ぐぅ!」
はぁぁぁ~……
「ぐぅ! じゃ、ねぇんだよ!! おらぁ!」
ガンと、折れた腕を蹴飛ばしてやる。
「ギィィィアアアアアアアア!!!」
口から泡を噴き出しながらのたうち回るが、バズゥは足をどけない。
胸を押さえつけて男を拘束する。
「お前らはよぉ! キナが引け目感じていることを良いことにぃぃぃ、集ってただけだろうがよぉ!!」
違うなら言ってみろやぁ! と、トドメの一発をブチかまそうとする。
それを止める者が、足に縋りつく。
「止めて! 止めてバズゥ! もういい、もういいから!!!」
キナ…
それはできない。
できないよ…キナ。
落とし前はつけなきゃならない…
中途半端が一番ダメなんだ。
「やだやだやだやだやだ! 止めてバズゥぅぅぅ! お願い!」
キナは足に縋りつき離れない。これをどかせることは簡単だが…
それでもキナは自分からは離れようとしないだろう。
それどころか、ズルズルと這って進み。
体全体で、服が汚れるのも構わず──漁師に覆いかぶさり、バズゥの一撃から守ろうとする。
「お願い…バズゥぅぅぅ…お願い、もうやめて」
見る者の心を引き裂かんばかりの悲鳴に、バズゥも躊躇いを感じる───
だが、
「キナ、どけ」
キナに苛立ちを…
それ以上に──漁師たちに猛烈に腹が立った…!
殺意を抱く以上に、滅びてしまえと!
純粋なキナを食い物にして、平気でいられる此奴らの神経と、そして――その庇われる姿を受け入れている漁師の薄汚さにぃぃ!
キィィィナぁぁぁぁぁ!!!
「殺しゃしねぇよぉぉぉ!」
そうとも殺す価値もない。だから腕一本ぶっちぎれるかもしれない激痛で勘弁してやるよ!
足では、キナを巻き込む。
だから、ぶん殴ってブチ折ってやらぁぁ!!




