第37話「君らは仕事を舐めとるのかね!?」
あぁ、俺たちの家だ。
なぁ、キナ──
うん…
───ただいま…
「おかえりぃ」
帰れ。
「ちょちょちょちょ…!?」
キョヌー魔法使い事ジーマの首根っこを掴んで外に追い出す。
せっかく帰ってきたのに、第一声がこのくそアマとは…気分ガタ落ちでんがな。
「バズゥぅぅ…」
容赦ないバズゥをキナが諫める。
キナちゃん。
───キョヌーは正義だが、くそアマはゴミ箱行きなんだよ。
「誰がくそアマよ!」
あら、口に出てた。
「キョヌーは事実だけど!」
そこは認めちゃうんだ。まぁ事実だけど。
「で、なんだ? 仕事はどうした?」
たしか、ケント君と害獣退治の依頼を受注したはずだ。
「そ~んなもん、とっくよ!」
嘘つけ。
ゆえに軽口一つ、
「へ~へ~寝言は寝てから言いなさい」
全く取り合わずに店の奥へと向かう。
「ジーマさん、私が承りますよ」
天使っ子キナちゃんが、くそアマの相手をしている。
そんなキョヌーほっとけよ。
バズゥは気にせず住居部に入ると、荷物を放り出した。
そして、身軽な恰好になると、鉈だけを手にして店に戻ると…
店内に幾人かいた冒険者が、ギョッと目をむく。
──なんだよ?
……お前ら、仕事終わったんだろうな?
ジロっと睨むと知らんぷりして、コップの中身を啜ってやがる──…っておい。その目の前にあるの、酒じゃねぇだろな!?
勝手に飲むなと言っていたはずだが……酒だったら、ブッ殺ですよ。
…あ、水ね。しゃあない水くらいサービスしてやる。
フンスと、鼻息を鳴らして店を出る。
鉈だけを担いで店内を横切るものだから、冒険者どもがビクビクしていやがったな。
そら、ボロボロの軍服を着た男が、鉈を持って急に店の奥から出てきたらビビるわな。ケケケ。
冒険者どもをビビらせることに全くの罪悪感もなく、店の前から廻って──斜面に接する小さなスペースに足を運ぶ。
斜面を彫り込んだような立地のため、文字通り猫の額ほどの敷地面積しかないわけだが、利点もある。
石清水が滲み出しているのだ。
とはいえ、コレかなり硬度が高く飲用には適していない。
利用方法は専らこれ──お風呂。
結構大きめの木枠に水を張るタイプ。囲いは3面のみで、正面を防ぐものはないが開放感だけはある。
そして、まぁー…景色のいい事に海が見える。
オーシャンビューってやつ?
ま、代わり映えしない景色なんだけどね。
それでも、夕方が近くなるこの時間──海がオレンジ色に染まっていく感じは美しいと…柄にもなく感じてしまう。
さて、海の景色はこれまでとして──薪割り実施!
山から切り出した木材なので、いくつか生木も交じっている。
それらを上手く選別しながらパッカンパッカンと切り出していく。
これまでキナがどうやっていたか気になるが、風呂には使われた形跡がある。
多分、冒険者どもが勝手に使っていたのだろう。
キナに薪割りをやらせていたとしたら、その辺キチンとお話ししないとなっ。
薪は風呂に併設されているボイラーにくべる。
点火は、『猟師』スキルの文字通り「点火」を使用。これが結構便利。
魔法ではなく、火打石や硫黄の様なものらしい。
弾いた指から軽快な音とともに火が起こる。
猟師レベルMAXなら、ちょっとしたもんだぜ?
なんたって薪に引火するのに、熾火なんかを利用しなくても燃やせるんだからな。
パチパチと音を立てて薪が燃えていく。
ボイラー内には誰かが使用していたらしい水が、既に溜められているため、後は待つだけでよい。
焚きすぎ注意──それだけ気を付けよう。
しばらく薪の火を調整しつつ、火が落ち着いたのを確認すると、いくつか薪を足したうえで店内に戻った。
いつの間にか結構な数の冒険者どもが戻ってきたらしい。
店内で思い思いの席にかけて、メシをかっ喰らっている。
…
「キナ」
「も、貰いました」
キナがモジモジしながらカウンターに積まれた銅貨を指さす。
「ん」
頭をカイグリカイグリとしてやる。
プゥと頬を膨らませて、私できるもん! と拗ねる。
はっはっはっ! ──可愛いのぉ。
冒険者どもも、ヘヘヘと頭を掻きながら「頂ます」とか言って…安いメシにありついている。
そしてやっぱり、キナのサービス付き。
黒パンに薄いスープは変わらないが、燻製にした赤魚と野菜のマリネ付き。そこに薄い濁酒が付く。
まぁ、そこはキナのさせたいようにするさ。
本当はサービスも止めさせた方がいいのだろうが、キナはさすがに粗食すぎると冒険者を案じているようだ。
マジ天使やわ、キナさん。
「キナ、依頼書をみせてくれ」
ふと気になって依頼書を確認しようと思いつく。
はい、と手渡されたのは、ジーマパーティのもの。
ふむふむ……
……
〇『害獣駆除』→ジーマ&ケント⇒達成
〇『子守り』→シェイ(素手武道家くん)⇒失敗
〇『収穫作業の手伝い』→ウル(銅の剣くん)⇒失敗
……
…
銅の剣ぇ…
……
…
お話しが必要なようだな。
「シェイ君、ウル君、ちょっと来なさい」
飯をクッチャクッチャと頬張っている、冒険者2人。武道家(笑)と銅の剣だ。
自分の顔を指さしている。──そうだよ、お前等だよ!
ってか、お前等なんでメシ食ってんの?
ねぇねぇ叔父さん、そこんとこも聞きたいわ~
「何すか? 何すか?」「はいは~い?」
……軽いね君たち。
「言いたいことがいくつがあるが…」
「?」「?」
───な・ん・で、『子守り』と『収穫作業』を失敗しとんじゃぁっぁぁぁぁぁっぁぁぁ!!───
ビリビリビリビリビリビリィ!! と俺の絶叫が店内を震わせる。
キナちゃんもびっくりして、ひっくり返ってまんがな…
冒険者どもは、噴水のごとくメシを吹き出している。
なんで、文無しが飯くっとんねん!?
「キナ!」
「は、はぃぃ!?」
腰が抜けたまま、おっかなびっくり返事する美少女。
「ハイデマン家の家訓!!」
「は、働かざるもの食うべからず!」
その通り!
「シェイ君、ウル君……メシ抜きな」
ってなんで、そんな敵愾心むき出しの目で睨むねん!
「横暴だ、おーぼー」「金払ったぞ! 文句あるか!」
プンスカ起こるシェイ&ウル。
もうこの子ら救いようがないわ…
「ジーマちゃん?」
我関せずとばかり、モッシモッシと口の中にパンを詰め込む孤高のキョヌー。
「アニよ? 私は仕事終わったわよ」
ポロポロと、口から零しなさんなや。
「こいつらに奢ったの?」
こいつらこと、シェイ&ウルを指さす。
「そうよ? なんか文句ある?」
大いにある。
もの凄くある。
すっごいあります。
「お前さんのツケ、後ナンボよ?」
ジロっと睨むと…ジーマがギクリと身を震わせる。
「キナ?」
「ジーマさんは、まだその…全然…」
ほぉらみろ。
メシ代も返せないのに──────、
「人様のメシ代を返してから奢れやボォォケェェェ!!!」
ガッチャ~ンとお皿が割れ飛ぶほどの声量。
ちなみに割ったのはジーマだ。──…それもツケな。
「な!」「なな!!」「ななな!!!」
って、なんでジーマ以外もビックリしとんねん。
ちょい待てやお前等…もしかして…
「キナちゃん、依頼書全部」
「は、ははいぃぃ」
キナが慌てて、依頼書の残りを手渡す───
〇『昆布干し』⇒失敗
〇『魚介類加工手伝い』⇒失敗
〇『配達』⇒失敗
〇『子守り』⇒失敗
〇『子守り』⇒達成
〇『子守り』⇒失敗
〇〇〇〇〇失敗失敗失敗失敗失敗達成失敗失敗…───
……
…
「ほとんど、失敗しとるやないかぁぁぁぁい!!!!!」




